【宇宙の神秘】 宇宙の大規模構造と「宇宙地図」
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◆◆宇宙の大規模構造
宇宙の大規模構造(large‐scale structure of the cosmos)は、宇宙の中で銀河の分布が示す巨大な泡のような構造である。宇宙の泡構造と呼ばれることもある。
▼宇宙の泡構造
◆宇宙の大規模構造
宇宙に銀河は無数に存在する。そしてその分布のしかたは無秩序ではない。これまでの観測に基づいて、銀河系の周囲にある銀河の分布を示したのが図 1 である。この図の 1 点 1 点がすべて銀河であるが、銀河の密集した場所 (赤いところ)や少ない場所(青いところ )、あるいは銀河の全くない場所 (黒いところ)が複雑に絡み合っていて、銀河が決して一様に分布しているのではなく、むしろ凸凹の激しい分布のしかたをしていることがわかるだろう。星が集まってできている銀河は銀河群あるいは銀河団と呼ばれる集団を作り、銀河群や銀河団はさらに 1 億光年の大きさに及ぶ「超銀河団」と呼ばれる集団を作っている。同様な大きさで銀河の全くない空間は「超空洞 (ボイド)」と呼ばれている。さらに超銀河団同士もフィラメント状やシート状に連なった銀河でつながっている。このように銀河をひとつの単位として宇宙を眺めると、小さなスケールから大きなスケールにいたるまで、どこでも「天体が群れ集まっている」という描像が得られる。図 1 のように宇宙を非常に大きなスケールで眺めると、おびただしい数の銀河がこの大きな宇宙の中で巨大なネットワークを形成していることがわかる。これが「宇宙の大規模構造」である。
▼図 1 宇宙の大規模構造。図中の各点は銀河を示す。扇形の中心にある銀河系からの距離に応じて、遠い銀河ほど扇形の外側に図示されている。図の上下にある黒い部分は未観測領域で観測データがないために示されていないが、実際にはこの領域にも宇宙の大規模構造が広がっていると考えられる。
( The 2dFGRS Image Gallery : http://www.mso.anu.edu.au/2dFGRS/ より転載 )
▼図 2 図 1 の中央付近、扇の要のあたりの左側の拡大図。 銀河の密集した場所は赤く、少ない場所は青く、全くない場所は黒く色づけされている。
( The 2dFGRS Image Gallery : http://www.mso.anu.edu.au/2dFGRS/ より転載 )
◆宇宙の大規模構造の探索
宇宙の大規模構造は 1980 年代の中ごろに、ひとつひとつの銀河までの距離を正確に測定して宇宙の地図を作る、という非常に地道で根気の必要とされる観測によって発見された。
この予想外の発見はより遠方宇宙への観測の契機となったと同時に、その後の SDSS(スローン ・ デジタル ・ スカイ ・ サーベイ )、2dFGRS(2平方度銀河赤方偏移サーベイ)といった大規模な広域銀河探査の足がかりともなった。
これまでの観測から、われわれから少なくとも 80 億光年かなたにまで宇宙の大規模構造がつながっていることが確認され、また宇宙誕生からわずか 10 億年後に既に形成されつつある原始銀河団が見つかっている。 銀河は宇宙初期の小さな密度揺らぎが重力によって成長して形成されたと考えられている。
銀河の群れ集まった大規模構造も、長い宇宙の歴史の中で重力がつくりあげた物質分布のパターンだと考えられる。宇宙の大規模構造を構成する銀河の群れぐあいの定量的な測定と、計算機を用いた数値シミュレーションの比較から、銀河をとりまく冷たい暗黒物質 (ダークマター)の存在が示唆されている。宇宙の質量のうち、水素やヘリウムなど我々のよく知っている物質 (バリオン)はわずか 15 %程度であり、残りは暗黒物質が占めている。
暗黒物質は電磁波を出さないため直接目で見ることはできないが、銀河の運動や重力レンズ現象を通してその存在が確認されている。宇宙の大規模構造もこの暗黒物質が重力によって集積した様子を見ているとほぼ考えられる。宇宙初期の密度揺らぎの成長の様子 ( 図 3)は暗黒物質の性質のみならず、宇宙膨張の様子、銀河形成の過程などに大きく関与している。約 137 億年前の小さな揺らぎから、現在の宇宙に見られるこの大規模構造がいつどのように形成されてきたのかを明らかにすることは、現代の天文学の大きな課題のひとつである。
▼計算機シミュレーションによる宇宙の大規模構造の形成。
宇宙初期に暗黒物質 (青く見える)はほぼ一様に分布していた (図3 上 )。やがて重力によって暗黒物質の密度分布のコントラストが強くなり、非常に密度の高いところでは銀河 (白く見える)が生まれる(図3 中 )。さらに時間がたつと密度分布のコントラストはさらに強くなり大規模構造が形成される (図3 下 )。
( http://4d2u.nao.ac.jp/t/var/download/index.php?id=lssより転載)
▼大規模構造の形成
国立天文台 「4 次元デジタル宇宙プロジェクト」の動画
◆グレートウォール (銀河フィラメント)
銀河は数百から数千集まって銀河群、銀河団を形成している。この銀河群や銀河団が更に集まって超銀河団を形成しているが、この超銀河団は平面状の壁のような分布を示している。
この巨大な壁をグレートウォールあるいは銀河フィラメントと呼ぶ。
・グレートウォール(The Great Wall)は、宇宙の中でこれまでに知られている最も大きな構造の一つ。
・グレートウォールは地球から約2億光年離れた位置にあり、5億光年以上の長さと約3億光年の幅を持つ、膨大な数の銀河からなる「壁」。
・「壁」の厚さは約1500万光年しかない。
・どこまで続いているかは明らかになっていない。
▼グレートウォール
出典 userdisk.webry.biglobe.ne.jp
1980年代になって、1枚の銀河フィラメントと他の銀河フィラメントとの間には光を発する天体がほとんど無い領域があることが明らかになった。これを超空洞(ボイド)と呼び、その直径は1億光年を超える。
宇宙の大規模構造は銀河フィラメントと超空洞が複雑に入り組んだ構造であるが、これはあたかも石鹸を泡立てたときにできる、幾重にも積み重なった泡のような構造である。つまり、泡の膜面たる銀河フィラメントには銀河が存在し、泡の中の空洞たる超空洞には銀河がほとんど存在しない。
◆観測
グレートウォールの発見をもたらした CfA赤方偏移サーベイ以降、観測技術の発展に伴ってより遠方の銀河をより大量に観測する大規模な銀河サーベイ観測が行なわれるようになっている。その代表例として、 スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)や2dF銀河赤方偏移サーベイなどがある。
なお、銀河までの距離をその赤方偏移のみに基づいて測ると、大規模構造が実際とはいくらか異なって観測されることがある。
例えば、銀河団の後ろにある銀河はその銀河団に向かって引き寄せられるため、多少(その銀河団が存在しない場合に比べて)青方偏移して見える。一方、銀河団の手前にある銀河は多少赤方偏移して見える。このような効果を補正せずに赤方偏移を使うと、銀河団の周囲に存在する銀河は実際よりも押しつぶされた分布をしているように見える。 また、既に銀河団内部に落ち込んだ銀河に対してはこれと逆の現象がおきる。
銀河団内の銀河は銀河団中心に対してランダムな速度分散を持つため、各銀河の赤方偏移は銀河団自身の値を中心に広がりを持った分布になる。この赤方偏移を銀河までの距離として使うと、銀河団は視線方向に長く引き伸ばされて見える。
これはまるで銀河分布が観測者(地球)の方向を指差しているようにも見えることから Finger of God 効果として知られている。
【参考サイト】
国立天文台・理科年表オフィシャルサイト
◆美しい宇宙の旅
◆◇◆宇宙地図
◆アメリカ天文学会の3D地図
米・マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・スミソニアン天体物理学センターで開かれたアメリカ天文学会。218回目の開催となる今学会で、3次元(3D)による超超超巨大な宇宙の地図が発表された。(2011年5月)
同様の宇宙地図はこれまでも公開されてきたが、今回発表されたものは、これまでにないほど完成度が高く、正確なものだ。完成に10年の歳月を費やしたそうで、天文学者のみならず、多くの宇宙ファンも長い間待ち望んでいた発表と言えるだろう。
地図の範囲は3億8000万光年に及び、描かれた銀河の数はなんと約4万5千。天の川銀河の直径だけでも10万光年とされる中、その規模の大きさを想像してみてほしい。途方もないスケールの宇宙地図なのだ!
この地図は、「2MASS(2マイクロメートル -波長- における全天調査)」と、「赤方偏移サーベイ」の情報を合わせた「2MRS」(Two-Micron All-Sky Survey -2MASS- Redshift Survey) によるデータを用いて作成された。
◆NASAの「新しい宇宙地図」
米航空宇宙局(NASA)が、新しい宇宙地図を公開した。(2012年3月)
広域赤外線探査衛星『WISE』のデータをもとに作成されたもので、未観測だった多くの恒星や銀河、小惑星を捉えている。
米航空宇宙局(NASA)が、新しい宇宙地図を公開した。5億6,000万個を超える恒星や銀河、小惑星を捉えた地図であり、その多くはこれまで観測されていなかったものだ。
1万8,000枚以上の画像からなる宇宙地図は、NASAの広域赤外線探査衛星『WISE』(Wide-field Infrared Survey Explorer)によって可能になったものだ。2009年12月14日に打ち上げられたWISEは、赤外線帯の4つの波長を利用して全天を探査し、普通ならぼやけて確認できない天体を捕捉することに成功した。
▼アンドロメダ銀河(上)と天の川銀河中心部付近の眩しいほどの輝き(下)
WISEはその探査ミッションを通して、270万枚を超える画像と15兆バイトのデータを収集した[WISEは2011年2月17日に送信機が停止されミッションが停止したが、10カ月のミッションを通して、全天の99%以上をカバーする画像を入手した]。科学者たちは現在までずっと、これらの画像とデータの分析を行っている。
▼カシオペア座の超新星。
真ん中の赤い雲のように見えるのが超新星爆発の衝撃の広がり。秒速17700km程度という非常に速い速度で進んでおり、撮影時には元あった超新星から21光年の距離へと広がっていた。
▼宇宙の薔薇とも呼ばれるバークレー59
▼空を横切るサイディング・スプリング彗星
▼WISE撮影のアンドロメダ銀河
これらの画像を撮影したのは2009年に打ち上げられ、観測に導入された広域赤外線探査衛星(WISE:Wide-field Infrared Survey Explorer)の265億円を投じた超高性能の赤外線望遠鏡。
◆◆曼荼羅的全宇宙地図
南米のアーティスト、パブロ・カルロス・ブッダシ氏が制作した宇宙の地図が、海外のメディアを賑わせている。息子へ折り紙を折っているときに思いついたというその地図は、プリンストン大学の宇宙地図データや、NASAの観測画像を利用した本格的なものとなっている。
中央には太陽系が描かれている。地球や木星、土星などのお馴染みの星が大きく描かれているのでわかりやすい。外へ広がるに連れ、太陽系の他の惑星が登場し、その周りには天体が密集した「カイパーベルト」や「オールトの雲」と呼ばれる正円に近い領域が見られる。太陽からこの辺りまでの距離が約1.5光年ほどである。
その外では、太陽系がまるで一つの銀河に吸い込まれているかのように描写されている。この銀河は、太陽系が所属する天の川銀河だ。太陽系は、この銀河が持つ“腕”の一つである「オリオン腕」に所在しており、その様子が表現されている。太陽系から銀河の中心までの距離は、約26,000光年にも及ぶ。
また、天の川銀河の横には大きな渦巻状の銀河がある。これはアンドロメダ銀河と思われるが、気のせいか、アンドロメダ銀河のほうが太陽系に若干近く描かれている。それでも、太陽系から約250万光年離れており、地図のスケールがかなり大きくなっていることを感じさせてくれる。
そしてさらにその外側には、無数の銀河がひしめく「グレートウォール」が立ちはだかる。地球から2億光年以上離れたこのエリアには、膨大な数の銀河があり、この領域がどこまで続くのかはまだ明らかになっていない。
地図の周縁部には何やらバチバチとした光の束が無数にある。これは、宇宙の膨張の始まりとされている「ビッグバン」が起きた後に生じた、「宇宙背景放射」というマイクロ波を表しているのだそうだ。宇宙の始まりを意味するこの端の部分は、太陽系から約470億光年離れて位置している。
【参考】
①『Wikipedia』
②国立天文台・理科年表オフィシャルサイト
③ニュートン「宇宙の大規模構造」