統一理論への道 第2回 (1) 4つの力と「振動するひも」
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◆統一理論への道 第2回 (1) 4つの力と「振動するひも」
◆◇◆自然界の4つの力
1 9世紀末の最初の素粒子発見以来、素粒子の世界を探ることにより、 自然は複雑であっても、それを支配しているのがたった 4つの力であることが分かった。これは20世紀の科学が生み出した偉大な成果の一つである。
自然力の4つの力とは、、 強い力 、電磁気力 、弱い力、 重力 の4つである。
▼自然界の4つの力
自然界の4つの力:
●強い力は、陽子と中性子をもとに原子核を形成する。また、太陽エネルギーを作り出して、地球上の全生物のエネルギーの源となっている。
●電磁気力は原子、分子を作り、また、虹、雷、オーロラなどの自然現象を起こす。
●弱い力は不安定な原子核を崩壊させるが、地熱はまさに地球内部の物質の放射線崩壊によって作り出されたと考えられている。
●重力は巨大な宇宙の構造を形作る。
強い力から重力まで、力の大きさは40桁も違う。
◆重力
最も馴染みのある力は重力。すべての素粒子に引力(万有引力)として働く。他 の力と比べると非常に小さく、通常、素粒子の世界で は無視することができる。重力は遮られれることな く無限遠まで働くため、マクロの世界を支配している。地球、太陽、銀河系などの天体の運行を司り、巨大な宇宙の構造を作り出している。また、ビックバ ンによる宇宙創成直後の超々高エネルギーの素粒子の 世界では、他の力とともに重要になってくる。
重力は、重力子の交換によって伝わる。重力子は質量を持たないので無限の遠方までとどく。
重力=重力子の交換
重力は質量に比例する。一方、質量はエネルギーと等価である。
従って、重力はすべての粒子に働く。しかし、素粒子の質量は非常に小さく、現在の加速器で到達できるようなエネルギーでは素粒子間の重力は非常に小さく無視できるが、ビッグバンによる宇宙創成直後のような超々高エネルギーでは重要になってくる。
◆電磁気力
電磁気力は、電荷や磁気能率 を持つすべての素粒子に働く。電磁気力は電気力 と磁気力の2つの力として身近にあるが、 それらが同一のものであることは19世紀には、すでに、 わかっていた。この電磁気力は電子と原子核から 原子を作り、また、幾つかの原子から分子を作ってい る。粒子加速器の加速原理ともなる力で、放射光も 作り出している。また、エレクトロニクスを始めと して、現代社会では最も有用な力となっている。
よく知られている静電気や磁石の力だけでなく、日常経験する重力以外のすべての力は電磁気力である。 特に、電子と原子核を結びつけ原子を作る力、原子同士を結びつけ分子を作る力は、電磁気力である。 電磁気力は、光子の交換によって伝わる。光子は質量を持たないので、遮られなければ電磁気力も遠くまでとどく。
電磁気力=光子の交換
電磁気力は電荷に比例する。電荷を持った粒子は、目に見えない光子(仮想光子)をお手玉しながら走っている。言い換えれば、電荷粒子は光子の衣を着ている。
電子が電磁石などで急に向きを変えられると、光子の衣が引きちぎられて飛び出す。これが放射光である。
◆弱い力
弱い力は非常な短距離間でのみ働く。通常、 電磁気力よりもはるかに弱い。すべてのクォ ーク、レプトンに働く。弱い力は原子核を放射崩壊させる力である。また、中性子、パイ中間子などの粒子も 崩壊させる。
これは、原子核のベータ崩壊、中性子、パイ中間子などの粒子の崩壊の原因となる(粒子の種類を変えることのできる)力です。日常は経験することのない力ですが、ミクロの世界では重要な役割を果たしている。
弱い力=W,Z粒子の交換
弱い力を媒介する力の粒子、Wボソン、Z ボソンは大きな質量を持っている。そのため、力の本質的な強さを表す結合定数は電磁気力と同程度だが、力が届く距離が非常に短く、力の見かけの強さが弱く見える。力の強さが弱すぎて、日常世界で感じることはない。
W粒子や、Z粒子は、もともと光子と同様に質量を持たないゲージ粒子だが、真空中のヒッグス場との相互作用により質量を持ったと考えられている。ヒッグス場との相互作用がなければ、これらの力の粒子の運ぶ力は、もともとは同じものだと考えられている。そこで、現在では、光子の伝える電磁気力と、WやZが伝える弱い力は、電弱力としてまとめられている。
◆強い力
カラー荷を持つ素粒子に働く。電磁気力の100 倍程の大きさを持つ最も強い力である。そのため、陽子 同士の間に働く電気的な斥力に打ち勝って、中性子と ともに原子核を作る。ただし、この力は陽子、中性子内部のカラー荷を感ずるくらい互いに十分に重な り合ってやっと働く短距離力である。それは、陽子など が赤、青、緑の3種類の『カラー(色)』をそれぞれ持 つ3つのクォークの作る複合粒子で、全体として白色 となりカラー荷を持っていないためである。また、クォ ークと反クォークから成るパイ中間子などは、そのク ォークのカラー荷が反クォークの反カラー荷と打ち消 し合い白色となっている。このように直接観測される粒子はすべて,裸のカラー荷を持っていない。
強い力=グルーオンの交換
強い力はカラー荷に比例します。クォークのカラー荷には、赤、青、緑の三原色(もちろん本当の色ではない)がある。強い力を媒介する力の粒子グルーオンには白を除く色の組み合わせ 。
3(赤、青、緑)×3(反赤、反青、反緑)-1(白)=8
つまり8種類あり、いずれも質量を持たない。しかし、グルーオン自体がカラーを持ちグルーオンをお手玉するので、力は距離が離れるほど強くなり、核子(陽子、中性子)の大きさ程度以上の距離になると全体として白色の状態しか安定に存在できない。(カラーの閉じこめ)
従って、強い力の到達距離は、グルーオンが質量を持たないにもかかわらず短く、日常感じることはない。
◆電磁気力、弱い力、強い力の3つの力を量子論的に解明
◆◆標準理論の確立
標準模型は基本的な相互作用とされる4つの力のうち、電磁気力、弱い力、強い力の3つの力をヤン=ミルズ理論に基づき量子論的に記述することに成功している。
標準模型(Standard Model)とは、素粒子物理学において、強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用の3つの基本的な相互作用を記述するための理論。
標準模型は、強い相互作用についての量子色力学、弱い相互作用と電磁相互作用についてのワインバーグ=サラム理論をあわせた SU(3)c×SU(2)L×U(1)Y ゲージ対称性に基づいて、ヒッグス機構による真空の対称性の破れとフェルミオンの質量獲得、アノマリーの相殺の要請によるフェルミオンの世代構造と世代間混合とCP対称性の破れについての小林・益川理論などの理論の総称である。
標準模型は特殊相対性理論と整合する量子論として、場の量子論的方法で記述されている。
◆ゲージ粒子
標準模型はヤン=ミルズ理論に従い、それぞれのゲージ群に対応するゲージ粒子が存在する。
SU(3)Cに対応するゲージ粒子はグルーオンと呼ばれている。
SU(2)LとU(1)Yに対応するゲージ粒子に関しては、ヒッグス機構によりゲージ場の混合と質量の獲得が起こるので、多少複雑な様相を呈する。 ウィークアイソスピン SU(2)L の非対角成分は質量を獲得してWボソンとなり、対角成分とウィークハイパーチャージ U(1)Y は交じり合って、質量を獲得するZボソンと質量を獲得しない光子になる。
◆フェルミオン
フェルミオンは強い相互作用をするクォークと、強い相互作用をしないレプトンに分けられる。 さらに、クォークとレプトンは、それぞれ左手型(left-handed)粒子と右手型(right-handed)粒子に分類することができる。 標準模型における左手型粒子は電弱相互作用のウィークアイソスピンを持つが、右手型粒子は持たない。 そのため、左手型粒子と右手型粒子ではゲージ相互作用の形が異なり、標準模型はゲージ相互作用に関してカイラルな理論となっている。 また、この性質のために、電弱対称性がヒッグス機構によって破れないかぎり、全てのクォークとレプトンは質量を持つことができない。 全てのクォークと荷電レプトンは、ヒッグス機構によって質量を獲得する。ニュートリノは標準模型の範囲内では質量を持つことはない。
フェルミオンは左手型クォークと左手型レプトン、右手型アップクォークと右手型ダウンクォーク、右手型荷電レプトンで世代と呼ばれるグループを構成する。 一般に、ゲージ相互作用を含む模型については、カイラルアノマリーと重力アノマリーが相殺されている必要があるが、 世代を構成するフェルミオンの間でアノマリーが相殺される構成になっている。 標準模型は、3世代のクォークとレプトンが存在する。 小林・益川理論によると、フェルミオンの混合によりCP対称性が破れる為には3世代以上のフェルミオンが必要である。 実際に、フェルミオンの混合に起因するCP対称性の破れは実験で確認されており、標準模型による予言と良く一致することが確かめられている。
◆ヒッグス粒子
標準模型では、ヒッグス機構により電弱対称性が自発的に破れる。 一般に場の揺らぎは粒子として解釈されるが、ヒッグス場の4つある揺らぎの自由度のうち3つは、WボソンとZボソンが質量を持つことに伴い、その縦波成分として吸収される。 残りの1自由度は、スピン0のスカラー粒子であるヒッグス粒子としてあらわれる。 2012年7月にジュネーブ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)で行われているLHC実験により新粒子の発見が発表された[2]。 この新粒子の性質はヒッグス粒子と良く一致しており、その後のスピン-パリティ観測、崩壊後粒子の信号強度の検証により標準模型におけるヒッグス粒子、およびこれを内包する理論によるヒッグス粒子であることが認定された。
◆◆標準理論確立の歴史
1928年 - ポール・ディラックが相対論的量子力学により、電子の反粒子の存在を予言。
1931年 - ヴォルフガング・パウリがニュートリノの存在を予言。
1932年 - カール・デイヴィッド・アンダーソンにより、電子の反粒子である陽電子が発見される。
1948年 - 朝永振一郎、リチャード・P・ファインマン、ジュリアン・シュウィンガーによる量子電磁力学の繰り込みの発表。
1954年 - 楊振寧、ロバート・ミルズによりヤン・ミルズ理論が発表される。
1956年 - 楊振寧、李政道によるパリティの破れの予言。
フレデリック・ライネス、クライド・カワンらによるニュートリノの発見。
1957年 - 呉健雄らのグループがコバルト60のベータ崩壊においてパリティが破れていることを観測する。
1964年 - ジェイムズ・クローニン、ヴァル・フィッチらのグループにより、K中間子の崩壊においてCP対称性が破れていることを観測される。
マレー・ゲルマンによりクォーク模型が提唱される。
ピーター・ヒッグスによりヒッグス機構が提唱される。
1967年 - スティーブン・ワインバーグにより後のワインバーグ=サラム理論が発表される。
(1968年にアブドゥッサラームも独立に発表。)
1971年 - ヘーラルト・トホーフト、マルティヌス・フェルトマンがヤン・ミルズ理論の繰り込みに成功。
1973年 - 小林誠と益川敏英により小林・益川理論が提唱される。
デイビッド・グロスとフランク・ウィルチェック、H. デビッド・ポリツァーによる漸近的自由性の発見
ガーガメル実験(en:Gargamelle)により、中性カレント反応(Zボゾンを介した相互作用)が発見される。
1974年 - サミュエル・ティンらのグループ、バートン・リヒターらのグループにより、独立にジェイプサイ中間子(チャームクォーク)が発見される。(11月革命)
1977年 - レオン・レーダーマンらのグループにより、ウプシロン中間子(ボトムクォーク)が発見される。
1983年 - カルロ・ルビア、シモン・ファンデルメールらのグループにより、Wボソン、Zボソンの発見。
1995年 - テバトロン実験により、トップクォークが発見される。
2012年 - LHC実験によりヒッグス粒子が発見される。
◆◆素粒子発見の年表
◆1890年代
1897年:電子がジョセフ・ジョン・トムソンによって発見される。
1899年:アルファ粒子(アルファ線)がアーネスト・ラザフォードによってウランの放射線から発見される。
◆1900年代
1900年:ガンマ線(高エネルギーの光子)がポール・ヴィラールによってウラン放射線の中に発見される。
1909年:原子と分子の実在がジャン・ペランの実験(アボガドロ数の測定)によって証明される。
◆1910年代
1911年:原子核がアーネスト・ラザフォードにより同定される。1909年に ラザフォード、ハンス・ガイガーとアーネスト・マースデンと共におこなったラザフォード散乱実験から導き出した。これにより原子核モデルが確立する。
1919年:陽子がアーネスト・ラザフォードによって発見される。
◆1920年代
1920年:アーネスト・ラザフォードが中性子の存在の予想をする。
1927年:ポール・ディラックが陽電子の存在の予想をする。
◆1930年代
1931年:ヴォルフガング・パウリがベータ崩壊を説明するために、ニュートリノの存在を予想する。
1932年:中性子をジェームズ・チャドウィックが発見する。
1932年:陽電子をカール・アンダーソンが発見する。
1934年:湯川秀樹がパイ中間子の存在を予想する。
1937年:ミューオンをセス・ネッダーマイヤー、カール・アンダーソン、J・C・ストリート、E・C・スティーブンソンが、霧箱を使って、宇宙線から発見する(1947年までパイ中間子だと思われていた)。
◆1940年代
1947年:パイ中間子をセシル・パウエルが発見する。
1947年:K中間子をG・D・ロチェスター、C・C・バトラーが発見する(新たな量子数ストレンジネスを導入する必要のある最初の粒子)。
◆1950年代
1952年:K中間子、Λ粒子、Σ粒子、Ξ粒子がブルックヘブン国立研究所の陽子加速器により発見される。
1955年:反陽子をオーウェン・チェンバレン、エミリオ・セグレ、トーマス・イプシランティスが発見する。
1956年:ニュートリノがフレデリック・ライネス、クライド・コーワンにより発見される。原子炉からの発生の証拠を示した。
◆1960年代
1962年:電子ニュートリノとμニュートリノが別のものであることをレオン・レーダーマンらのグループが証明する。
1963年:マレー・ゲルマン、ジョージ・ツワイクがクォーク模型を提案する。
1964年: ピーター・ヒッグスが電弱対称性の破れの理論からヒッグス粒子の存在を予測する。
1969年:パートンがSLACの陽子標的による電子の深非弾性散乱実験により発見される。ハドロン(中性子・陽子など)が内部構造(陽子がいくつかの点状粒子から構成されている)をもつことがファインマンのパートン・モデルで示された。マレー・ゲルマンの予測した3種類のクォーク(アップ、ダウン、ストレンジ)が発見がされた。
◆1970年代
1970年:ブヨルケン、シェルドン・グラショー、イリオポロス、ルチャーノ・マイアーニが J/ψ粒子を予測する。
1973年:小林誠・益川敏英がウプシロン粒子存在の予測をした。
1974年:J/ψ粒子をスタンフォード線形加速器センターのバートン・リヒターとブルックヘブン国立研究所のサミュエル・ティンが同時に発見した。 これによりチャームクォークが存在することが示された。
1975年:タウ粒子をマーチン・パールが発見する。
1977年:ウプシロン粒子(ボトムクオークと反ボトムクオークで構成する中間子)がフェルミ研究所で山内泰二を含むグループにより発見され、ボトムクオークの存在が示された。
1979年:グルーオンがドイツ電子シンクロトロン研究所 (DESY) で間接的に観察される。
◆1980年代
1983年:Wボソン、Zボソンをカルロ・ルビア、シモン・ファンデルメールと欧州原子核研究機構 (CERN) UA-1が共同で 発見する[24][25](これらのボソンは1960年代にシェルドン・グラショー、アブドゥッサラーム、スティーヴン・ワインバーグらによって予測されていた)。
◆1990年代
1995年:トップクォークがフェルミ研究所で発見される。
◆2000年代
2000年: タウニュートリノがフェルミ研究所で発見される。ほかのニュートリノとは異なることが証明された。
2003年: X(3872)がKEKB加速器で発見される。2個の中間子が強い相互作用で結合した中間子分子と予想されたものの中では初の発見。
2011年: 反ヘリウム-4がスター検出器(英語版)で生成され、計測された.
2011年: χ_b (3P)がLHCで発見された.
2012年: 2011年末にCERNのLarge Hadron Colliderのコンパクトミューオンソレノイドを使い、研究者たちはすでに中性Xi-bバリオン(英語版)を発見していたのであるが、これのアナウンスがチューリッヒ大学であった。この発見はソレノイドを使った最初の素粒子の発見である。
2012年7月4日: CERNのLarge Hadron Colliderでヒッグス粒子と見られる新粒子を標準偏差4.9で確認。
◆重力理論と素粒子の量子理論の統合の試み
◆量子重力理論
量子重力理論(quantum gravity theory)は、重力相互作用(重力)を量子化した理論である。単に量子重力(:Quantum Gravity, Quantum Gravitation)または重力の量子論(Quantum Theory of Gravity)などとも呼ばれる。
ユダヤ系ロシア人のマトベイ・ブロンスタインがパイオニアとされる。一般相対性理論と量子力学の双方を統一する理論と期待されている。その最有力候補が「ひも理論」である。
▼陽子同士を衝突させハドロンジェットと電子に崩壊することで生成されるヒッグス粒子を描くLHC CMS検出器データのシミュレーション結果
量子重力理論の主要な研究対象としてブラックホールが挙げられる。ブラックホールの内部では一般相対性理論が破綻をきたすと考えられており、そこでは時空を量子化した理論が有効である。この方向による最近の発展ではホログラフィック原理が挙げられる。これはブラックホールの内部の情報量の保存限界はその体積ではなく表面積に依存するというものである。これはひも理論のメンブレーンに通じるものがある。またAdS/CFT対応としてある種の物理が多様体の境界に還元できるという考え方もある。
いずれにしても量子重力を考える上で最大の問題点はその指針とすべき基本的な原理がよく分かっていないということである。そもそも重力は自然界に存在する四つの力(基本相互作用)の中で最も弱く、量子化された重力が関係していると考えられる現象が現在到達できるレベルでは観測されていないのである。
◆点から「ひも」へ・・・・ひも理論の登場
超弦理論が登場する以前に最も小さなスケールを記述した理論は場の量子論である。そこでは粒子を点、すなわち点粒子として扱ってきた(局所場の理論に代わる、広がりを持った粒子の概念を導入したS行列理論や非局所場理論などもあった)。一方、超弦理論では粒子を弦の振動として表す。
▼オイラーの関数式が「ひも理論」の発見につながった。
◆超弦理論までの道のり
1950年代末から1960年代にかけて強い相互作用をする粒子(ハドロン)が多く発見され、それらの分類とその構成の成り立ちについての考察が始められた。超弦理論の元となった弦理論は、こうした粒子間に働く強い力の性質を記述するために考え出された。
1960年代、イタリアの物理学者、ガブリエーレ・ヴェネツィアーノが核子の内部で働く強い力の性質をベータ関数で表し、その式の示す構造が「弦 (string)」によって記述されることに南部陽一郎、レオナルド・サスキンド、ホルガー・ベック・ニールセンらが気付いたことから始まる。
弦理論では粒子を弦の振動として表す。
▼振動するエネルギーの「ひも」
その公式を元に、ハドロンは振動する弦であると発表したのが、1970年の南部陽一郎、レオナルド・サスキンド、ホルガー・ベック・ニールセンである。それぞれ独立に発表された彼らの弦理論では、ハドロンは粒子ではなく振動する弦から構成され、粒子はそれぞれの振動モードに対応するというものであった。ただしこの理論では、弦の振動に理論の不安定性を表すタキオンが含まれるという欠陥が内包されていた。
南部らの弦理論ではボース粒子のみを記述していてフェルミ粒子は扱えないという問題もあったが、当時はフェルミ粒子を含めてボース粒子以外の記述を弦理論を拡張することで解を得ようという学者は少数派であった。
1971年に、フランスのP.ラモン、A.ヌヴォ、アメリカのJ.シュワルツの3人によってボース粒子とフェルミ粒子の両方が扱える模型が提唱された。この模型が、超弦理論へと発展していくことになる。