古代エジプト展 第1章 古代エジプトの死生観 永遠の生命を求めて-(2)
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永遠の生命を求めて
The Status of the Dead
死者が再生・復活して永遠の生命を得るにあたり特に重要な神々は、太陽神と冥界の王オシリス神である。
太陽神は、日中に天を航行して地上の住人に生命を与え、落日で象徴的な死を迎える。夜の間に西から東へ冥界を旅すると、夜明けに再び新たな生命を得る。古代エジプト人はこの永遠のサイクルに自分も加わることを望み、多くの葬送文書に太陽神への礼賛を記した。
永遠の生命を約束するもう1柱の神が、冥界の王オシリス神である。神話では、地上の王だったオシリス神は弟セト神の裏切りで殺害されるが、オシリス神の妹であり妻のイシス女神が遺体をミイラにして再生・復活させ、死者の世界の支配者となった。この神話にあやかって人々は死者をミイラにし、オシリス神のように再生・復活を果たすことを願った。
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デニトエンコンスの供養碑
Funerary stela of Denitenkhonsu
彩色を施した木製の供養碑は、第22王朝のテーベの上流階級の間で標準的な副葬品となった。この供養碑はその典型例で、1つの場面のみが描かれている。亡くなった女性が右に立ち、太陽神ラー・ホルアクティを礼拝している。太陽神は王笏、すなわちヘカ杖、殻竿、王権を表す飾りの付いたウアス杖をもっている。右手には生命を意味するアンクを持ち、左手で握る王笏の上に付いたもう1つのアンクは女性に向けられているが、これはたくさんの供物を捧げた見返りとして、女性が新しい生命を受け取っていることを表している。
供物は細部まで丁寧に描かれ、カモ、果物、ワイン、そしてロータスの花などが見られる。この場面の上には、生命を与える太陽の力を象徴する有翼の太陽円盤とスカラベ、2頭のジャッカル、そして太陽神と奉納者の身元を述べた短いヒエログリフが記されており、奉納者デニトエンコンスは、この家の女主人でアメン・ラー神の歌い手、かつアンクコンスの妻と書かれている。
木、彩色、高さ33.0㎝
第3中間期、第22王朝、前800年頃、おそらくテーベ

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プスセンネスの供養碑
Stela of Psusennes
この見事な彫刻を誇る供養碑は碑文と図の二つの部分に分かれている。ヒエログリフで記された主文と、場面に添えられた説明書きを見ると、アメン・ラー神の大司祭であり、コプトスの町の豊穣神ミンの大司祭でもあったプスセンネスが、この供養碑の所有者であることがわかる。
供養碑上部、有翼の太陽円盤の右下に、高官が身につける幾重にも襞が寄った亜麻布の衣をまとうプスセンネスの姿が描かれている。
彼は供養碑が発見された場所であるアビュドスの三神にティト(イシスの結び目)を捧げている。プスセンネスの前にはまず、冥界の王オシリスが丈の高いアテフ冠を被ったミイラの姿で立っている。オシリス神は支配権を象徴する王杖、殻竿、そして長いウアス杖を持っている。その背後には、王権を体現するハヤブサ頭の息子、ホルス神が立ち、ここでは上下エジプトの王冠を被っている。そして最後にオシリス神の妻でホルス神の母であるイシス女神が、エジプトの王妃も身につけた女神を象徴するハゲワシの頭飾りを付けて立っている。イシス神の名前は、頭の部分に記されている。
ホルス神とイシス神は、生命のシンボルであるアンクを手に持ち、プスセンネスに永遠の生命を与えようとしている。
石灰岩、高さ94㎝、幅61㎝
第3中間期、第21王朝、前950年頃、アビュドスD22号墓
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