【チャンドラX線観測衛星】 観測成果 第6部
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1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。
「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。
その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第6部
【2005年8月】
「進む先に過去がある」超新星SN 1987AのX線画像
X線観測衛星チャンドラが捉えた、超新星「SN 1987A」により生じた炎のリングの新しい画像が公開された。
▲左はチャンドラによるX線画像、右はハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像(提供:X線- NASA/CXC/PSU/S.Park & D.Burrows. 可視- NASA/STScI/CfA/P.Challis )
われわれから約16万光年離れた近傍銀河、大マゼラン雲に現れた超新星SN 1987Aは、過去400年間でもっともまぶしくかがやいた超新星で、爆発当時は肉眼でも見ることができたことで知られている。
▲超新星SN 1987Aの構造。ラベルは上から順に[(ガス雲内端の)赤道方向の環][熱された突起構造][衝撃波の前面][熱いガス][はね返った衝撃波][冷えた放出物](提供:NASA/CXC/M.Weiss)
超新星SN 1987Aとなった星(Sanduleak -69°202,略称 SK-69)は、爆発を起こす前は太陽の20倍程度の質量を持っていた。SK-69はほぼ1000万年前に生まれ、およそ100万年前には恒星風によって外層をほとんど失い、星の周りに広がるガス雲を作り出した。そして爆発前には、熱くなった表面から吹き出した高速の風によって、冷たいガス雲の中に空洞が生じた。
チャンドラは、1999年にはこの空洞の中を進む衝撃波を捉えていた。空洞の端には、密度の濃いガス領域が広がっていて、これに衝撃波がぶつかることでX線放射が増加することが予測されていた。一番上の画像は、その様子をX線(チャンドラ、左)と可視(ハッブル宇宙望遠鏡、右)で捉えたものだ。可視画像には、宝石をちりばめたネックレスのように、何カ所かで明るく輝いている様子が写っている。また、X線からは、リング全体が数百万度に熱せられていることがわかる。
チャンドラが測定したX線スペクトルによれば、こうした特徴は、外側のガス雲から内側に伸びる突起状の構造に、衝撃波がぶつかったことによるものだ。こうした突起(下の図中、白い部分)は、爆発前にSK-69から吹き出した高速の恒星風がガス雲にぶつかったときに生じたものだ。衝撃波は、SK-69がはるか昔に放出した、未知の大きさのガス雲の一番内側にようやく到達したところだ。ガス雲の中を進むにつれ、衝撃波により紫外線とX線が放射され、星間ガスを照らすことだろう。そのとき、チャンドラの科学者チームの一人が語るように、「SN 1987Aは自分の過去を照らし出す」のだ。
【超新星1987A】
1987年2月23日、大マゼラン雲中に出現した超新星。極大等級2.9等。銀河系近傍では1604年のケプラーの新星以来の出現で、さまざまな観測機器が向けられ、日本の陽子崩壊実験施設カミオカンデIIでは超新星からのニュートリノが観測された。青色超巨星が超新星爆発を起こしたというユニークな超新星で、現在も爆発で放出されたガスや残骸が広がっており、X線衛星やハッブル宇宙望遠鏡も観測を継続している。
【2005年10月】
銀河の中心で、巨大ブラックホールが星を育てる
我々の天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールが、星の誕生を促していることが、NASAのチャンドラX線観測衛星によって明らかになった。これまでに観測できなかった新しいタイプの星形成モデルで、通常の星形成とは様々な面で異なる特殊な環境のようだ。
▲(左)チャンドラによる天の川銀河の中心のX線画像、(右)いて座A*をとりまく円盤のイメージ図(提供:X線画像:NASA/CXC/MIT/F.K.Baganoff et al.、イラスト:NASA/CXC/M.Weiss)
いて座A*(Sgr A*)は、我々の天の川銀河のまさに中心に位置する、巨大ブラックホールと考えられている天体である。ブラックホールといえば、あまりに強い重力のためいったんその圏内に入り込んでしまった物質は二度と脱出できないとされる天体で、一般に破壊的な存在というイメージが強い。ましてや銀河中心の巨大ブラックホールともなると、通常のブラックホールと比べ桁違いに大きいので、なおさら恐ろしいものに感じられる。
ところが、赤外線の観測によって、いて座A*から1光年も離れていない位置に大質量の星がいくつか存在することがわかった。今回のチャンドラのX線による観測が行われるまで、天文学者は首をかしげていた。従来の星形成モデルでは、星の誕生に必要なガスはすべて巨大ブラックホールに吸い込まれてしまうと考えられていたからだ。
この謎をとくために、2つのモデルが提案された。1つ目は、いて座A*をとりまく高密度な降着円盤が、巨大ブラックホールの及ぼす潮汐力を相殺して星の誕生が可能になったという「円盤のゆりかご説」。2つ目は、巨大ブラックホールから遠く離れた星団で形成された星が引き寄せられたという「移住説」だ。「移住説」では、大質量星だけでなく、太陽程度の小さな星が100万個程度、巨大ブラックホールを囲んでいるはずだと予測される。一方「円盤のゆりかご説」では、低質量の星はそれほど見つからないだろうとしている。巨大ブラックホールを囲む円盤では従来の星形成の常識は通用せず、大質量の星が生まれる割合が多くなるからだ。
天の川銀河の中心は幾重ものちりとガスのベールに包まれていて、低質量の星を観測するにはX線の目が必要だ。そこで、イギリスとドイツの研究者はX線観測衛星であるチャンドラを利用した。まず、いて座A*の周辺から放出されているX線を測定し、次にオリオン座大星雲中の若い星からのX線と比べた結果、いて座A*の周囲にある低質量星の数は1万個ぐらいであることがわかった。よって、「移住説」は否定されたのだ。
「私たちの天の川銀河の中で、もっとも過酷な環境に打ち勝つとは、生まれようとする星は意外とねばり強いようです」と研究者の一人はコメントしている。しかも、見方によっては、巨大ブラックホールがあったからこそ大質量星がたくさん誕生できたのだ。「ブラックホールが星を破壊するだけでなく、新しい星の誕生を助けたというのは、注目すべきことです」
しかし、そこはやはりブラックホール、最後に肥えるのはブラックホール自身だ。大質量の星は、最後に超新星爆発を起こし、核融合で作られた酸素などの重元素をまき散らすが、これが巨大ブラックホールの周囲に取り込まれるはずだ。実は、いくつかの系外銀河の中心にある巨大ブラックホールを取り巻く円盤では異常に重元素が多く観測されているのだが、こうした事実も「円盤のゆりかご説」で説明可能となるかもしれない。
【2006年6月】
超新星爆発の主役は舞台の隅に・・・
残骸中で謎のふるまいを見せる中性子星
NASAのX線観測衛星チャンドラによって、超新星残骸IC 443の中を航跡を残しながら旅する中性子星が見つかった。驚いたことにこの中性子星は、超新星爆発を起こした張本人でありながら、爆発の中心とは完全にずれた位置で関係ない方向に移動しているように見える。
▲超新星残骸IC 443とJ0617のクローズアップ(右下)。チャンドラとROSAT(米独英によるX線観測衛星)のX線観測(青)、超大型電波干渉計(VLA)の電波観測(緑)、デジタルスカイサーベイDSSの可視観測(赤)による3枚の画像を重ねた。クリックで拡大(提供:Chandra X-ray: NASA/CXC/B.Gaensler et al; ROSAT X-ray: NASA/ROSAT/Asaoka & Aschenbach; Radio Wide: NRC/DRAO/D.Leahy; Radio Detail: NRAO/VLA; Optical: DSS)
超新星残骸は爆発を反映して球殻状に広がる。それならば爆発を起こした後に残される中性子星などの天体は、その中心にいるのが当たり前に思えるし、実際かに星雲(M1)など多くの超新星残骸で確かめられている。
超新星残骸IC 443(解説参照)も、別名「くらげ星雲」と呼ばれるように丸い形をしている。しかし、超新星を起こしたと見られる中性子星、J0617(正式にはCXOU J061705.3+222127)の様子はあまりに奇妙だ。可視光・電波・X線による写真を合成した右の画像からもわかるように、J0617は残骸の隅に近いところにある。そして何より不思議なのが、J0617から伸びているしっぽだ。船が水面に航跡を残すように、このしっぽもJ0617が高温のガスの中を移動した航跡に違いないのだが、明らかに爆発の中心とは違う方向を向いている。どうして超新星爆発の主役がこんなところで、こんな気まぐれな動きをしているのか。多くの天文学者が頭を抱えている。
そもそもJ0617はIC 443の超新星爆発と関係ないのでは、と考えたくなるが、両者を結びつける証拠がある。まず、IC 443は超新星爆発からおよそ3万年経過していると計算される。J0617の中心からのずれを考えると、爆発以来時速80万キロメートルで移動していることになるが、これはJ0617の航跡から推測される現在の移動速度とほぼ等しい。一方、J0617の温度は、年齢が3万年に近いことをうかがわせる。確かに、J0617は超新星爆発を起こした後の中性子星であり、IC 443はそのときに飛び散った残骸なのだ。
実際に超新星残骸の中心から離れた位置に中性子星が見つかることは多い。爆発の勢いで自らも外側へはじかれたのだろう。だが、それならば(他の中性子星で実際に確かめられているように)J0617は爆発の中心と正反対の方向へ動いているはずだ。なぜ、航跡は中心方向に対してほとんど垂直に向いているのだろうか。
この問題は未解決だが、いくつか仮説が示されている。1つは、後にJ0617となる恒星が、超新星爆発を起こす前は高速で移動していたというものである。その場合、「見かけの爆発地点」である超新星残骸の中心は、元の恒星の移動を反映して「実際の爆発地点」からどんどんずれていくので、航跡のずれを説明できる。もう1つは、航跡自体が残骸中のガス流によって流されてしまっているというものだ。似た例としては、彗星の尾が挙げられる。彗星から放出されたガスは、彗星が通った後に残されるのではなくて、太陽風の影響を受けて太陽とは反対方向に伸びる。そのため、われわれから見た彗星の尾は、移動経路とは関係ない方向に伸びているのだ。
すべてを確かめるには、今後10年にわたってJ0617を観測し、実際の移動方向を調べる必要がある。超新星の主役は、舞台の中央から離れていくことで余計に注目を浴びる結果となった。
【超新星残骸】
超新星の爆発で吹き飛んだガスがつくる残骸。球殻状に広がりながら周囲の星間ガスと衝突し、その衝撃波でガスが加熱されるなどしてX線や電波を発している。かに星雲をはじめとして、はくちょう座の網状星雲、ケプラーの超新星残骸、ティコの超新星残骸などが有名である。後者の3つが、内部はもはや空洞になっているのに対して、かに星雲は、中心のパルサーの影響を現在も受けている。
【2006年9月】
超新星残骸RCW 86の正体は、記録上最古の超新星か
X線の目で超新星残骸RCW 86を見た天文学者たちが、この残骸の年齢は従来の推定より若い2000歳であるとの結論を出した。もしそうだとすれば、西暦185年に中国の天文観測者が肉眼で見て記録に残した超新星と、同一の天体かもしれない。
▲2機のX線観測衛星XMM-Newtonとチャンドラによる超新星残骸RCW86。(左)XMM-NewtonによるRCW86の全体像、(右)チャンドラによる一部拡大画像。クリックで拡大(提供:ESA/XMM, NASA/CXC, University of Utrecht (J. Vink))
RCW 86はわれわれの天の川銀河に存在する超新星残骸(解説参照)である。西暦185年に中国などで観測された超新星と位置が合うことから、その残骸ではないかと指摘されていたが、爆発後の経過時間は1万年と見積もられていたため、同一天体説はこれまで否定されてきた。
ところが、オランダ・ユトレヒト大学のJacco Vink氏が中心となり日本の理化学研究所の研究者などが参加したチームの観測によって、RCW 86はやはり185年に観測された超新星の残骸である、という強い証拠が得られた。チームは2つのX線観測衛星、ESAのXMM-NewtonとNASAのチャンドラでRCW 86を改めて観測し、その年齢が正しくは2000歳であると結論づけたのである。
超新星残骸は広がりながら周囲の物質と衝突し、衝撃波による加熱と電磁的効果によって強いX線が放射される。このX線の性質から残骸が広がっていく速度を計算し、残骸の大きさとあわせて逆算すれば爆発後の経過時間がわかる。しかし、RCW 86の場合は場所によって速度が違うために、年齢の見積もりに5倍もの差が出てしまった。
超新星爆発に先立ち、元の恒星からは恒星風が吹き出して周囲の物質を押しのける。そのため恒星を中心に、空洞に近い「泡」が形成されるのだが、恒星風は一様には吹かないため、泡の形はいびつである。超新星爆発直後は、残骸は球状に広がる。ところが、先に泡の境界に到達してしまった残骸は、外側の密度の大きい物質に衝突し速度が遅くなってしまう。「1万歳」という見積もりは、ブレーキがかかった残骸を観測したために年齢を長く逆算してしまったのだ。一方、まだ泡の境界に達していない、元の速度を維持した残骸の観測から出た結論が、「2000歳」である。
今をさかのぼることおよそ2000年、西暦185年に、現在RCW 86が存在する方向に「新しくて明るい星」が現れたことを、古代中国の天文観測者が記録している。それによれば、「新しい星」は恒星のようにきらめき、天球に対して動くことはなかった。さらに、およそ8か月かけて暗くなっていったという。これは現代の観測例と矛盾のない、人類が記録した最古の超新星爆発だ。
「私自身この研究を始めるまで、関連性を疑っていました。しかしながら、われわれの研究は、超新星残骸RCW 86の年齢が記録上最古の超新星と一致することを示しています」とVink氏は語る。「天文学者は5年や10年ほど前の記録を参照することに慣れてしまっているので、2000年前の記録を元に研究ができるのは驚くべき事です」
【2007年2月】
X線天文衛星チャンドラ、わし星雲の「創造の柱」を透視
「わし星雲」はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した柱型の暗黒星雲で有名だ。この柱は星が誕生する現場として知られており「創造の柱」とも呼ばれるが、全体として見た場合「わし星雲」における星形成は終わりに近いとされている。新たに公開されたNASAのX線天文衛星チャンドラによる画像も、これを裏付けている。
▲「創造の柱」。チャンドラによるX線画像と、HSTの可視光画像を重ね合わせた画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/U.Colorado/Linsky et al.; Optical: NASA/ESA/STScI/ASU/J.Hester & P.Scowen.)
わし星雲はへび座の方向7000光年の距離にある散光星雲で、「創造の柱」はその中にある。星形成といえば、多くの人がここを思い浮かべるほど、1995年にハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した画像は有名だ。柱の正体は奥の光をさえぎる濃いちりとガスで、先端には星の胎児を宿したグロビュール(解説参照)が数多く見つかっている。付近の巨大質量星が放つ強烈な光にさらされて周囲の物質をはぎ取られていることから、「蒸発するガス状グロビュール(evaporating gaseous globules, EGGs)」とも呼ばれる。
わし星雲と重なるように散開星団NGC 6611が存在し、両者は合わせて「M(メシエ)16」と呼ばれる。ふつう、M16を眼視観測しても散開星団だけが目立つ。事実M16の中では、星雲が集まって恒星となるプロセスは何百万年も前にピークを過ぎてしまったようだ。「創造の柱」と「EGGs」はベビーブームの面影を伝える最後の存在といえる。
しかし、天文衛星チャンドラの観測によれば、そこでさえも星の産声はほとんど聞こえないらしい。
チャンドラは暗黒星雲に遮られずに通過したX線をとらえられる。言ってみれば、「創造の柱」をレントゲン撮影しているようなものだ。恒星はX線を放つし、星が生まれつつある現場からもX線が観測される。しかし、M16の中でチャンドラが見つけた1000あまりのX線源は、ほとんどが星団に所属する恒星だった。
【2007年5月】
チャンドラ、ハッブル、スピッツァーがとらえたソンブレロ銀河
春を代表する有名な銀河を、NASAの天文観測衛星たちが撮影した画像が公開された。とらえられたのは「ソンブレロ銀河」M104で、X線・可視光・赤外線でまったく異なった姿を見せている。
▲3機の観測衛星が撮影したM104の姿を重ねた合成画像。青はチャンドラ(X線)、緑はハッブル(可視光)、赤はスピッツァー(赤外線)が撮影した画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA / UMass / Q.D.Wang et al.; Optical: NASA / STScI / AURA / Hubble Heritage; Infrared: NASA / JPL-Caltech / Univ. AZ / R.Kennicutt / SINGS Team)
M104はおとめ座の方向2,800万光年の距離にある、太陽の8000億倍もの質量を持つ巨大銀河だ。望遠鏡で見た姿がメキシコのソンブレロという帽子に似ていることから、「ソンブレロ銀河」とも呼ばれる。
ソンブレロ銀河はハッブル宇宙望遠鏡や赤外線天文衛星スピッツァーが撮影したことでも知られている。今回、X線天文衛星チャンドラの画像が公開されて、NASAが誇る3つの宇宙観測機によるソンブレロ銀河の姿がそろった。一番大きな画像は、チャンドラ、ハッブル、スピッツァーのデータを重ねたものである。
青は、チャンドラによるX線画像だ。ソンブレロ銀河に存在する高温のガスや点光源、さらにはずっと奥に存在するクエーサーも写っている。見かけ上銀河の直径は5万光年だが、X線の輝きは銀河の中心から6万光年以上の範囲まで広がっている。銀河の中心や円盤部で相次いだ超新星爆発がきっかけとなって、物質が遠くまで運ばれたらしい。
緑は、ハッブルによる可視光画像だ。中央部の星の光が、ちりがつくる暗黒帯にさえぎられている。赤く着色されたスピッツァーの近赤外線画像では、同じちりの帯が明るく見えている。
【2007年6月】
チャンドラとハッブルがとらえたηカリーナ
NASAのX線天文衛星チャンドラとハッブル宇宙望遠鏡(HST)による、りゅうこつ座のη(エータ)星をとりまく星雲の画像が公開された。
われわれから7500光年の距離にあるりゅうこつ座のη星(ηカリーナ)は、150年ほど前に大爆発を起こした。爆発によって太陽質量の10倍以上の物質が放出されたが生き残り、今も輝いている。そのηカリーナは、核融合の燃料をものすごい勢いで消費していて、まもなく一生の終わりを迎えようとしている。
ηカリーナのたどる運命は、2006年に観測された超新星2006gyと似たものになるだろう。超新星2006gyは、もともと太陽の150倍もある巨大な恒星だったと考えられているが、はるか遠くの銀河で起きたことを考慮すると、実際の明るさは史上最大だったようだ。太陽の100倍から150倍ほどの質量をもつηカリーナの最後の爆発は、月と同じくらいの明るさを放つと考えられている。
▲ハッブル宇宙望遠鏡によるηカリーナの可視光画像。クリックで拡大(提供:NASA/STScI)
HSTの可視光写真(1枚目の画像)には、星から放出されたガスやちりが写っている。星の両極から噴出した物質は、球殻のペアを形成していて、さらに外側にも薄い雲がみられる。
▲X線天文衛星チャンドラによる同領域の画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/GSFC/M.Corcoran et al.)
一方、チャンドラがとらえたX線の観測データ(2枚目の画像)からは、ηカリーナから放出された物質が周辺のガスやちりに衝突して、ガスが100万度という高温に加熱されていることがわかる。X線で輝く高温のガスは、可視光で輝いている領域をはるかに越えて広がっている。
▲X線天文衛星チャンドラとハッブル宇宙望遠鏡によるηカリーナの合成画像。
また、可視光だけで輝いているように見える内側の星雲も、X線でかすかに照らされている。ηカリーナには伴星が存在し、2つの星が放出するガスどうしが衝突することでX線を生み出しているようだ。この伴星がηカリーナの今までの進化にどのような影響を及ぼしてきたのか、今後どのような影響を与えるのかは、まだよくわかっていない。
【2007年9月】
銀河団に突進する銀河のすがた
長い尾をたなびかせて、銀河団に突進する銀河ESO 137-001の姿がとらえられた。銀河に取り残された物質からは、新たに星が生まれているようだ。
▲ESO 137-001。クリックで拡大(提供:(X線)NASA/CXC/MSU/M.Sun et al、(可視光、Hα光)SOAR (MSU/NOAO/UNC/CNPq-Brazil) /M.Sun et al.)
▲X線観測衛星XMM-Newtonがとらえた銀河団Abell 3627の全体像。白い枠で囲まれているのが上の画像の範囲。クリックで拡大(提供:XMM、ESA/MSU/M.Sun et al.)
NASAのX線天文衛星チャンドラと南米チリにある望遠鏡SOARが、みなみのさんかく座の方向2億光年の距離に存在する銀河ESO 137-001を観測した。どちらも、銀河からたなびく20万光年という長い尾をとらえている。
ESO 137-001は、巨大な銀河団Abell 3627の中心に向かって突進している。長い尾の正体は、銀河からはぎとられた物質だ。
チャンドラによるX線観測では、銀河団に存在する数百万度のガスが観測された。そして、SOARによる赤外線観測は、高温ガスの尾を中心に、若い星に照らされた水素が放つ光をとらえている。それらの星は、約1千万年前に生まれたと考えられている。
【銀河団】
銀河群より大規模な恒星の集団を銀河団と呼ぶ。直径数千万光年の空間に数百~数千個オーダーの銀河が集まっている。銀河系にもっとも近い銀河団は「おとめ座銀河団」で、1000個以上の銀河が集まっている。私たちの局部銀河群を含めた局部超銀河団の中心に位置し、局部銀河群は「おとめ座銀河団」方向へ引きつけられていることも観測されている。