【宇宙の神秘】 宇宙は本当に膨張しているのか・・・
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20世紀に入り行われた観測から、宇宙は膨張をしていると見なされている。だが過去には様々な考えがあった。アイザック・ニュートンは絶対時間・絶対空間の前提から導かれたニュートン力学が支持され、人々は宇宙は静的で定常であると見なしていた。
▼ハッブル宇宙望遠鏡と宇宙
1915年にアルベルト・アインシュタインが発表した一般相対性理論では、エネルギーと時空の曲率の間の関係を記述する重力場方程式(アインシュタイン方程式)があった。この方程式が導き出す宇宙の未来は、星々の重力によって宇宙は収縮に転じ、やがて一点に潰れるというものだった。この解は、アインシュタイン自身やウィレム・ド・ジッター、アレクサンドル・フリードマン、ジョルジュ・ルメートルらによって導かれた。当初アインシュタインは、宇宙は定常であると考えていたため自分が見つけた解に定数(宇宙定数)を加えることで宇宙が定常になるように式に手直しを加えた。
◆「赤方偏移」の発見
1912年から1922年の間に、アリゾナ州にあるローウェル天文 台の一人の天文学者、ベスト・スライファーは、これらの天体の多くのものか ら来る光の波長は、地上で観測する波長に比べて赤い方(長波長側)にずれ ていること、すなわち「赤方偏移」していることを発見した。その後すぐに、 これらの星雲状の天体は遠方にある銀河であることが示された。
▼太陽のスペクトル(左)と比べ、遠方の超銀河団のスペクトル(右)では、フラウンホーファー線がより長波長側(赤い方)へシフトしている。
まもなく、アインシュタインの重力理論の研究をしていた物理学者や数学者 は、アインシュタインのもともとの方程式に、膨張する宇宙を表す解があるこ とを発見した。それらの解においては、遠方にある天体から来る光は、膨張 する宇宙を伝わってくるうちに赤方偏移すること、また赤方偏移の量は天体の 距離とともに増加することも示されていた。
◆◆宇宙膨張の発見
1929年にエドウィン・ハッブルが、すべての銀河が遠ざかっている事を発見し、さらに距離が遠い銀河ほど遠ざかる速度が早いことを見出した(ハッブルの法則)。
◆ハッブルの法則
ハッブルが銀河の赤方偏移を測定し、宇宙膨張を発見したウィルソン山天文台の100インチフッカー望遠鏡
ハッブルは銀河の赤方偏移の発見者として一般に知られている[2]。1929年、ハッブルとミルトン・ヒューメイソンは、銀河の中にあるセファイド変光星を観測し、セファイド変光星の明るさと変光周期の関係を使って、銀河の赤方偏移と距離の間の経験則を定式化した。これは、赤方偏移を後退速度の尺度と考えれば、2つの銀河の間の距離が大きくなるほど、互いに離れる相対速度も距離に比例して大きくなるというもので、今日ハッブルの法則として知られているものである。ただし、ハッブルは複数あるセファイド変光星の型を区別していなかったため、ハッブル定数としては、今日知られている値の約7倍の500km/s/Mpcという値を算出している。
これとは別に、一様等方の宇宙についてのアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論の方程式からアレクサンドル・フリードマンが導き出した宇宙モデルには、膨張する宇宙が含まれていた。ハッブルの発見は、このモデルを実証したものでもある。
この発見は後にビッグバン理論につながることになる。
この観測結果から「膨張する宇宙」という概念が生じ、アインシュタインも「人生最大の誤り」と述べ重力場方程式から宇宙定数を外した。
1929年に、カリフォルニア州のパサデナにあるカーネギー天文台で研究 していたエドウィン・ハッブルは、多数の遠方銀河の赤方偏移と距離を 測定した。赤方偏移はスペクトルから求め、銀河の距離は、セファイドと 呼ばれるタイプの変光星の明るさを測るという方法で決められた。 宇宙膨張のために銀河はわれわれから遠ざかるように見えるが、赤方偏移 の量はその遠ざかる速度(後退速度)に比例していた。
ハッブルは、銀河の赤方偏移、すなわち後退速度が銀河までの距離に 比例して増加することを示した。
これは宇宙が実際に膨張している ことの証拠だった。
宇宙が膨張していることが理解されるとすぐに、宇宙は過去には今よりも 小さかったはずであることが認識された。この考えを過去へ過去へと推 し進めてゆくと、宇宙は結局は小さな「一点」になる。 今日ではこの「宇宙が一点になる時」が、宇宙の始まりであると考えら れている。急激な爆発的膨張による一点からの宇宙の誕生は、後に 「ビッグバン」と呼ばれるようになった。
近年の宇宙論は、膨張する宇宙を説明するために「ビッグバン」と「インフレーション」を中心とした標準モデルが形成されるようになった。
▼「ビッグバン」と「インフレーション」を中心とした膨張宇宙の標準モデル
◆加速膨張する宇宙
2011年のノーベル物理学賞は「遠方の超新星爆発の観測による宇宙の加速膨張の発見」に対して、米カリフォルニア大学バークリー校のサウル・パールムッター教授、オーストラリア国立大学のブライアン・シュミット教授、米ジョン・ホプキンス大学のアダム・リース教授の3氏に贈られた。
左より、パールムッター氏(Saul Perlmutter)、シュミット氏 (Brian P. Schmidt)、リース氏(Adam G. Riess)
◆「膨張速度の加速」の証拠
パールムッター、シュミット、リースの3氏が宇宙の加速膨張の証拠をつかんだのは「超新星爆発」の観測からだった。超新星爆発の中でも、Ia型超新星爆発の絶対光度(天体によって放射される単位時間当たりの全エネルギー)は比較的詳しく解明されている。この絶対光度を使うと、光源までの距離を計ることができる。パールムッター教授は超新星宇宙論プロジェクト(SCP)のチームを率い、シュミット教授とリース教授は高赤方偏移超新星探査チーム(HZT)を率いた。2つの実験チームは、遠方のIa型超新星爆発を多数観測し、その明るさがこれまで考えられていた減速膨張宇宙からの予想より、暗くなっているという事実を突き止め、宇宙が加速膨張をしている事を発見した。1998年に2つのチームがほぼ同時にそれらの研究結果を発表しています。
宇宙の遠方を見るという事は、宇宙の昔の姿を見るという事に相当する。2つのチームが観測したのは、現在の宇宙年齢からさかのぼること、20億年前あたりのIa型超新星爆発の光だった。宇宙年齢が137億歳なので、宇宙が生まれてから約117億年後のIa型超新星爆発ということになる。
宇宙膨張によって引き起こされた銀河の後退速度による赤方偏移と、地球からその銀河までの距離の関係は、宇宙が減速膨張するのか、加速膨張するのかによって変わってくる。現在観測される超新星爆発は、遠くのものほどより昔に起こったものに対応する。このため、減速している場合と比べて、宇宙膨張が加速している場合は、同じ距離にある超新星の後退速度は小さくなる。超新星の後退速度は距離と共に増大するから、これは、同じ速度で運動する、もしくは同じ赤方偏移を示す超新星までの距離が、加速膨張の場合の方がより大きくなり、みかけの明るさがより暗くなることを意味する。
しかし、初期の観測結果が発表された頃は、この発見には疑問が投げかけられた。宇宙空間に存在する塵などによる吸収により、光が暗くなる効果との区別がつかないという反論があった。この説によれば、吸収の効果により、より遠い超新星爆発ほど、より暗くなっていくことが予測されていた。その場合、加速膨張であろうが、減速膨張であろうが、その傾向は変わらず、区別がつかない。
◆減速膨張から加速膨張へ
一方、SN1997ffというもっと遠方のIa型超新星爆発がハッブル宇宙望遠鏡により偶然観測されており、2001年にそのデータの再解析が行われました。SN1997ffは、約30億年前(宇宙が生まれてから約107億年後)に爆発したIa型超新星爆発である。解析の結果は、塵による吸収の予想に反したものだった。SN1997ffからの光は、より遠くの爆発であるにもかかわらず予想したほど暗くなっていなかった。このことから、一連のIa型超新星爆発の距離に依存した明るさの変化は、塵による吸収ではなく、30億年ぐらい前までは減速膨張宇宙だったものが、途中で加速膨張宇宙に転じた効果なのだと結論づけられている。
◆減速から加速へ 宇宙膨張の奇妙な変化
From Slowdown to Speedup(SCIENTIFIC AMERICAN February 2004)
初出掲載 日経サイエンス2004年5月号
ニュートン(Isaac Newton)の時代から1990年代後半まで,重力といえば物質が互いに引き合う力のことだと考えられてきた。私たちを地面に引き止めているのは重力だし,投げ上げたボールが下に落ちてくるのも,月が地球を周回する軌道にとどまっているのも,重力が働いているからだ。私たちの太陽系も巨大な銀河団も,重力なしではばらばらになってしまう。アインシュタインの一般相対性理論によれば,重力は必ずしも引力であるとは限らず,反発力ともなりうるのだが,多くの物理学者はそんな可能性はあくまで理論上のもので,現在の宇宙には何のかかわりもない話だと考えてきた。天文学者もごく最近まで,重力によって宇宙膨張のスピードが鈍っているに違いないと信じ込んでいた。
ところが1998年,重力が反発力として働いている兆候が見つかった。遠く離れた超新星(星が爆発し,わずかの間だけ太陽の100億倍もの明るさで輝く現象)を注意深く観測した結果,その光が理論から予想される明るさよりも暗いことがわかったのだ。理由としてまず考えられるのは,数十億年前に爆発した超新星の光が,予想以上の長距離をたどって地球に到達した可能性だ。だとすると,宇宙の膨張速度はそれまで考えられていたように減速しているのではなく,実は加速していることになる。さらに遠方にある超新星を観測した近年の結果から,宇宙膨張が確かに加速していることが裏付けられた。
しかし,宇宙は誕生以来これまで一貫して加速膨張を続けてきたのか,それとも加速は比較的最近の出来事であり,例えば50億年ほど前に加速が始まったのだろうか? その答えは大きな意味を持つ。宇宙膨張がずっと加速し続けてきたのなら,宇宙の進化に関するこれまでの理論は全面的な修正を迫られる。だが,加速膨張が最近の現象にすぎないなら(宇宙論研究者たちはそう期待している),いつどのように膨張が加速し始めたのかを調べて,その原因を突き止められるだろう。そして,宇宙が将来どんな運命をたどるのかという,より大きな疑問に答えを出せるかもしれない。
アインシュタインの理論では,引力としての重力は宇宙論的なスケールでも既知のあらゆる物質とエネルギーに当てはまる。したがって,宇宙の膨張はしだいに遅くなるはずで,その減速度は宇宙に存在する物質とエネルギーの密度によって決まることになる。しかし,一般相対論は反発力としての重力を生じるような奇妙なエネルギーの存在も許している。宇宙の膨張が加速しているという発見は,そうした奇妙なエネルギーが実在することを明確に示した。いわゆる「暗黒エネルギー」だ。
宇宙膨張が加速するか減速するかは,2つの強大な力の綱引きによって決まる。物質によって生じる引力としての重力と,暗黒エネルギーが生み出す反発力としての重力──そのどちらが勝るのか。勝負を決めるのは,それぞれの密度だ。宇宙が膨張すると体積が増えるため,物質の密度は低くなっていく。暗黒エネルギーについては,詳細はほとんどわかっていないが,その密度は宇宙が膨張しても変わらないか,変わるとしても非常にゆっくり変化すると考えられている。現在の宇宙では暗黒エネルギーの密度が物質の密度を上回っているが,はるか過去には物質の密度のほうが大きく,そのため宇宙の膨張が減速していた時期もあったのだろう。
かつて宇宙膨張が減速している時期があった直接の証拠を探すことが重要だ。そうした証拠は現在の標準的な宇宙モデルの裏付けとなるし,現在の加速膨張をもたらした原因についても手掛かりが得られるだろう。はるか彼方の星や銀河からの光を望遠鏡で観測すると過去の宇宙(光が放射された当時の姿)が見えるから,遠方の天体を観測すれば宇宙膨張の歴史をたどることができる。銀河までの距離と,その銀河の後退速度との関係に,宇宙膨張の歴史が隠されている。もし宇宙膨張が減速しているなら,遠くの銀河の後退速度はハッブルの法則から予想されるスピードよりも速くなるだろう。逆に,膨張が加速しているなら,遠くの銀河の後退速度はハッブルの法則による予想値よりも遅くなる。あるいはこう言い換えてもよい。宇宙膨張が加速しているなら,銀河はその後退速度をハッブルの法則に当てはめて得られる距離よりも実際には遠くにある。このため予想よりも暗く見えるのだ。
この単純な事実を研究に役立てるには,固有光度(その天体の絶対的な明るさのことで,1秒間に発する放射の総量)があらかじめわかっている天体を見つけなくてはならない。その天体の光が宇宙を通り抜けて地球まで届いている必要もある。この条件にぴったりの天体が,Ⅰa型というタイプの超新星だ。この10年間でⅠa型超新星の固有光度が正確に見積もられ,距離が未知のⅠa型超新星についても見かけの明るさをもとに距離を決定できるようになった。
ただし,そんな遠方にある古い超新星を探すのは難しい。宇宙が現在の半分の大きさだったころに爆発したⅠa型超新星の明るさは,夜空で最も明るく輝くシリウスの約100億分の1でしかない。地上の望遠鏡では検出はほとんど不可能だ。だが,ハッブル宇宙望遠鏡ならそれができる。2001年,著者の1人であるリースはハッブル宇宙望遠鏡による反復観測の結果,非常に遠方にあるⅠa型超新星が幸運にも見つかったと発表した。この超新星SN1997ffは赤方偏移から推定して約100億年前(宇宙の大きさが現在の1/3だったころ)に爆発したもので,減光の原因が宇宙塵であると仮定した場合よりもはるかに明るく見えた。かつて宇宙膨張が減速していた時期があったことを示す初の直接証拠だ。私たち2人は,もっと大きく赤方偏移した超新星を観測できれば,膨張速度が減速から加速に転じた決定的な証拠が得られるだろうと提案した。
2002年,ハッブル宇宙望遠鏡に新型撮影装置「アドバンスト・サーベイ・カメラ」が導入され,この宇宙望遠鏡は超新星の探索機に変身した。リースは同望遠鏡の深宇宙起源探査大天文台(GOODS)プロジェクトの協力を得て,非常に遠くにあるⅠa型超新星を発見しようと努力を重ねた。その結果,宇宙の大きさが現在の半分以下だった時期(70億年以上前)に爆発した超新星が6つ見つかった。これらはSN1997ffとともに,現在までに発見されたⅠa型超新星の中で最も遠方に位置する部類に入る。これらの超新星の観測結果から,過去に宇宙膨張が減速していた時期があったことが確認され,膨張速度が減速から加速に変わった「転換点」はおよそ50億年前であることがわかった。
著者
Adam G. Riess / Michael S. Turner
リースは宇宙望遠鏡科学研究所(ハッブル宇宙望遠鏡の運営主体)の天文学者で,同時にジョンズ・ホプキンズ大学で物理学と天文学の非常勤准教授を務めている。1998年,加速膨張の発見を報告した高赤方偏移超新星探索チームの論文では代表執筆者となった。
ターナーはシカゴ大学のローナー記念講座教授で,全米科学財団で数学と物理学部門の副部長を務めている。彼は1995年にクラウス(LawrenceM. Krauss)と共同で執筆した論文で宇宙膨張の加速を予言していた。「暗黒エネルギー」という言葉の生みの親でもある。
◆加速膨張はどうして起きるのか?
加速膨張のしくみを説明する説の1つが、通常の物質とは違う性質を持つエネルギー「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が宇宙に満ち満ちているとする説である。ダークエネルギーは、物体に対して斥力の重力を及ぼし、宇宙膨張を減速させる通常の物質による引力の作用を打ち消してしまう謎のエネルギーである。
参照;「KEK 高エネルギー加速器研究機構」
◆◇◆宇宙は膨張していない可能性も・・・
ドイツのハイデルベルク大学の物理学者クリストフ・ヴェッテリヒ博士(Christof Wetterich)が、宇宙が膨張している証のひとつとして知られる「赤方偏移」と呼ばれる現象についての理論を科学誌『ネイチャー』(nature 16 July 2013)に発表した。
宇宙はビッグバンによって始まり今もなお膨張していると考えられている。この説は約100年間、宇宙の基本モデルとして信じられている。しかしこの度、ドイツはルプレヒト・カール大学ハイデルベルクのChristof Wetterich博士によって、宇宙は広がっていないという新たな説が提唱された。
▼ルプレヒト・カール大学ハイデルベルクのChristof Wetterich博士
プレプリントサーバーで公開された論文によると、
宇宙は広がっているのではなく、全ての質量が増加しているのだとい う。
Wetterich博士によると、このような解釈によって、宇宙を理解するうえで障害となっているビッグバン時の特異点の問題などを解決することができるという。
宇宙が膨張しているという説は、他の銀河からもたらされる光の観測によって説明されている。救急車などが横切る時に経験するドップラー効果のように、銀河が遠ざかっている場合には、観測される光の波長は大きくなり赤色の方向へずれる。
赤方偏移と呼ばれるこの現象は、1920年代にジョルジュ・ルメートルやエドウィン・ハッブルらによって殆どの銀河に対して観測され、さらに遠い銀河ほど大きく偏移することから、宇宙が膨張しているという説の根拠となって いる。
しかしWetterich博士は、原子から放射される光の特徴は、電子など素粒子の質量によっても変化すると指摘している。もし原子の質量が増加すれば、放射される光子はより大きなエネルギーを持つ。大きなエネルギーを持つ光ほど短い波長を持つため光は紫色の方向へとずれ、逆に原子が軽くなっていると、赤方偏移を示すようになる。
光の速度は有限であるため、宇宙からの光は実際にははるか昔に発せられたものである。もし全ての質量が一度低下し、その後継続的に増加しているとしたら、銀河は現在の波長から赤方偏移した状態で観測され、その偏移量は地球からの距離に比例する。このようにして、銀河は実際には等距離を保っているのに、地球から離れて行っているように見えるのだという。
赤方偏移に関するこの新たな解釈は宇宙論を根本から覆すことになる。現在の宇宙論では、ビッグバンを起こす瞬間の宇宙は特異点と呼ばれ、無限の密度を持っていたとされる。その後初期の宇宙は、インフレーションと呼ばれる短時間の指数関数的な膨張を経験し、現在の膨張速度に落ち着いたと考えられている。しかしWetterich博士によると、ビッグバンの発生は無限時間過去にさかのぼり、特異点は発生せず、現在の宇宙は静止しているか、もしくは収縮 し始めているだろうという。
この説は尤もらしいものであるかもしれないが、検証することができないという大きな問題が存在する。質量は次元量であるため、基準と比べることのみでしか計測することができない。例えば地球上の物質の質量は、パリ郊外の国際度量衡局に保管された国際キログラム原器との比率で定義されている。 もし国際キログラム原器を含む全ての質量が時間とともに増加していたとしたら、それらの変化を知ることは不可能となる。
宇宙論においては実験的検証の困難さが問題となっている。同様に実験的検証が困難な量子論では、数学的に矛盾しない様々な解釈が用いられている。そのためWetterich博士によると、彼の説は様々な宇宙モデルについて検証するのに利用できるだろうという。特にビッグバンの特異点を必要としないことは大きな利点となるという。
Wetterich博士の新たな説が受け入れられるには大きな困難が伴うだろう。
この論文はまだピアレビューをされていないが、ネイチャー誌がコンタクトを取った研究者の誰も確実な間違いを指摘できる人はおらず、彼らの幾人かは研究を続けるのに足る説であると述べた。
▼スコットランドはセント・アンドルーズ大学のHongsheng Zhao博士によると、
Wetterich博士の説は興味深く、発展させていく価値があるだろうという。
▼カナダはペリメター研究所のNiayesh Afshordi博士によると、
宇宙が膨張しているという説は、銀河の赤方偏移を説明する最も合理的な解釈であるに過ぎないため、Wetterich博士の説の利点については納得のいくものであるという。
▼またスコットランドはエディンバラ大学のArjun Berera博士によると、
この新たな説は宇宙論学者が1つの説に捕らわれることを防ぐ意味合いも持つだろうという。近年の宇宙論は、ビッグバンとインフレーションを中心とした標準モデルの上に成り立っている。そのため、現在までの全ての観測結果と矛盾しない新たな解釈の存在は、1つの説に固執しないようにするためにとても重要なものであるという。
「科学ニュースの森」より転載
【参考サイト】
Sky Server 現代の宇宙論
KEK 高エネルギー加速器研究機構
AstroArts