統一理論への道 第3回 (2) 超弦理論の描く宇宙の姿
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◆統一理論への道 第3回 (2) 超弦理論の描く宇宙の姿
◆◆ブレーンワールド
ブレーンワールド(膜宇宙、braneworld)またはブレーン宇宙論(brane cosmology)とは、『我々の認識している4次元時空(3次元空間+時間)の宇宙は、さらに高次元の時空(バルク(bulk))に埋め込まれた膜(ブレーン(brane))のような時空なのではないか』と考える宇宙モデルである。
低エネルギーでは(我々自身を含む)標準模型の素粒子の相互作用が4次元世界面(ブレーン)上に閉じ込められ、重力だけが余剰次元(5次元目以降の次元)方向に伝播できる、とする。
◆歴史、概説
高次元時空の概念は、もともと素粒子論、場の理論に基づいて提唱され、研究されてきた。元来は20世紀初頭にテオドール・カルツァとオスカル・クラインによって提唱されたカルツァ=クライン理論による重力と電磁気力の統一が目的であった。しかしカルツァ=クライン理論は電磁気力の精密測定との整合性がとれず、歴史から忘れ去られる。
1980年代、超弦理論において26次元の高次元時空が存在すれば弦の量子化が可能であることが発見された。ここで高次元模型は再び日の目を見る。90年代には、Dブレーン(超弦の端点が固定された膜=Dirichlet-brane)などの概念が確立し、弦理論における高次元時空の概念はさらに発展した。この期を境に、「高次元時空上に存在する、ゲージ粒子などの特定の種類の粒子が局在化した、4次元以上の時空の膜」の意として「ブレーン」と言う言葉が誕生した(語源はmembrane(膜))。これをきっかけに高次元模型は再び研究の対象となり、90年代後期には現象論にも応用される。
1998 - 2000年にアントニアディス、アルカニハメド(en)、ディモポーロス(en)、そしてドヴァリ(en)らの大きな余剰次元(large extra dimension)の模型、
リサ・ランドールとラマン・サンドラムのワープした(歪んだ)余剰次元(warped extra dimension)の模型、ドヴァリ・ガバダジェ・ポラッティのブレーン誘導重力(brane induced gravity)に基づく模型などが提唱された。以降、その理論的、現象論的側面からの研究、宇宙論的側面を明らかにする研究などが活発に行われるようになった。近年精力的に研究が進められている宇宙モデルの1つである。
このような研究の動機のひとつは、超弦理論やM理論における高次元空間での整合的な理論構築である。時空の次元を増やす理論は、カルツァ=クライン理論をはじめとして古くからあるが、余剰次元は小さく丸まっていて通常の低エネルギーの観測手段では見えないとするコンパクト化(en)の考えに基づいていた。これに対し、ブレーン仮説では、余剰次元は小さくはないが、低エネルギーの物質や電磁場はブレーン上にのみ存在でき、重力だけは余剰次元にも存在しうる、と考える。
ブレーン仮説を考えると、物理学における4つの基本的な力(相互作用)のうち、重力だけが極端に弱いという階層性問題を「重力だけがバルク中も作用するから」として説明できる可能性がある。これも高次元模型を考える大きなモチベーションである。空間の埋め込みの数学的研究は19世紀に遡り、物理的なブレーンワールドは、1980年代頃から研究され、発展してきたが、上述のように、1998年頃に階層性問題への適用が再認識され、加速器、宇宙等での観測の可能性が指摘されて、一躍注目を集めるようになった。
これらの概念を応用して、宇宙の初期特異点の解決を試みるモデルであるビッグバンの起源を複数のブレーンの衝突で説明するエキピロティック宇宙モデル、宇宙のインフレーションをブレーンの運動で捉えるモデル、そして宇宙のダークエネルギー問題の解決を試みるモデルなど、宇宙論のさまざまな分野でアイデアが提出され研究されている。
また高次元模型の自然な帰結として、一般相対性理論を高次元時空で考える研究もされてきた。例えば時空が高次元であるならば、陽子ビームを衝突させるLHC加速器でマイクロ・ブラックホールが生成される可能性も指摘され、近い将来実験検証が開始される予定である。
ブレーン宇宙モデルでは、一般に余剰次元の効果の現れるエネルギースケールが、4次元理論での重力スケール(プランクスケール)や従来の高次元宇宙模型(カルツァ=クライン理論)に比べてずっと小さくなり得るため、初期宇宙にブレーンのサイズが余剰次元のサイズと同程度の時期があれば、将来的にその痕跡が宇宙マイクロ波背景放射の揺らぎなどから観測されると期待されている。
◆◆多元宇宙論
多元宇宙論(multiverse)とは、複数の宇宙の存在を仮定する仮説である。
多元宇宙は、仮説として可能性のある複数の宇宙の集合である。多元宇宙はすべての存在を含む。これは、われわれが一貫して経験している歴史的な宇宙に加え、空間、時間、物質、およびエネルギーの全体、そして、それらを記述する物理法則および物理定数なども含まれる。この語は1895年にアメリカの哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズによって造られた。多元宇宙が含むそれぞれの宇宙は、平行宇宙と呼ばれることもある。
多元宇宙の構造、そこに含まれるそれぞれの宇宙の性質、およびそれら宇宙の間の関係は、考えている特定の多元宇宙仮説に依存する。宇宙が一つでないと考える理由(多元宇宙が存在する意味)は仮説によってさまざまである。宇宙論、物理学、天文学、宗教、哲学、トランスパーソナル心理学およびフィクション、特にサイエンス・フィクションとファンタジーにおいて、多元宇宙の仮説が立てられてきた。これらの文脈では、平行宇宙は代替宇宙、量子宇宙、相互浸透次元、平行次元、平行世界、代替現実、および代替時系列などと呼ばれることもある。
◆M理論の宇宙
M理論において、われわれの宇宙およびその他の宇宙は11次元および26次元空間内における(次元数は観測者のカイラリティに依存する)pブレーン同士の衝突によって創られる。そして、各宇宙はDブレーンの形態を取る。各宇宙にある物体はそれらの宇宙のDブレーンに本質的に閉じ込められているが、おそらくDブレーンに制限されていない力である重力を通して他の宇宙と相互作用しうる。これは"量子宇宙"における宇宙とは異なっているが、これらの概念はどちらもともに機能する。
◆◆平行宇宙 (parallel world)
パラレルワールド(parallel world)とは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。並行世界、並行宇宙、並行時空ともいう。
パラレルワールドは我々の宇宙と同一の次元を持つ。
「この現実とは別に、もう1つの現実が存在する」というアイディアは、「もしもこうだったらどうなっていたのか」という考察を作品の形にする上で都合がよく、パラレルワールドはSFにおいてポピュラーなアイディアとなっている。
◆タイムトラベルとパラレルワールド
タイムトラベルを扱ったフィクションにおいて、タイムパラドックスの解決法としてパラレルワールドが用いられる場合がある。すなわち、タイムトラベルで行き着いた先は実際は現実に酷似したパラレルワールドであり、どの時間軸で歴史を変えようとしても自分がいた元の世界には影響しない。物理学者のデイヴィッド・ドイッチュは、多世界解釈と絡めてパラドックスを解決するモデルを提唱した。
◆パラレルワールドは実在するか
パラレルワールドはSFでよく知られた概念であるだけでなく、実際に物理学の世界でも理論的な可能性が語られている。例えば、量子力学の多世界解釈や、宇宙論の「ベビーユニバース」仮説などである。ただし、多世界解釈においては、パラレルワールド(他の世界)を我々が観測することは不可能でありその存在を否定することも肯定することも出来ないことで、懐疑的な意見も存在する。
理論的根拠を超弦理論の複数あるヴァージョンの一つ一つに求める考え方も生まれてきている。現在の宇宙は主に正物質、陽子や電子などで構成されているが、反陽子や陽電子などの反物質の存在が微量確認されている。この物質の不均衡は、ビッグバンによって正物質と反物質がほぼ同数出現し、相互に反応してほとんどの物質は消滅したが、正物質と反物質との間に微妙な量のゆらぎがあり、正物質の方がわずかに多かったため、その残りがこの宇宙を構成する物質となり、そのため現在の既知宇宙はほぼ全ての天体が正物質で構成されているのだと説明されている。ビッグバンの過程において、この宇宙以外にも他の宇宙が無数に泡のごとく生じており、他の平行宇宙では、逆に反物質のみから構成される世界が存在するのではないかという仮説も提示されている。
◆◆ワームホール
ワームホール (wormhole) は、時空構造の位相幾何学として考えうる構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でトンネルのような抜け道である。
ワームホールが通過可能な構造であれば、そこを通ると光よりも速く時空を移動できることになる。ワームホールという名前は、リンゴの虫喰い穴に由来する。リンゴの表面のある一点から裏側に行くには円周の半分を移動する必要があるが、虫が中を掘り進むと短い距離の移動で済む、というものである。
「ワームホール」という名称は、ジョン・アーチボルト・ホイーラーが1957年に命名した。
ワームホールは、アインシュタイン-ローゼンブリッジ (アインシュタイン-ローゼン橋) とも呼ばれるが、現在のところ、数学的な可能性の一つに過ぎない。
シュヴァルツシルトの解で表されるブラックホール解は、周りの物質を何でも呑み込む領域を表すが、数学的にはその状況を反転したホワイトホールも存在する。
ブラックホールとホワイトホールを単純に結んでワームホールと考えてもよいが、この場合は通過不可能である。またホワイトホールはブラックホールとは逆の、落下不可能な反地平面を持つが、この反地平面は物理的にきわめて不安定であるためホワイトホールを仮定するようなワームホールはすぐに潰れてしまう。
また、観測的には、ホワイトホールのような領域の存在を示唆する事実は全くない。 電荷を加えたブラックホールでは通過可能になり得るが、元の場所へは戻ってこられないし、そもそもそのような解はブラックホールの外の座標系をブラックホールの内側まで延長したことで得られるものであり、妥当性に疑問がある。また、そのような場合は特異点が真空を分極するため、人間が耐えられないほどの高エネルギーかつ高フラックスの放射線が発生していると考えられる。
したがって、通行可能なワームホールは誕生した段階で進行方向に対して地平面も反地平面も持たず、特異点も持たないような時空構造を持つ必要がある。つまりブラックホールやホワイトホールを単純に連結した時空とは本質的に異なるものである。また人間が利用することを考える場合は、トンネルの内側は潮汐力が十分小さく通過に必要となる時間がトンネルの外を直接目的地に向かうよりも十分短くなるような時空構造になっていることが望ましいであろう。
◆実用化への問題
通過可能なワームホールを考えることは研究上の遊びでもあり、キップ・ソーン (Kip Thorne) らの1988年の論文を端緒に市民権を得ている。小説「コンタクト Contact」を執筆中だったカール・セーガン (Carl Sagan) が、地球外生命との接触が可能になるようなシナリオをなんとか科学的に作れないか、とソーンに話を持ちかけたのがきっかけだったという。ソーンらは「通過可能であるワームホール (traversable wormhole)」を物理的に定義し、アインシュタイン方程式の解としてそれが可能かどうかを調べた。そして、「もし負のエネルギーをもつ物質が存在するならば、通過可能なワームホールはアインシュタイン方程式の解として存在しうる」と結論し、さらに、時空間のワープやタイムトラベルをも可能にすることを示した。ただし、ここでの研究は、現在の技術では制御が難しい高密度(中性子星の中心部ほど)の負のエネルギーの存在を前提としており、また、どうやってワームホールを通過するのか、あるいは出口がどこなのかは全くの未知の問題として棚上げされた上での研究である。