【宇宙の神秘】 「加速膨張する宇宙」と超新星観測
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宇宙の膨張が加速しているという観測事実は、どのようにして確かめられたのだろうか。
これを確かめるためには、過去から現在に至るまでの、宇宙の膨張のしかたを明らかにする必要がある。
宇宙の過去の姿を知るには、遠くの宇宙を観測すればよい。
たとえば、10億光年の距離からの光なら10億年前の姿、100億光年の距離からの光なら100億年前の姿というわけである。
◆天体の明るさから距離を求める。
宇宙の観測で最もむずかしいのは、距離を正確に測定することである。
その天体の本来の明るさがわかっているか、わかっていないかが問題である。
本来の明るさがわかっている天体であれば、見かけの明るさは距離の2乗に反比例して暗くなるので、見かけの明るさを測定すれば、その天体までの距離が測定できるはずである。
宇宙にこのような、本来の明るさがあらかじめ、わかっている天体があれば、地球からの見かけの明るさを測定することで、その天体までの距離(その光が地球に届くまでの時間)を正確に測定できることになる。
◆Ⅰa型超新星 (ワン・エー型超新星)
本来の明るさがわかっているような都合のよい天体が、宇宙には実際に存在する。
そのことがわかってきたのは、1990年代に入ってからのことである。
▲連星相手(左)から白色矮星(右)に急激なガスの流入が起こり、このガスは回転しながら落ち込み白色矮星の赤道表面に蓄積される。白色矮星の重さが限界(太陽の質量の1.4倍)に達すると、暴走的に核融合反応がおき、白色矮星全体が吹き飛ぶ大爆発がおきる。これが「Ⅰa型超新星爆発」である。(ESA and Justyn Maund, QUB)。
この都合のよい天体は「Ⅰa型超新星」とよばれている。
「Ⅰa型超新星」とは、白色矮星(太陽の8倍以下の質量をもつ恒星が燃え尽きた晩年の星)がおこす大爆発である。
まず、連星をなしている白色矮星に、伴星からのガスが流れ込み、白色矮星の質量がどんどん大きくなっていく。こうして、白色矮星の質量が、太陽の質量の1.4倍まで達すると、すでに燃え尽きたはずの白色矮星で、ふたたび核融合が再開される。このときの核融合は短時間で進み、暴走がおきて白色矮星は大爆発をおこす。
◆白色矮星が大爆発をおこすときの重さがほぼ一定であるため、爆発の明るさがほぼ一定になる。このため、Ⅰa型超新星であれば、宇宙のどこにあるものでも、その本来の明るさは等しくなるのである。
◆◆非常に明るい「Ⅰa型超新星」は宇宙の歴史を語る。
Ⅰa型超新星は本来の明るさが同じであるため、遠くにあるものほど、一定の法則にしたがって暗くみえる。
Ⅰa型超新星は、その爆発のメカニズムのために、どれでも共通の明るさをもつことがわかっている。つまり、地球からの距離が遠いⅠa型超新星ほど、見かけの明るさが暗く観測される。つまり、明るさから、それぞれのⅠa型超新星までの距離が測定できるということである。
Ⅰa型超新星はさらに、観測を行ううえで非常に都合のよい利点をもっている。超新星は、短期間のうちに核融合反応が一気に進むことで爆発的に輝くため、非常に明るいのである。
明るいということはつまり、遠くで発生したものでも観測が可能だということである。
◆Ⅰa型超新星の明るさは、銀河1つ分に匹敵するほどであり、現在の観測技術で、およそ90億光年の距離(90億年前)までほぼ正確に測定できる。
宇宙の年齢は約137億歳であるため、少なくともその歴史の3分の2ほどについての膨張の変化を捉えられるということになる。
◆◆光の波長の伸びから宇宙の大きさを知る。
Ⅰa型超新星までの距離(時間)とともに、もう1つ、宇宙の膨張のしかたを解明するために必要なものがある。それはⅠa型超新星が爆発した当時の宇宙の大きさの情報である。
これは、Ⅰa型超新星の色の変化(光の波長の変化)を測定することで確かめることができる。
天体から発せられる光の波には「ドップラー効果」という現象がおこる。光源である天体が地球に近づくときには、光の波長が短くなって青色寄りに変化する。(青色偏移) 一方、天体が地球から遠ざかるときは、光の波長が引きのばされて赤色寄りに変化する。(赤色偏移)
◆宇宙が膨張すると、Ⅰa型超新星の光も、地球にとどくまでに引きのばされる(赤色偏移)。 波長の伸びは、宇宙の大きさの変化によっておきるので、波長がどれだけ伸びたかを調べれば、Ⅰa型超新星爆発の発生当時の宇宙の大きさがわかる。
この情報と超新星までの距離(時間)の情報を合わせることにより、宇宙が「いつ」、「どれくらいの大きさだったのか」がわかることになる。
◆加速膨張の観測データ
パールムッター博士が率いる「超新星宇宙論プロジェクト」が発見した42個のⅠa型超新星から導かれた、宇宙の加速膨張を示すデータ。
▲ 「超新星宇宙論プロジェクトチーム」による42 個の遠方超新星データ
18 個の近くで起きた超新星のデータも同時にのせてある。横軸は後退速度を表す赤方偏移,縦軸は等級。点線と実線が,宇宙項や物質の量を変えた場合の理論曲線。実線のうち一番上にきているものが,ハッブルの法則,つまり等速膨張をする場合になっている。統計的にデータがこの実線より上にきている(暗く、遠い)ことから,宇宙の加速膨張が示された。(S.Perlmutter et al,Astrophysical Journal 517(1999) より引用)
▲ソール・パールムッター(Saul Perlmutter, 1959年9月22日 - )はアメリカ合衆国の天体物理学者。ローレンス・バークレー国立研究所、カリフォルニア大学バークレー校教授。イリノイ州生まれ。宇宙の加速膨張の観測に関する研究で、2011年ノーベル物理学賞受賞。父は、ペンシルバニア大学の名誉教授(化学・生体分子工学)のダニエル・D・パールムッター。
◆◆二つのグループの観測結果が「加速膨張」で一致。
サウル・パールムッター博士率いるカリフォルニア大学ローレンス・バークレー研究所の「超新星宇宙論プロジェクト (Supernova Cosmology Project)」のチームとシュミット博士とリース博士率いるオーストラリアのストロムロ山・サイディングスプリング天文台の「高赤方偏移超新星探査チーム (High-Z Supernova Search Team)」の2つの実験チームは、遠方のIa型超新星爆発を多数観測し、その明るさがこれまで考えられていた減速膨張宇宙からの予想よりも暗くなっているという事実を突き止め、「宇宙が加速膨張」をしている事を発見した。1998年に2つのチームがほぼ同時にそれらの研究結果を発表した。
その後のくわしい観測により、宇宙の膨張は、かつては減速膨張をしていたが、およそ50億年前(宇宙誕生から約90億年後)を境に、加速膨張に転じたようだという。
◆加速膨張する宇宙の発見でノーベル賞
2011年のノーベル物理学賞は「遠方の超新星爆発の観測による宇宙の加速膨張の発見」に対して、米カリフォルニア大学バークリー校のサウル・パールムッター教授、オーストラリア国立大学のブライアン・シュミット教授、米ジョン・ホプキンス大学のアダム・リース教授の3氏に贈られた。
左より、パールムッター氏(Saul Perlmutter)、シュミット氏 (Brian P. Schmidt)、リース氏(Adam G. Riess)
◆「膨張速度の加速」の証拠
パールムッター、シュミット、リースの3氏が宇宙の加速膨張の証拠をつかんだのは「超新星爆発」の観測からだった。超新星爆発の中でも、Ia型超新星爆発の絶対光度(天体によって放射される単位時間当たりの全エネルギー)は比較的詳しく解明されている。この絶対光度を使うと、光源までの距離を計ることができる。パールムッター教授は超新星宇宙論プロジェクト(SCP)のチームを率い、シュミット教授とリース教授は高赤方偏移超新星探査チーム(HZT)を率いた。2つの実験チームは、遠方のIa型超新星爆発を多数観測し、その明るさがこれまで考えられていた減速膨張宇宙からの予想より、暗くなっているという事実を突き止め、宇宙が加速膨張をしている事を発見した。1998年に2つのチームがほぼ同時にそれらの研究結果を発表している。
宇宙の遠方を見るという事は、宇宙の昔の姿を見るという事に相当する。2つのチームが観測したのは、現在の宇宙年齢からさかのぼること、20億年前あたりのIa型超新星爆発の光だった。宇宙年齢が137億歳なので、宇宙が生まれてから約117億年後のIa型超新星爆発ということになる。
宇宙膨張によって引き起こされた銀河の後退速度による赤方偏移と、地球からその銀河までの距離の関係は、宇宙が減速膨張するのか、加速膨張するのかによって変わってくる。現在観測される超新星爆発は、遠くのものほどより昔に起こったものに対応する。このため、減速している場合と比べて、宇宙膨張が加速している場合は、同じ距離にある超新星の後退速度は小さくなる。超新星の後退速度は距離と共に増大するから、これは、同じ速度で運動する、もしくは同じ赤方偏移を示す超新星までの距離が、加速膨張の場合の方がより大きくなり、みかけの明るさがより暗くなることを意味する。
しかし、初期の観測結果が発表された頃は、この発見には疑問が投げかけられた。宇宙空間に存在する塵などによる吸収により、光が暗くなる効果との区別がつかないという反論があった。この説によれば、吸収の効果により、より遠い超新星爆発ほど、より暗くなっていくことが予測されていた。その場合、加速膨張であろうが、減速膨張であろうが、その傾向は変わらず、区別がつかない。
◆減速膨張から加速膨張へ
一方、SN1997ffというもっと遠方のIa型超新星爆発がハッブル宇宙望遠鏡により偶然観測されており、2001年にそのデータの再解析が行われました。SN1997ffは、約30億年前(宇宙が生まれてから約107億年後)に爆発したIa型超新星爆発である。解析の結果は、塵による吸収の予想に反したものだった。SN1997ffからの光は、より遠くの爆発であるにもかかわらず予想したほど暗くなっていなかった。このことから、一連のIa型超新星爆発の距離に依存した明るさの変化は、塵による吸収ではなく、30億年ぐらい前までは減速膨張宇宙だったものが、途中で加速膨張宇宙に転じた効果なのだと結論づけられている。
◆100億光年彼方の超新星発見 「超新星SN1997ff」
2001年4月
ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) が撮影した深宇宙画像から、観測史上最遠となる超新星が発見された。また、この超新星の分析から、「ダークエネルギー」の存在に関する重要な示唆が得られた。
▼画像右下は、1997年に撮影された画像から1995年に撮影された画像を引き算したもので、明るさの変化が無い部分はフラットになり、1997年の画像の方が明るかった部分が明るくなっている。超新星の存在がはっきりとわかる。Credit: NASA and A. Riess (STScI)
これまでに発見された中で最も遠い超新星SN1997ffは、宇宙膨張速度が減速から加速に転じたことを示している。
超新星 (SN1997ff) は、1997年にHSTが「おおくま座」の一角を超長時間露光で撮像した有名な深宇宙画像「ハッブル北ディープ・フィールド」から26.8等の明るさで発見された。タイプIaの超新星で、その赤方偏移はz~1.7に達する。
距離は約100億光年、これまで発見された超新星の中では最も遠距離にある。
超新星は、巨星がその寿命を終える際の大爆発現象により発せられた光である。超新星にはいくつかの種類があるが、今回発見されたものはIa型超新星である。このIa型超新星は、絶対光度がほぼ均一という重要な特徴を持っている。つまり、見かけ上明るいIa超新星は近くにあり、見かけ上暗いIa型超新星は遠くにあるというわけだ。すなわち、Ia型超新星の明るさを分析することにより、その超新星までの距離がわかる。
横軸は時間、縦軸は宇宙の大きさ。グラフの黄色い実線が宇宙の膨張速度の変化を示し、線上の星は、これまで観測された複数のIa型超新星の分析結果例を表す。そのうち最も左のものが、今回発見されたSN1997ffだ。ただし、SN1997ffの明るさが銀河間のチリによる吸収で暗くなってしまっていた場合は、赤い破線のような変化である可能性もあり得る。(Credit: Ann Feild (STScI))
1998年に2つの研究チームが複数の遠方のIa型超新星を分析した結果、宇宙の膨張速度は、宇宙年齢が現在の約半分であったころからは、増しつつあるということがわかった。そして今回発見されたIa型超新星の分析から、宇宙の膨張速度は、初期宇宙においては減速しつつあったらしいということがわかった。
これらのことが示唆するのは、アインシュタインがその一般相対性理論に導入し、その後に撤回した「宇宙定数 (cosmological constant)」が、実際に存在するらしいということである。
重力は、宇宙の膨張速度を減速させようとする引力である。宇宙定数の存在は、これとは逆に膨張速度を増やそうとするなんらかの斥力が存在するということを意味する。その斥力のことは「ダークエネルギー (dark energy)」と呼ばれている。
もっとも、そのダークエネルギーの正体が何であるかについては、よくわかっていない。「量子的真空のエネルギー (energy of the quantum vacuum)」といわれるものかもしれれないし、まったく新しく予想外のものであるかもしれない。
研究チームの一員であり、シカゴ大学の天体物理学者であるMichael Turner氏は、こう語る。
「ダークエネルギーが何であるかはわかっていないが、ひとつ確実に言えることがある。それは、ダークエネルギーの研究から、宇宙に存在するあらゆる力・粒子をひとつの理論のもとに統合しようという人類の探求のために、ひじょうに重要なカギが得られるであろうということだ。そして、そのために必要なのは、望遠鏡なのだ。粒子加速器ではない。」
◆減速から加速へ 宇宙膨張の奇妙な変化
From Slowdown to Speedup(SCIENTIFIC AMERICAN February 2004)
初出掲載 日経サイエンス2004年5月号
ニュートン(Isaac Newton)の時代から1990年代後半まで,重力といえば物質が互いに引き合う力のことだと考えられてきた。私たちを地面に引き止めているのは重力だし,投げ上げたボールが下に落ちてくるのも,月が地球を周回する軌道にとどまっているのも,重力が働いているからだ。私たちの太陽系も巨大な銀河団も,重力なしではばらばらになってしまう。アインシュタインの一般相対性理論によれば,重力は必ずしも引力であるとは限らず,反発力ともなりうるのだが,多くの物理学者はそんな可能性はあくまで理論上のもので,現在の宇宙には何のかかわりもない話だと考えてきた。天文学者もごく最近まで,重力によって宇宙膨張のスピードが鈍っているに違いないと信じ込んでいた。
ところが1998年,重力が反発力として働いている兆候が見つかった。遠く離れた超新星(星が爆発し,わずかの間だけ太陽の100億倍もの明るさで輝く現象)を注意深く観測した結果,その光が理論から予想される明るさよりも暗いことがわかったのだ。理由としてまず考えられるのは,数十億年前に爆発した超新星の光が,予想以上の長距離をたどって地球に到達した可能性だ。だとすると,宇宙の膨張速度はそれまで考えられていたように減速しているのではなく,実は加速していることになる。さらに遠方にある超新星を観測した近年の結果から,宇宙膨張が確かに加速していることが裏付けられた。
しかし,宇宙は誕生以来これまで一貫して加速膨張を続けてきたのか,それとも加速は比較的最近の出来事であり,例えば50億年ほど前に加速が始まったのだろうか? その答えは大きな意味を持つ。宇宙膨張がずっと加速し続けてきたのなら,宇宙の進化に関するこれまでの理論は全面的な修正を迫られる。だが,加速膨張が最近の現象にすぎないなら(宇宙論研究者たちはそう期待している),いつどのように膨張が加速し始めたのかを調べて,その原因を突き止められるだろう。そして,宇宙が将来どんな運命をたどるのかという,より大きな疑問に答えを出せるかもしれない。
アインシュタインの理論では,引力としての重力は宇宙論的なスケールでも既知のあらゆる物質とエネルギーに当てはまる。したがって,宇宙の膨張はしだいに遅くなるはずで,その減速度は宇宙に存在する物質とエネルギーの密度によって決まることになる。しかし,一般相対論は反発力としての重力を生じるような奇妙なエネルギーの存在も許している。宇宙の膨張が加速しているという発見は,そうした奇妙なエネルギーが実在することを明確に示した。いわゆる「ダークエネルギー」だ。
宇宙膨張が加速するか減速するかは,2つの強大な力の綱引きによって決まる。物質によって生じる引力としての重力と,暗黒エネルギーが生み出す反発力としての重力──そのどちらが勝るのか。勝負を決めるのは,それぞれの密度だ。宇宙が膨張すると体積が増えるため,物質の密度は低くなっていく。暗黒エネルギーについては,詳細はほとんどわかっていないが,その密度は宇宙が膨張しても変わらないか,変わるとしても非常にゆっくり変化すると考えられている。現在の宇宙では暗黒エネルギーの密度が物質の密度を上回っているが,はるか過去には物質の密度のほうが大きく,そのため宇宙の膨張が減速していた時期もあったのだろう。
かつて宇宙膨張が減速している時期があった直接の証拠を探すことが重要だ。そうした証拠は現在の標準的な宇宙モデルの裏付けとなるし,現在の加速膨張をもたらした原因についても手掛かりが得られるだろう。はるか彼方の星や銀河からの光を望遠鏡で観測すると過去の宇宙(光が放射された当時の姿)が見えるから,遠方の天体を観測すれば宇宙膨張の歴史をたどることができる。銀河までの距離と,その銀河の後退速度との関係に,宇宙膨張の歴史が隠されている。もし宇宙膨張が減速しているなら,遠くの銀河の後退速度はハッブルの法則から予想されるスピードよりも速くなるだろう。逆に,膨張が加速しているなら,遠くの銀河の後退速度はハッブルの法則による予想値よりも遅くなる。あるいはこう言い換えてもよい。宇宙膨張が加速しているなら,銀河はその後退速度をハッブルの法則に当てはめて得られる距離よりも実際には遠くにある。このため予想よりも暗く見えるのだ。
この単純な事実を研究に役立てるには,固有光度(その天体の絶対的な明るさのことで,1秒間に発する放射の総量)があらかじめわかっている天体を見つけなくてはならない。その天体の光が宇宙を通り抜けて地球まで届いている必要もある。この条件にぴったりの天体が,Ⅰa型というタイプの超新星だ。この10年間でⅠa型超新星の固有光度が正確に見積もられ,距離が未知のⅠa型超新星についても見かけの明るさをもとに距離を決定できるようになった。
ただし,そんな遠方にある古い超新星を探すのは難しい。宇宙が現在の半分の大きさだったころに爆発したⅠa型超新星の明るさは,夜空で最も明るく輝くシリウスの約100億分の1でしかない。地上の望遠鏡では検出はほとんど不可能だ。だが,ハッブル宇宙望遠鏡ならそれができる。2001年,著者の1人であるリースはハッブル宇宙望遠鏡による反復観測の結果,非常に遠方にあるⅠa型超新星が幸運にも見つかったと発表した。この超新星SN1997ffは赤方偏移から推定して約100億年前(宇宙の大きさが現在の1/3だったころ)に爆発したもので,減光の原因が宇宙塵であると仮定した場合よりもはるかに明るく見えた。かつて宇宙膨張が減速していた時期があったことを示す初の直接証拠だ。私たち2人は,もっと大きく赤方偏移した超新星を観測できれば,膨張速度が減速から加速に転じた決定的な証拠が得られるだろうと提案した。
2002年,ハッブル宇宙望遠鏡に新型撮影装置「アドバンスト・サーベイ・カメラ」が導入され,この宇宙望遠鏡は超新星の探索機に変身した。リースは同望遠鏡の深宇宙起源探査大天文台(GOODS)プロジェクトの協力を得て,非常に遠くにあるⅠa型超新星を発見しようと努力を重ねた。その結果,宇宙の大きさが現在の半分以下だった時期(70億年以上前)に爆発した超新星が6つ見つかった。これらはSN1997ffとともに,現在までに発見されたⅠa型超新星の中で最も遠方に位置する部類に入る。これらの超新星の観測結果から,過去に宇宙膨張が減速していた時期があったことが確認され,膨張速度が減速から加速に変わった「転換点」はおよそ50億年前であることがわかった。
著者 Adam G. Riess / Michael S. Turner
▼Adam G. Riess アダム・ガイ・リース(1969年12月16日 - )はアメリカ合衆国の天体物理学者。ワシントンD.C.生まれ。2005年からジョンズ・ホプキンス大学教授。また、2006年にショウ賞天文学部門を受賞。1998年に発表した、宇宙の加速膨張の観測に関する研究で、ソール・パールマッター、ブライアン・P・シュミットと共に、2011年ノーベル物理学賞受賞。
▼Michael S. Turnerはシカゴ大学のローナー記念講座教授で,全米科学財団で数学と物理学部門の副部長を務めている。彼は1995年にクラウス(LawrenceM. Krauss)と共同で執筆した論文で宇宙膨張の加速を予言していた。「ダークエネルギー」という言葉の生みの親でもある。
◆ダークエネルギーの斥力
宇宙が加速度的に膨張していることの説明として、物体同士を遠ざけ空間を広げる斥力を生む「ダークエネルギー」が提唱されており、宇宙の全エネルギーの約4分の3を占めているとする説が現在主流である。
ダークエネルギーがいったいどこからきたのか、どのような性質をもっているのかについて、確かなことはわかっていない。
その一方で、ダークエネルギーは宇宙の未来をにぎるカギとして注目されている。
ダークエネルギーの性質によって、宇宙の未来は大きく左右されることになると考えられている。
参照;「KEK 高エネルギー加速器研究機構」