【宇宙の神秘】 インフレーション理論とビッグバン宇宙論
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ビッグバン(英: Big Bang)とは、
ビッグバン理論(ビッグバン仮説)、つまり「この宇宙には始まりがあって、爆発のように膨張して現在のようになった」とする説
同説において想定されている、宇宙の最初期の超高温度・超高密度の状態のことである。
「ビッグバン」という語は、狭義では宇宙の(ハッブルの法則に従う)膨張が始まった時点を指す。その時刻は今から約138億年(1.38 × 1010年)前と計算されている。
ビッグバン理論に基づいたビッグバン・モデルでは、宇宙は時間と空間の区別がつかない一種の「無」の状態から忽然と誕生し、爆発的に膨張してきた、とされる。近年の観測値を根拠にした推定により、ビッグバンは約138億年前に起きたと推定されるようになった。
遠方の銀河がハッブルの法則に従って遠ざかっているという観測事実を、一般相対性理論を適用して解釈すれば、宇宙が膨張しているという結論が得られる。宇宙膨張を過去へと外挿すれば、宇宙の初期には全ての物質とエネルギーが一カ所に集まる高温度・高密度状態にあったことになる。この初期状態、またはこの状態からの爆発的膨張をビッグバンという。
この高温・高密度の状態よりさらに以前については、一般相対性理論によれば重力的特異点になるが、物理学者たちの間でこの時点の宇宙に何が起きたかについては広く合意されているモデルはない。
20世紀前半でも、天文学者も含めて人々は宇宙は不変で定常的だと考えていた。ハッブルの観測によって得られたデータが登場しても科学者たちも真剣にそれを扱おうともせず、ごくわずかな人数のアウトサイダー的な天文学者・科学者がビッグバン仮説を発展させたものの、無視されたり軽視されたりしてなかなか受け入れられなかった。
ビッグバン理論から導かれる帰結の1つとして、今日の宇宙の状態は過去あるいは未来の宇宙とは異なる、というものがある。このモデルに基づいて、1948年にジョージ・ガモフは宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) が存在することを主張、その温度を5Kと推定した。CMB は1960年代になって発見され、この事実が、当時最も重要な対立仮説(対立理論)であった定常宇宙論ではなくビッグバン理論を支持する証拠と受け止められ、支持する人が増え多数派になり、「標準理論」を構成するようになった。この説が生まれてから数十年の時を経て、ようやくそうなったのである。
ビッグバン宇宙モデルの成立
1.フリードマンはアインシュタインの一般相対論の式を解き、宇宙が膨張することを示した。(1922)
2.ハッブルが膨張宇宙の発見。 (1929)
ハッブルの法則:
遠くにある銀河ほど、高速度で遠ざかっている。
3.ガモフは、原子核物理学に基づき、宇宙は熱い火の玉から始まらなければならないことを示した。(1946)
宇宙を構成する元素はほとんど水素やヘリウムであり、重元素は微量である。
これを説明するためには、巨大な一個の原子核として始まった宇宙は高温で分裂しなければならない。
4.ガモフは宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) が存在することを主張、その温度を5Kと推定した。(1948)
5.宇宙マイクロ波背景放射の発見。(1966)
宇宙が熱い火の玉として始まった証拠
ビッグバンモデルの問題点
①宇宙は「特異点」から始まったと言わざるを得ない。宇宙の始まりが点であったならば、ついにエネルギーは無限大になってしまう。宇宙のはじまりは物理学が破綻した点であったと考えざるを得ない。即ち、物理法則だけでは、宇宙のはじまりは語れないという問題。
②ビックバン理論は、宇宙が何故、火の玉になったのかを明らかにしていない。
③現在の宇宙構造の起源を説明できない。ビックバン理論では非常に小さな「ゆらぎ」しかつくれず、宇宙の初期に銀河や銀河団のタネになるような濃淡を作る事が理論的に難しい。
④一様性問題
宇宙の構造は遠いところまで全て一様なのはなぜか。100億光年離れたところにある銀河と、その銀河とは反対方向にある銀河が一度も因果関係を持っていないにも関らず、同じような構造をしているのは何故かという問題。
⑤平坦性問題
宇宙は膨張を続けているわけだが、観測による限り我々の宇宙はほとんど曲がっていない。しかし、平坦なまま大きく膨張させることは、数学的に非常に困難。この点もビックバン理論では、答えることが出来ない。
こうした問題に回答を与えたのが、1981年にアラングース、佐藤勝彦が提唱したインフレーション理論である。
★ビッグバンの前に何が起こったのか
◆◆インフレーション理論
1.宇宙は「無のゆらぎ」から「量子トンネル効果」によって生まれた。
2.創生された量子宇宙はインフレーションを起こし、火の玉へと急膨張しした。
「真空の相転移」によって蓄えられた「潜熱」の莫大な熱エネルギーが解放され、ごくわずかだった宇宙が直径1cm以上もの火の玉宇宙になった。
3.インフレーション中の「量子ゆらぎ」は引き伸ばされ、宇宙構造の種が仕込まれた。
4.ビッグバン以後、宇宙の膨張とともに「ゆらぎ」はしだいに成長し「真空の相転移」と「対称性の破れ」によってビッグバン宇宙が生成されるようになった。
5.時間の経過とともに、銀河、銀河団など現在の宇宙の豊かな構造を形成した。
◆◆ 「無のゆらぎ」から最初の宇宙が誕生
常識的には[無]というと何もない状態だが、物理学的には「ゆらぎ」のある状態のことをいう。
詳しくいうと、物理的に可能な限りエネルギーを抜いた状態のことをいう。
実はエネルギーを抜くだけ抜ききっても、振動、いわゆる「ゆらぎ」が残る。この「ゆらぎ」は、素粒子の「対生成と対消滅」が繰り返されることにより起きていて、物理的には消すことができない。
いい換えれば、「無と有の間をゆらいでいる状態」ということである。
その状態から「トンネル効果」で、突然パッと宇宙が生れたと考えられている。
これはビレンケンという学者が唱えた説で、無からの創成論は未だ完成しておらず、これからの研究が期待される分野である。
▼量子「トンネル効果」とポテンシャルエネルギーと真空エネルギーの増加
▼真空の相転移
◆インフレーション
その「最初の宇宙」から火の玉になるまでの急膨張が、インフレーションである。
この生れたての宇宙は、「真空のエネルギー」を持っており、このエネルギーは急膨張する性質がある。
急激に宇宙が大きくなるということは、それだけ密度が低くなり、温度が急冷することになる。
その時、水が氷点以下になっても一時的に凍らず、水のまま持ちこたえる現象、いわゆる「過冷却」と同じ状態に陥る。その間、膨大なエネルギーが「潜熱」として蓄えられている。水だったら凍る時にその潜熱が吐き出されるわけだが、インフレーションでは真空の相転移によって莫大な熱エネルギーが解放され、ごくわずかだった宇宙が直径1cm以上もの火の玉宇宙になった。
▼4つの力の相互作用の進化図
◆物質ができる過程
すべての物質は、インフレーション時代につくられた莫大なエネルギーがもととなっている。
ビッグバン以後、宇宙の膨張とともに素粒子ができ、それが陽子や中性子に、さらに原子へと、物質生成が進んでいった。その間、それらの粒子が、光を通さないくらい非常に濃密な状態で宇宙をヤミクモに飛び回っていた。それが、しかるべきところに落ち着き、宇宙の見通しが良くなった。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼び、だいたい宇宙創成後、30万年頃のことと考えられている。そして星ができ、銀河や銀河団が形成され、私達人間などの生物がつくられていった。
◆インフレーションからビッグバンへ
インフレーションというのは、宇宙創成の10のマイナス44乗秒後に始まって、10のマイナス33乗秒後に終了した、つまり、1秒の1兆分の1をさらに1兆分の1にして、またさらに10億分の1以下にした、とてつもなくわずかの時間に起きた宇宙の異常膨張のことをいう。
その膨張により火の玉になったのだが、このインフレーションという名は、物価水準が急上昇する経済用語「インフレーション」にちなんで付けられたものである。
具体的にどれくらい宇宙が膨張したのかというと、インフレーション前の大きさは、直径10のマイナス34乗cmだから、物質をこれ以上細分化できない究極の粒子といわれる素粒子よりもはるかに小さかった。
それがインフレーション直後、いわゆるビッグバンの時には、直径1cm以上になっていた。
◆◆ビッグバン宇宙の形成
さらに宇宙が膨張し温度が下がると、さらなる「対称性の破れ」をもたらす相転移が起こり、これによって、この宇宙に存在する基本的な力と素粒子とが現在のような形になった。
この後、ビッグバン元素合成と呼ばれる過程によって、陽子と中性子とが結合してこの宇宙に存在する重水素とヘリウムの原子核が作られた。
宇宙が膨張し続け、さらに冷えるにつれて、物質の相対性理論的速度での運動は次第に収まり、物質の静止質量エネルギー密度の方が放射(電磁波)のエネルギー密度よりも重力的に優勢になった。
◆宇宙の晴れ上がり
はじめは電子による散乱のために光がまっすぐに進めない状態だったが、およそ30万年後には電子と原子核とが結合して原子(そのほとんどは水素原子)が作られた。
これによって放射は物質と相互作用する確率が低くなり、ほぼ物質に妨げられることなく空間内を進むことができるようになった。この状態が「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる。
この時期の放射の名残が宇宙マイクロ波背景放射である。
◆宇宙構造の形成
時間が経つにつれて、ほとんど一様に分布している物質の中でわずかに密度の高い部分が重力によってそばの物質を引き寄せてより高い密度に成長し、ガス雲や恒星、銀河、その他の今日見られる天文学的な構造を形作った。この過程の細かい部分は宇宙の物質の量と種類によって変わってくる。
ここでは物質の種類としては、冷たいダークマター、熱いダークマター、バリオンの3種類が可能性として考えられる。
▼宇宙の組成
現在最も精度の良い測定(WMAP による)によると、宇宙の物質の大部分を占めているのは冷たいダークマターであると見られている。それ以外の2種類の物質が占める割合は宇宙全体の物質の20%以下である。
今日の宇宙ではダークエネルギーと呼ばれる謎のエネルギーが優勢であるらしいことがわかっている。現在の宇宙の全エネルギー密度のうちおよそ70%がダークエネルギーである。宇宙にこのような構成要素が存在することは、大きな距離スケールで時空が予想よりも速く膨張しており、このために宇宙膨張が速度と距離の比例関係からずれていることが明らかになったのがきっかけとなって知られるようになった。
ダークエネルギーは最も単純な形では一般相対性理論のアインシュタイン方程式の中に宇宙定数項として現れるが、その組成は不明である。より一般的に言うと、ダークエネルギーの状態方程式の詳細や素粒子物理学の標準模型との関係について、観測と理論の両面から現在も研究が続けられている。
◆◆観測的証拠
一般に、宇宙論においてビッグバン理論を支持する観測的な支柱が三つあると言われている。それは、銀河の赤方偏移に見られるハッブル則的な膨張と、宇宙マイクロ波背景放射の詳細な観測、それに軽元素の存在量である。これらに加えて、宇宙の大規模構造の相関関数の観測も標準的なビッグバン理論とよく一致している。
◆ハッブル則に従う膨張
遠方の銀河とクエーサーの観測から、これらの天体が赤方偏移していることが分かっている。これは、これらの天体から出た光がより長い波長へとずれていることを意味する。この赤方偏移は、これらの天体のスペクトルをとって、それらの天体に含まれる原子が光と相互作用して生じる輝線や吸収線の分光パターンを実験室で測定したスペクトルと比較することで分かる。この分析から、光のドップラーシフトに対応した値の赤方偏移が測定され、これは後退速度として説明される。後退速度を天体までの距離に対してプロットすると、ハッブルの法則として知られている比例関係が現れる。
◆宇宙マイクロ波背景放射
▼WMAPによって得られた宇宙マイクロ波背景放射の画像
ビッグバン理論からは、バリオン数生成の時代に放出された光子による宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の存在が予測されていた。初期宇宙は熱平衡の状態にあったため、プラズマが再結合するまでは放射とプラズマの温度は等しかった。原子が作られる以前には、放射はコンプトン散乱と呼ばれる過程によって一定の割合で吸収・再放射されていた。つまり、初期の宇宙は光に対して不透明だった。しかし宇宙が膨張によって冷却すると、やがては温度が3000K以下にまで下がり、電子と原子核とが結合して原子を作り、原始プラズマは電気的に中性のガスに変わった。この過程は光子の脱結合 (decoupling) として知られている。中性原子のみとなった宇宙では放射はほぼ妨げられることなく進むことができる。
初期の宇宙は熱平衡状態にあったため、この時代の放射は黒体放射スペクトルを持ち、今日まで自由に宇宙空間を飛んでいる。ただし宇宙のハッブル膨張によってその波長は赤方偏移を受けている。これによって元々の高温の黒体スペクトルはその温度が下がっている。この放射は宇宙のあらゆる場所で、あらゆる方向からやってくるのが観測できる。
1964年、アーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンは、ベル研究所にある新型のマイクロ波受信アンテナを使って一連の試験観測を行なっていた時に宇宙背景放射を発見した。この発見は一般的な CMB の予想を確実に裏付けるものだった。発見された放射は等方的で、約3Kの黒体スペクトルに一致することが明らかとなったのである。この発見によって宇宙論をめぐる意見はビッグバン仮説を支持する方へと傾いた。
ペンジアスとウィルソンはこの発見によって1978年にノーベル物理学賞を受賞した。
1989年に NASA は宇宙背景放射探査衛星 (COBE) を打ち上げた。1990年に発表されたこの衛星による初期の成果は、CMB に関するビッグバン理論による予想と一致した。COBE は 2.726K という初期宇宙の名残の温度を検出し、CMB が約105分の1の精度で等方的であると結論した。
1990年代には CMB の非等方性が数多くの地上観測によって詳しく調査され、非等方成分の典型的な角度サイズ(天球上でのサイズ)の測定から、宇宙は幾何学的に平坦であることが明らかになった。
▼COBE で得られた宇宙マイクロ波背景放射の画像
2003年の初めには WMAP 探査機の観測結果が発表され、宇宙論パラメータのいくつかについてこの時点で最も精度の良い値が得られた。この探査機のデータからいくつかのインフレーションモデルは妥当性を否定されたものの、観測結果は大筋ではインフレーション理論と整合するものだった。
◆宇宙の大規模構造
銀河やクエーサーの形態と分布の詳細な観測からビッグバンの強い証拠が得られている。観測データと理論によって、最初のクエーサーや銀河はビッグバンからおよそ10億年後に生まれ、その後で銀河団や超銀河団などのより大きな構造が今に至るまで作られていることが示唆されている。恒星の集団は時間とともに状態を変化させるので、(初期の宇宙にあるものと見なされる)遠方の銀河は(新しいと見なされる)我々の近傍にある銀河とは大きく異なっているように見える。加えて、相対的に最近に生まれた銀河も、同じ距離にあってビッグバンの直後に生まれた古い銀河とは明らかに異なっている。これらの観測結果は定常宇宙モデルに対する強い反論となっている。星形成、銀河・クエーサーの分布、大規模構造の各観測結果はビッグバンモデルによる宇宙の構造形成シミュレーションの結果とよく一致しており、理論の詳細部分を補完するのに役立っている。
★ビッグバン理論に対して大きな問題が登場
◆巨大天体ヒミコの発見
2009年、大内正己特別研究員が率いる日米英の国際研究チームが発見したヒミコは、ビッグバンから約8億年後(現在の宇宙年齢の6%、現在から遡ると約129億年前)という宇宙が生まれて間もない時代に存在した巨大天体であり、この天体の存在はビッグバン理論に対して大きな問題を投げかけることになった。
▼可視光・赤外線で観測された巨大天体ヒミコ
左の画像はハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたもので、中央の四角の中にヒミコが写しだされています。右上はその拡大画像で、紫色から青色をした3つの星の集団が左右に並んでいます。最も左側の星の集団は極めて青く、この色は原始ガスからなる星々の色と似ています。右下はすばる望遠鏡(青)、ハッブル宇宙望遠鏡(緑)、スピッツァー宇宙望遠鏡(赤)で観測されたヒミコのカラー画像。赤色は熱く輝く水素ガス雲で、55,000光年にも広がっています。
Credit: NASA/ESA/NAOJ/東京大学(大内正己)
▼観測をもとにした巨大天体ヒミコの想像図。原始的なガスが渦巻く中で、3つの星の集団が作られている。
Credit: 国立天文台
ヒミコは、5万5千光年にも広がり、宇宙初期の時代の天体としては記録的な大きさである。ビッグバン理論では、「小さな天体が最初に作られ、それらが合体集合を繰り返して大きな天体ができる」と考えられているが、ヒミコはビッグバンから約8億年後には既に現在の平均的な銀河と同じくらいの大きさになっていたこととなり、これは理論の根幹を揺るがす事実である 。
【参考】
①『Wikipedia』
②ALMA
③「宇宙創成はじめの3分間」 S. ワインバーグ著
④「インフレーション宇宙論」