【チャンドラX線観測衛星】 観測成果 第5部
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1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。
「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。
その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第5部
【2004年6月】
宇宙で最初に生まれた星の残骸と最遠の宇宙にある巨大ブラックホール
NASAのスピッツァー宇宙赤外線望遠鏡が、活動銀河核の中心にあるわれわれからもっとも遠い巨大ブラックホールや、宇宙で最初に生まれた星の残骸と思われる天体の姿を捉えた。
▲深宇宙オリジン・サーベイ・フィールドに発見されたブラックホールの画像。(左)チャンドラによる画像、(中)ハッブルによる画像、(右)スピッツァーによる画像。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, A. M. Koekemoer (STScI), M. Dickinson (NOAO) and The GOODS Team)
これは、深宇宙オリジン・サーベイ(Great Observations Origins Deep Survey: GOODS)と呼ばれる計画のもと、ハッブル宇宙望遠鏡(可視光)、チャンドラX線観測衛星(X線)、スピッツァー宇宙赤外線望遠鏡(赤外線)の3つの望遠鏡がそれぞれの特色を活かして活躍した結果だ。3つの望遠鏡の目が向けられたのは130億光年離れた南天の一角で、この領域に1万個以上の銀河が含まれている。チャンドラX線観測衛星は200個以上のX線源を観測し、ハッブル宇宙望遠鏡はX線源となっているブラックホールを取り巻く銀河を観測した。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡では捉えることのできなかった7つのX線源が謎として残った。
この7つのX線源は、長い間その存在が予測されていた、初期宇宙に存在していた活動銀河の中心を明るく輝かせる巨大ブラックホールではないかと考えられている。これらのタイプのブラックホールから捉えられたX線としては、これまででもっとも遠い宇宙からのものとなる。
ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上長い波長での観測が可能なスピッツァー宇宙赤外線望遠鏡がこの7つのX線源について観測を行ったところ、ここに予測どおり、ブラックホールを取り巻く銀河から発せられるひじょうに明るい赤外線の光を捉えることに成功した。ヨーロッパ南天天文台のVLTによる観測と合わせた結果から、この銀河はひじょうに濃いちりに覆われていると考えられている。おそらくそのような種類の天体の中ではこれまででもっとも遠くに位置する天体だろうということだ。また、まったく異なる色をした天体も捉えられているが、これらはわれわれの知るもっとも遠い天体である可能性も示された。
スピッツァー宇宙赤外線望遠鏡の観測では、可視光ではまったく見えず赤外線のみで検出される銀河も捉えられているが、これらはいわゆる「超赤色天体」の仲間ではないかと考えられている。このタイプの天体はほとんどが遠方の銀河で、年老いていたりちりを多く持っていたりするために赤く見える。スピッツァー宇宙赤外線望遠鏡が捉えたのは、宇宙の年齢がたった20億歳だったころに存在した銀河のようだ。もしかすると、今回観測されたひじょうに赤い天体は、宇宙で最初に生まれた星の残骸なのかもしれない。
【2004年7月】
たった100年前に核融合を終えたばかりの20万度の白色矮星
NASAのチャンドラX線観測衛星と遠紫外線スペクトル分析衛星(FUSE)によって、たった100年前に核融合を終えたばかりの白色矮星が発見された。
▲H1504+65の想像図(提供: University of Leicester)
発見された白色矮星はH1504+65という天体で、表面温度は20万度もある。表面に水素やヘリウムはほとんど存在せず、主に炭素や酸素でできているようだ。理論上では、多くの星はその一生の終わりに炭素と酸素からなる中心の核をもつようになると予測されていたが、周囲が取り払われて実際にその様子を観測できるとは想像もしていなかったということだ。
また、H1504+65にマグネシウムの存在が発見されたことも興味深い。星の質量がある一定以上の場合、炭素の核融合からマグネシウムを生成することでエネルギーを得て星の寿命を長らえることが予測されているためだ。しかし、ヘリウム核融合反応によってもマグネシウムが作られることもあるため、決定的な理論の証明とはならないとのことだ。同チームはハッブル宇宙望遠鏡による観測も予定しており、この星についてさらに詳細なデータがもたらされることが期待されている。
【2004年7月】
銀河系中心付近に1億度の超高温ガスが存在
NASAのチャンドラX線観測衛星による観測で、天の川銀河系の中心付近に高温のガスが広がって存在している証拠が発見された。ガスの温度は1億度にも達しているが、その原因はわかっていない。
▲天の川銀河系の中心。色はエネルギーに応じて着けられている(提供:NASA/CXC/UCLA/M. Muno et al.)
観測は銀河系の中心130光年の範囲を対象に行われた。観測結果から中性子星やブラックホール、白色矮星、手前にある星、さらに背後の銀河など2300個あまりの点状のX線源を取り除いたところ、1000万度の高温ガスと1億度もの高温ガスの存在が明らかになったのである。
高温の原因として、さまざまな候補があげられている。超新星による衝撃波が起こす磁気嵐、または、超新星の衝撃波によって作られる高エネルギー陽子と電子などだ。しかし、いずれの仮定も問題がある。得られたスペクトルは高エネルギー粒子による加熱と一致しておらず、さらに銀河系中心の磁場の構造はこのような現象を起こすには不適なのだ。超新星爆発の発生率そのものが低すぎるという問題もある。
また、実際には未発見の点状の発生源がこの領域に集中しており、それが拡散して見えているだけではないかという考え方もある。しかし、この考え方を説明するには20万個以上の発生源が領域内に必要とされるなどの問題がある。謎は深まるばかりだ。
【2004年7月】
宇宙に浮かび上がる四葉のクローバー、4重像のクエーサー
NASAのチャンドラX線観測衛星によって、珍しい4重像のクエーサーの姿が捉えられた。これは、われわれから110億光年離れたところにある1つのクエーサーの姿が、強力な重力レンズ効果によって4つの像として観測されたものだ。
▲重力レンズ効果によってクエーサーが4重像として捉えられている。囲み部分が実際に捉えられた画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Penn State/G. Chartas et al.)
観測されたのは、うしかい座にあるクエーサーH1413+117である。クエーサーの手前にある銀河による重力レンズ効果の影響で1つのクエーサーが4つの像に分かれて見えており、四葉のクローバーに見立てて「クローバーリーフ・クエーサー」と呼ばれている。
4つの像のうち1つは特に明るく見えており、さらにこの像の相対的な増光は、可視光よりもX線で大きいことがわかった。1つの像が明るく見えているのは、この像がさらに(単独または連星系の)恒星によるマイクロレンズ効果の影響も受けているためだと考えられている。X線がより強く増光しているのは、X線を放射している領域が太陽系ほどの大きさしかないためだろう。一方、可視光はそれよりも10倍以上大きな領域から発せられているようだ。
研究者たちの解釈が正しければ、重力レンズ効果のおかげで、チャンドラX線観測衛星やハッブル宇宙望遠鏡が普通の状況で観測するのと比較して5万倍もの解像度が得られているということだ。この解像度を利用し、クエーサーの中心にあって膨大なエネルギーを生み出している巨大ブラックホール周辺のガスの流れが詳細に観測できると期待されている。
【2004年8月】
チャンドラX線観測衛星がもっとも詳細に捉えた、超新星残骸カシオペヤ座A
NASAのチャンドラX線観測衛星によるカシオペヤ座Aの詳細な画像が公開された。これは、5年前の同衛星のファーストライト時と比べると200倍もの膨大なデータを含むものとなっており、10光年の範囲に広がる両極ジェットの存在が明らかにされるなど、大質量星の爆発が予測以上に複雑なものであることが示された。
▲チャンドラが捉えたカシオペヤ座A。(左)3色の疑似カラー画像、(右)多量に検出されたケイ素を強調した画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/GSFC/U.Hwang et al.)
最新の画像が公開されたカシオペヤ座Aは、およそ1万光年かなたにある超新星残骸だ。最新画像はこれまでの超新星残骸の観測でもっとも詳細なもので、双極ジェットが発見され、星の中心部分から10光年の範囲に広がっていることが明らかにされた。また、ジェットから発せられるX線のスペクトルから、ケイ素原子と少量の鉄原子が検出された。さらに、かなり純度の高い鉄のガスがジェットとほぼ垂直に伸びていることもわかっている。この鉄は、星の中心のもっとも高温部分で作られたものだという。
画像の中心に見える明るい点は、超新星爆発によってできた中性子星ではないかと考えられている。高速で自転しているかに星雲のパルサーやほ座の超新星残骸と違い、カシオペヤ座Aの中性子星はひじょうに静かでおとなしいようだ。
【2004年10月】
発見から400年、ケプラーの新星の謎を解く
ちょうど400年前の1604年10月9日、有名な天文学者ヨハネス・ケプラーたちが、へびつかい座に現れた超新星「ケプラーの新星」に気づいた。過去1000年で、われわれ天の川銀河内に発見された超新星は6つあるが、その中で唯一ケプラーの新星だけが、どのような種類の星の爆発であったのか明らかになっていない。この超新星の謎を解き明かそうと、ハッブル宇宙望遠鏡をはじめとして、スピッツァー宇宙赤外線望遠鏡、チャンドラX線観測衛星を使った観測が行われた。
▲ケプラーの新星。大きな画像は、可視光、X線、赤外線画像を合成したもの。(左下2点)チャンドラによるX線画像、(下左から3つ目)ハッブルによる可視光画像、(右下)スピッツァーによる赤外線画像。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, R. Sankrit and W. Blair (Johns Hopkins University)
ハッブル宇宙望遠鏡では可視光での観測、スピッツァー宇宙赤外線望遠鏡では赤外線での観測、そしてチャンドラX線観測衛星ではX線での観測が行われた。結果、14光年の大きさにガスとちりが泡のような形で広がっているようすが捉えられ、この構造が時速600万キロメートルのスピードで膨張していることがわかった。なかでも特徴的なのは、高速で拡大し続けるシェル構造に大量の鉄が含まれている点で、さらにこのシェルを取り巻いて広がる衝撃波によって、外側の星間ガスやちりが吹き飛ばされている。
超新星爆発の際に生じた衝撃波は、時速3500万キロメートルもの猛スピードで一気に広がる。衝撃波は周辺の空間へと広がり、周囲のガスやちりはシェル構造の中へ集められ、爆発時に星から放出され広がる物質とぶつかってX線を放射するほどの高温に熱せられるのだ。
ハッブル宇宙望遠鏡による可視光観測では、明るく光る点の集まりが捉えられているが、これは衝撃波が周囲のガスの濃いところとぶつかっている場所だ。また、スピッツァー宇宙赤外線望遠鏡によって捉えられているのは衝撃波によって集められた微細なちり粒子からの赤外線で、ハッブルが捉えている密度の高い部分、球状に広がる衝撃波を写し出している。チャンドラX線観測衛星では、高温のガスが捉えられている。これは主に、衝撃波が達した部分のすぐ内側の領域に存在する高エネルギーの高温ガスを捉えたものだ。また、低温、低エネルギーの領域も写し出されており、爆発した星から放出された物質の場所を示している。
【2004年11月】
孤立した楕円銀河NGC 4555に、巨大な暗黒物質のハローが発見された
チャンドラX線観測衛星によって、孤立した楕円銀河の周辺に巨大な暗黒物質のハローが発見された。可視光観測では楕円銀河には見られない暗黒物質のハローの発見は、暗黒物質と銀河形成の理論に大きな影響を与えるかもしれない。
チャンドラによって観測が行われたのは、かみのけ座の銀河NGC 4555で、われわれからは約3億光年離れている。かなり大きな楕円銀河だが、銀河団には属していない。
▲NGC 4555の画像。(左)チャンドラによるX線画像、(右)可視光画像。クリックで拡大(提供:X線:NASA/CXC/E.O'Sullivan et al; 可視光:Palomar DSS)
X線による観測結果から、この銀河の周りに摂氏1千万度の高温ガスが直径が40万光年にわたり広がっていることが明らかになった。これは、可視光で見えている大きさのほぼ2倍のスケールだ。このようなガスが存在できるためには、暗黒物質のハローが存在している必要がある。暗黒物質の総質量は、NGC 4555に存在する星の全質量の10倍程度で、高温ガスの質量のおよそ300倍となっている。
NGC 4555の観測結果から、楕円銀河は、銀河団の中にあるか孤立しているかといった周辺の環境に関係なく、暗黒物質のハローを持つことができるということが示された。しかし、暗黒物質のハローを持つことができるかどうかは一体何によって決定されるのかという点について、重要な疑問が生じる。
別の可視光観測の結果によると、近傍の3つの楕円銀河にはほとんど暗黒物質のハローが見つからなかった。これら3つは緩い(銀河数の少ない)銀河群の中に位置していたり孤立して存在したりしており、この点ではNGC 4555と同じような環境だ。X線の観測で大きく広がった暗黒物質ハローが見つかったNGC 4555とこれらの銀河の差は果たして何だろうか。解釈によっては、銀河形成における冷たい暗黒物質の理論に大きな変更が必要になってくるかもしれないとのことだ。答えを得るには、今後より多くの楕円銀河について、理論面、観測面の両方からの研究が必要だと専門家は語っている。
【2004年12月】
ビッグバンからわずか10億年後に存在した、大質量ブラックホールの決定的証拠
NASAのチャンドラX線観測衛星によって、ビッグバンからわずか10億年という宇宙初期(われわれから127億光年の距離)に形成された遠方クエーサーの中心に大質量ブラックホールの存在を示す決定的な証拠が捉えられた。中心のブラックホールは充分に成長しており、その質量は太陽の10億倍と考えられている。
▲クエーサーSDSSp J1306から放出されるX線の想像図。(右下)クエーサーと手前に存在する銀河のX線画像(左上の小さい天体が銀河)。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/D.Schwartz & S.Virani; Illustration: CXC/M.Weiss)
SDSSp J1306という符号がつけられたクエーサーは、われわれから127億光年離れたおとめ座の方向にある。宇宙年齢を137億歳とすると、ビッグバンからたった10億年後の宇宙に存在するクエーサーということになる。観測によれば、このクエーサーのX線スペクトルなどの特徴は近傍のクエーサーのものとほとんど違いがないことがわかった。可視光観測からは、クエーサーの中心に太陽の10億倍という大質量ブラックホールが存在していると推測される。
観測から得られたデータから、大質量ブラックホールが放つX線の特徴は初期宇宙でも本質的には変わりがないことが示された。若い(遠方クエーサー中に存在する)大質量ブラックホールと年老いた(近傍のクエーサーや銀河に存在する)大質量ブラックホールのX線スペクトルがきわめてよく似ていることから、大質量ブラックホールや周囲の降着円盤はビッグバンから10億年後にはすでに存在していたと考えられる。
このような初期宇宙の大質量ブラックホールの形成過程については、若い銀河中で起きた大質量星同士の衝突によって太陽質量の100倍ほどのブラックホールが大量に生み出され、続いてそれらが合体しガスが降り積もることによって太陽の10億倍もの質量をもつブラックホールが作られたというシナリオが考えられている。しかし、いつどのようにして大質量ブラックホールが形成されたのかについての答えを得るためには、今後チャンドラX線観測衛星によって予定されている、より古いクエーサーの観測が必要となるだろう。
【2005年1月】
天の川銀河の中心付近に1万個のブラックホール
NASAのチャンドラX線観測衛星によって、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールの周りに1万個ものブラックホ-ルが存在していることを示す証拠が得られた。
▲チャンドラが捉えた天の川銀河の超巨大ブラックホール周辺(提供:NASA/CXC/UCLA/M.Muno et al.)
観測されたのは天の川銀河中心のSgr A*(いて座A*)周辺の領域で、3光年の範囲内に中性子星を伴った恒星サイズのブラックホールが4つ見つかった。このようにブラックホールや中性子星が集中しているのが明らかになったことから、実際には天の川銀河の中心付近には相当数のブラックホールと中性子星が存在していると推測されている。
これらのブラックホールや中性子星は、もともと銀河中心から離れて存在していたのだが、数十億年かけて現在のように中心部に移動してきたものと考えられている。そして、次の数十億年の間には、中心の超巨大ブラックホールに飲み込まれていく運命にある。チャンドラの観測結果は、われわれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールの成長に関しても、さまざま情報を与えてくれるものとなりそうだ。
【2005年1月】
巨大ブラックホールが生み出した宇宙最大の噴出
NASAのチャンドラX線観測衛星によって、巨大ブラックホールが生み出した宇宙でもっともパワフルな噴出が捉えられた。
▲MS 0735.6+7421銀河団のガスから放射されるX線(提供:NASA/CXC/Ohio U./B.McNamara)
NASAのチャンドラX線観測衛星が捉えたのは、MS 0735.6+7421という銀河団に広がる高温ガスからのX線だ。この銀河団はきりん座にあり、26億光年離れている。画像の上下にある空洞はそれぞれが直径60万光年もあるが、この空洞は銀河団の中心にある銀河の巨大ブラックホールからの噴出によってできたものである。
巨大ブラックホールは太陽の3億個分に相当する質量を飲み込んで成長し続けている。ブラックホールからの噴出は1億年以上も続いており、ガンマ線バーストの数億倍ものエネルギーが放出されていると考えられている。
【2005年4月】
太陽の1万倍、中間質量ブラックホール
ブラックホールからのX線アウトバーストが捉えられ、そのブラックホールの質量が太陽の1万倍程度である証拠が得られた。新たな分類に属するブラックホールの発見となりそうだ。
▲X線と可視光によるM74の合成画像。赤い点はX線観測、青と白は可視光観測を表す。左上方、小さな白い四角内が観測されたX線源。クリックで拡大(提供:X線: NASA/CXC/U. of Michigan/J.Liu et al.; 可視光: NOAO/AURA/NSF/T.Boroson)
ブラックホールは大きくわけて2つのタイプが知られている。太陽質量の10倍程度という恒星サイズのブラックホールと、銀河の中心に存在する太陽の数十億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールだ。最近では、太陽の1000倍程度の質量を持つ中間質量ブラックホールが存在するという観測結果も得られている。
今回NASAのチャンドラX線観測衛星が観測したのは、われわれから3200万光年離れたうお座の銀河M74にあるX線源だ。ここから放射されているほぼ周期的なX線から、この天体がブラックホールであることはもちろんのこと、その質量が太陽の1万倍という今回もっとも重要な結果が示された。X線の放射強度は、中性子星や恒星質量ブラックホールのものと比較して10倍から1000倍も強いものが観測されている。
このような中間質量のブラックホールの作られ方については、よくわかっていないが、2つの考え方が挙げられている。1つは、星団の中心で10個から数百個のブラックホールが合体して作られるのではないかというもの、もう1つは、大きな銀河に吸収されつつある小さな銀河の核の残骸ではないかというものである