【宇宙の神秘】 「重力波」 の検出と観測装置
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重力波( gravitational wave)は、時空(重力場)の曲率(ゆがみ)の時間変動が波動として光速で伝播する現象。
重力波は、巨大質量をもつ天体が光速に近い速度で運動するときに強く発生する。例えば、ブラックホール、中性子星、白色矮星などのコンパクトで大きな質量を持つ天体が連星系を形成すると、重力波によってエネルギーを放出することで最終的に合体すると考えられている。
重力波とは、大質量の天体が接近し、高速で回転し合うときなど、まわりに空間の伸び縮みの波を発するというもの、この波の大きさは地球で観測されるときの予測が、太陽と地球の距離の間で、水素原子1個分とか、途方もなく微々たるものらしい。
1916年に、一般相対性理論に基づいてアルベルト・アインシュタインによってその存在が予言された後、約100年もの間に渡り、幾度と無く検出が試みられ、2016年2月に直接検出に成功したことが発表された。
重力波の概念は、アルベルト・アインシュタイン自身が、一般相対性理論を発表した2年後に発表した。重力波の存在は間接的には示されていたが、直接の検出には100年を要した。
◆重力波の間接的な検出
1974年、ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスは、連星パルサーのPSR B1913+16を発見し、その自転周期とパルスの放射周期を精密に観測することによって、その軌道周期が徐々に短くなっていることを突き止めた。この現象は、重力波によってエネルギーが外に持ち出されたことで起きるとされ、その周期減少率は一般相対論の予言値に誤差の範囲内で一致した。この業績により、2人は「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」としてノーベル物理学賞を1993年に受賞した。
▲Russell Hulse とJoseph Taylor (Photo Credit: Nobelprize.org)
▲新型連星パルサーのイメージ
◆◇◆世界で初、重力波を検出 【2016年2月】
米国のレーザー干渉計型重力波検出器「LIGO」が世界で初めて、ブラックホール同士の合体から発生した重力波を検出した。アインシュタインが一般相対性理論を発表し重力波の存在を予測してから100年、ついにその時が訪れ、重力波天文学の新しい窓が開いた。
100年におよぶ壮大な探し物に、ついに決着がついた。科学者たちはレーザーと鏡を使って、時空のさざ波「重力波」を直接観測することに成功した。
この重力波は、地球から約13億光年の彼方で、2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転して衝突したときに発生した。ブラックホールの1つは太陽の36倍の質量を持ち、もう1つは29倍の質量を持っていた。
▲このほど、2つのブラックホールが合体する際に発生した重力波が検出された。図はブラックホールの合体のシミュレーション画像。ブラックホールがお互いを飲み込む直前には、それ以外の宇宙全体よりも大きなエネルギーを放出する。(ILLUSTRATION BY SXS COLLABORATION)
重力波は池に生じたさざ波のように宇宙を広がり、2015年9月14日、地球上に設置された4組の鏡の距離に、ごくわずかだが測定可能な変化を引き起こした。4組の鏡のうち2組は米国ルイジアナ州、もう2組はワシントン州に設置されている。
ブラックホールどうしが合体する直前には、宇宙の全銀河のすべての星々が放出するエネルギーの総和の50倍も大きなエネルギーが放出された。
2016年2月11日、今回の発見に関する記者会見で、カリフォルニア工科大学のデビッド・ライツィー氏は「宇宙が初めて重力波という言葉で私たちに語りかけてきたのです」と言った。LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)という施設で観測を行っていた科学者たちは、2つのブラックホールが死んで合体するときに聞こえると予想されていた特徴的な「さえずり音」を聞いた。
ルイジアナ州立大学のガブリエラ・ゴンザレス氏は、「私たちは重力波の音を聞き、宇宙の音を聞くのです。宇宙は目で見るだけでなく、耳で聞くものになったのです」と説明する。
実は、LIGOのチームが重力波を検出したという噂は数週間前からソーシャルメディアで囁かれていた。正式な発表前からこれほど大きな関心が集まっていたのは、多くの人が重力波の検出をノーベル賞級の発見だと考えているからに他ならない。
アインシュタインの予測からほぼ100年となる2015年9月14日、米・ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置されているレーザー干渉計型重力波検出器「LIGO」によって、ついに重力波が世界で初めて検出された。
▲ハンフォード(上)とリビングストン(中)で記録された信号のグラフ。それぞれ太線が測定値、細線が理論値を表し、横軸は時間、縦軸はゆがみの量(1.0は「1000億の100億倍」分の1)。一番下は2か所のデータの時間のずれなどを揃えたもの(提供:LIGO Caltech)
検出された重力波は、約13億年前に太陽の29倍の質量と36倍の質量を持つブラックホール同士が合体して1つのブラックホールが作られた際、太陽3個分の質量がエネルギーに変換され放出されたものだ。重力波源の方向は特定できていないが、リビングストンではハンフォードに比べて7ミリ秒早く現象が記録されていることから、南半球側の空域と思われる。
一般相対性理論によると、互いの周りを回るブラックホールのペアは重力波を放出してエネルギーを失いながら、数十億年かけて徐々に接近していく。そして最後の瞬間、ブラックホール同士は光速のほぼ半分もの速度で衝突し、質量の一部がエネルギーに変換され重力波となって放出される。それが、今回LIGOが検出したものだ。従来の装置をアップグレードして行われた、最初の観測で見つかったものである。
▼ブラックホール同士の衝突のシミュレーション動画 (提供:SXS)
1974年、Joseph Taylor Jr.とRussell Hulseが中性子星の連星系を発見し、8年後の1982年にTaylorとJoel M. Weisbergがその連星系の軌道がゆっくりと収縮していることを明らかにした。軌道が縮んだのはエネルギーが重力波として放出されているためであり、これは重力波の存在を間接的に証明するものである。TaylorとHulseは連星発見により1993年のノーベル物理学賞を受賞している。そして今回の検出は、重力波の存在を「直接的に示した」ものだ。
「重力波の検出は、新しい時代の始まりです。重力波天文学がやっと現実のものとなったのです」(米・ルイジアナ州立大学 Gabriela Gonzalézさん)。
「アインシュタインに直接報告ができたら、最高でしょうね」(1980年代にLIGOを重力波検出器として最初に提案したチームの一員で、現・マサチューセッツ工科大学名誉教授 Rainer Weissさん)。
「この発見によって人類は、新たな探求へ乗り出す時が来ました」(現・カリフォルニア工科大学名誉教授、1980年代Weissさんと同チームだったKip Thorneさん)。
◆◇◆2度目の重力波観測、天文学はいよいよ新時代へ
【2016年6月】
2016年2月に歴史的な初観測が発表された重力波と同じく、今回の重力波も、10億年以上前に2つのブラックホールが互いに強く引かれ合い、激しい抱擁を交わしたことで発生した。この重力波がさざ波のように宇宙空間に広がり、地球を通過したところを天文学者が捉えたのだ。
ブラックホールどうしの合体や超高密度の中性子星どうしの衝突など、宇宙でも有数の激しい天体現象によって生成する重力波は、宇宙を観測するまったく新しい方法を科学者にもたらすことになる。どんな波長の光でも見ることのできないものを重力波で観測し、研究できる可能性がある。
2回目に観測されたものは、ふたつのブラックホールが合体した結果であることは共通しているが、1回目よりやや小規模なものだった。今回のふたつのブラックホールの質量はそれぞれ太陽の8倍と14倍、地球からの距離は14億光年だった。合体後には太陽の21倍のブラックホールが形成され、残る太陽1個分の質量が重力波エネルギーとして放出された。
この発見は6月15日(現地時間)、米国カリフォルニア州サンディエゴで行なわれたアメリカ天文学会で発表された。これに関する論文は、Physical Review Lettersへの掲載が承認されている。
2回目の重力波が観測されたことにより、LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)での2月の初観測が単なるまぐれ当たりではなく、千回とまでは言わないが、何百回という現象の1例であることが確実になった。すなわち、次があるということである。
▲こちらが、レーザー干渉計重力波天文台(LIGO)の装置。4 kmのL字型の超高真空システムを擁している。
▲LIGOのハンフォード制御室
LIGOに資金を提供している全米科学財団の理事長である天体物理学者のフランス・コルドバ氏は、「壮大な現象を検出することには大きな意義がありますが、1回だけでは科学というより魔法です」と言う。
「2回目に検出できたときに初めて、その現象を本当に観測できたと言えます。これでようやく、人類が本当に新しい観測手段を手にしたことが証明されました。」
◆◆重力波観測装置 LIGOとKAGRA
◆LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)
LIGO(ライゴ、Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)は1916年にアルバート・アインシュタインが存在を提唱した重力波の検出のための大規模な物理学実験とその施設。英名を直訳すると「レーザー干渉計重力波観測所」となる。研究は1992年にカリフォルニア工科大学のキップ・ソーンとロナルド・ドレーバー、マサチューセッツ工科大学のライナー・ウェイスが共同設立し、両校や他の大学機関なども参加する科学者による共同研究事業である。
▲米ルイジアナ州にあるLIGOの L字形重力波望遠鏡。基線長は4キロメートル。(LIGO提供)
研究計画と重力波天文学のデータの分析にかかわる研究者はLIGO科学コラボレーションという組織を作っており、世界の900人以上の科学者が参加している。LIGOは英国科学技術施設研究会議、ドイツマックス・プランク研究所、オーストラリア研究会議の大きな寄与を受けてアメリカ国立科学財団(NSF)に設立された。
2015年9月、5年間で2億ドルをかけた改良を行い、総額6億2000万ドルをかけた「世界最大の重力波施設」が完成した。LIGOはアメリカ国立科学財団(NSF)が設立した最大かつ最も野心的な計画である。
2016年2月11日、LIGO科学コラボレーション及びVirgoコラボレーションは、2015年9月14日9時51分(UTC)に重力波を検出したと発表した。この重力波は地球から13億光年離れた2個のブラックホール(それぞれ太陽質量の36倍、29倍)同士の衝突合体により生じたものである。
◆KAGRA
LCGT(Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope、愛称かぐら (KAGRA))は、日本が建設中の重力波望遠鏡である。岐阜県の神岡鉱山内にスーパーカミオカンデやカムランド、XMASSと同じ地下に建設され、レーザー干渉計の基線長は3,000mである。特徴は低い地面振動、長い基線長、鏡の冷却である。
▲岐阜山中で建設中のKAGRA。レーザー干渉計の基線長は3キロメートル。
平成22年度「最先端研究基盤事業」(文部科学省)に選定されている。愛称は、神岡の「KA」と重力波(Gravitational wave)の「GRA」を合わせている。
アルベルト・アインシュタインが提唱した重力波を観測で捉えようとする試みの中で、現在はレーザー干渉計を用いる手法が主流となっている。日本では、1999年に基線長300mのTAMA300が稼動を始めたが、これは天の川銀河内で中性子星が衝突した場合に生じる重力波を捉える感度しか持たず、その確率は数十万年に1度程度と考えられる。そのため、東京大学宇宙線研究所(Institute for Cosmic Ray Research (ICRR))の重力波グループが中心となって高い感度を持つ観測装置が構想された。
重力波による空間の伸び縮みを測定するレーザー干渉計では、ノイズを除く事が重要になる。新しい設備は、7億光年の範囲で起こる中性子星衝突を感知できるよう構想され、そのために地面振動の影響が少ない神岡鉱山が選ばれた。さらに高さ14mの振り子構造を持たせて外部振動の影響を減らした反射鏡を、熱による分子レベルの運動を極力除くために約-253℃まで冷却する装置を4つ連結させる。このような改良によってKAGRAは稼動から1年以内に重力波を観測できると期待されている。 KAGRAは2014年3月末に総延長7kmを越えるトンネル掘削工事が完成した。2016年3月-4月には稼働実験を実施、本格観測は2017年後半に始める予定。
▲KAGRA計画
KAGRAは世界最高精度の重力波望遠鏡となる。現在世界では、アメリカのLIGOとイタリアのVIRGOがそれぞれ Advanced LIGO と Advanced VIRGO 計画で観測精度をKAGRAと同等に引き上げる改良を進めている。
2016年2月には、LIGOグループは、ブラックホール連星からの重力波をはじめて捉えることに成功した、と発表した。しかし、レーザー干渉計による測定では、少なくとも3台以上の干渉計の同時観測がないと、どの位置から重力波が来たのかは特定できない。これら複数の設備が協調すれば、到達時間の差から重力波源天体の方向を割り出すことができる。
▲重力波望遠鏡の観測可能範囲
◆◆世界の重力波観測装置
◆LIGO(カリフォルニア工科大学・マサチューセッツ工科大学) - アメリカ・ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置されたレーザー干渉計。基線長は4キロメートル。
◆VIRGO(フランス・イタリア) - イタリア・ピサに設置されたレーザー干渉計。基線長は3キロメートル。
◆GEO600(イギリス・ドイツ) - ドイツ・ハノーファーにあるレーザー干渉計。基線長は600メートル。
◆eLISA (ESA) - LISAは "Laser Inferometer Space Antena" の略称であり、宇宙重力波望遠鏡(アンテナ)である。基線長は500万キロメートルを計画中。現在、ESAがホワイトペーパーを検討中。開発され2028年以降に宇宙へ打ち上げられ、人工惑星軌道へ投入され観測を開始する予定。
◆KAGRA-日本が建設中の重力波望遠鏡である。岐阜県の神岡鉱山内にスーパーカミオカンデやカムランド、XMASSと同じ地下に建設され、レーザー干渉計の基線長は3キロメートル。特徴は低い地面振動、長い基線長、鏡の冷却である。
◆DECIGO (日本) - DECIGOは "Deci-hertz Interferometer Gravitational wave Observatory" の略称である。0.1Hzから10Hz程度の重力波を観測できる宇宙重力波望遠鏡で、日本におけるKAGRAの次の将来計画となっている。
◆CLIO(日本) - 東京大学宇宙線研究所等が共同して運営するレーザー干渉計重力波アンテナと地殻歪計。