【宇宙の神秘】 「ALMA望遠鏡」とその観測成果 第2部
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▼天の川銀河とALMA望遠鏡

◆◇◆ALMA望遠鏡の観測成果
宇宙誕生後8億年後までは、すばる望遠鏡でも見ることが出来るが、それより過去にさかのぼろうとすると、赤方偏移の効果で光学望遠鏡では見ることが次第に難しくなる。しかし、赤方偏移の効果により逆にミリ波やサブミリ波で銀河などは明るくなること、銀河自身が含む塵がミリ波サブミリ波を放射することなどから、アルマ望遠鏡なら宇宙の暗黒時代直後の銀河の誕生を見ることが出来ると期待されている。暗黒時代直後の銀河の成り立ちへの手がかりを、アルマ望遠鏡がとらえることが期待されている。(ALMA国立天文台)
◆【2014年11月06日】
アルマ望遠鏡、「視力2000」を達成!
史上最高解像度で惑星誕生の現場の撮影に成功
アルマ望遠鏡が、今後天文学の様々な分野において革命をもたらすことを予期させる、画期的な画像の撮影に成功しました。若い星おうし座HL星を取り囲む塵の円盤を「視力2000」に相当する史上最高の解像度で写し出したのです。惑星誕生の現場である塵の円盤がこれほどの高解像度で撮影されたのは、今回が初めてのことです。アルマ望遠鏡によって超高解像度撮影が可能となり、惑星の誕生・成長過程の理解が飛躍的に進むと期待できます。多くの天文学者が抱いてきた長年の夢がついに結実したのです。

▲画像1. アルマ望遠鏡が観測したおうし座HL星の周囲の塵の円盤。間隙に隔てられた同心円状の細い環が幾重にも並んでいる様子がはっきりと見て取れます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
アルマ望遠鏡による史上最高解像度の観測
アルマ望遠鏡のように複数のパラボラアンテナを結合させて一つの望遠鏡とする「電波干渉計」では、アンテナの間隔を離せば離すほど解像度(視力)が向上します。2014年10月24日、アルマ望遠鏡は過去最大のアンテナ展開範囲15kmで試験観測を行いました。観測対象となったのは、おうし座の方向約450光年彼方にある若い星、おうし座HL星でした。この時の解像度は、史上最高の0.035秒角(角度の1度の約10万分の1)で、人間の視力に換算すると2000となります。またこれは、ハッブル宇宙望遠鏡が達成できる典型的な解像度を上回ります。

▲画像2. アルマ望遠鏡が観測したおうし座HL星と、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したその周囲の様子。大量のガスがおうし座HL星の周囲を取り囲んでいるため、ハッブル宇宙望遠鏡ではその中を観測することができませんが、アルマ望遠鏡はそのガスの奥深くに埋もれた星のすぐ近くの様子を詳しく観測することができました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA
この史上最高の解像度で撮影されたおうし座HL星の画像には、星のまわりに同心円状の塵の円盤が幾重にも並んでいるようすがくっきりと写し出されていました。
◆アルマ望遠鏡『長基線試験観測キャンペーン』のプログラムサイエンティストを務めるキャサリン・ヴラハキス氏は
「最初にこの画像を目にしたときには、私たちはそのあまりの高精細さに言葉を失うほど驚きました。おうし座HL星は100万歳に満たない若い星ですが、この画像を見るとこの星のまわりでは明らかに惑星ができているように見えます。このたった1枚の画像が、惑星形成の研究に革命をもたらすでしょう。」
と、語っています。
◆合同アルマ観測所のピエール・コックス所長は
「15kmも離れたアンテナを結合させた観測を実現できたのは、世界中から集まった技術者と科学者が手を取り合って懸命に努力を続けてきたおかげです。今回の観測成果は、アルマ望遠鏡の大きな目標の一つが達成されつつあることを示しており、技術的にも科学的にもきわめて大きな一歩であると言えます。」
と、20年以上にわたりアルマ望遠鏡の建設と運用に尽力してきたすべてのスタッフを称え、その喜びを語っています。
星は、宇宙に漂うガスや塵の雲の中で誕生します。生まれたばかりの星のまわりにはガスや塵でできた円盤があり、1千万年以上の時間をかけて円盤内の物質が衝突合体を繰り返して惑星が作られると考えられています。こうした場所は密度の高いガスや塵に覆われているので、可視光や赤外線ではその中を見通すことができません(注4)。しかしアルマ望遠鏡が観測するミリ波・サブミリ波はこうした物質に吸収されないため、星や惑星が誕生するまさにその現場を観測することができるのです。
◆惑星形成の研究者でもある林正彦 国立天文台長は
「惑星系ができていくようすが手に取るように見てとれる画像が、こんなにも早くアルマ望遠鏡で観測できるとは思いもよりませんでした。学生時代に太陽系形成の京都モデルを勉強したとき、私が生きているあいだに惑星系が形成されていくようすが実際に見えるようになることはないだろうと思っていました。次はいよいよ宇宙における生命の兆候の発見に向かいます。私が生きている間に実現できるかもしれないと思っています。」と今後の期待を語っています。

▲画像3. 国立天文台野辺山ミリ波干渉計(NMA)で1993年に観測されたおうし座HL星の周囲の様子とアルマ望遠鏡画像の比較。NMAでは星の周囲を取り囲む一酸化炭素ガスの分布(カラー)が捉えられています。この時の解像度はおよそ5秒角(角度の1度の720分の1)ですが、今回のアルマ望遠鏡の画像はこれに比べて140倍の解像度を実現しました。図中の等高線は、可視光で撮影された星から噴き出すジェットです。
Credit: 国立天文台/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
映像1. 全天の画像からおうし座HL星へとズームしていく映像。
おうし座の一角にガスや塵が集まった雲があり、その中で生まれている星の一つがおうし座HL星です。おうし座HL星はハッブル宇宙望遠鏡で撮影した画像では光るガスの雲に覆われていますが、アルマ望遠鏡ではその奥の塵の円盤をはっきりと撮影できていることがわかります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA/N. Risinger (skysurvey.org). Music: movetwo
◆【2015年2月26日】
アルマ望遠鏡、巨大ブラックホール周囲に
驚くほどマイルドな環境を発見
国立天文台の高野秀路氏と名古屋大学の中島拓氏を中心とする研究グループは、アルマ望遠鏡を用いて渦巻銀河M77の観測を行い、その中心部に存在する巨大ブラックホールのまわりに有機分子が集中して存在することを初めて明らかにしました。こうした分子はブラックホール周囲では強烈なエックス線や紫外線放射によって壊されると考えられていますが、今回の観測成果は大量の塵とガスによってエックス線や紫外線がさえぎられている領域があることを示唆しています。この成果は、高い感度と幅広い周波数帯の電波を一度に観測できる能力を兼ね備えたアルマ望遠鏡ならではの成果であり、謎に包まれた巨大ブラックホール周辺の環境を理解するうえで非常に重要な発見と言えます。
アルマ望遠鏡による観測
国立天文台の高野秀路氏と名古屋大学の中島拓氏を中心とする研究グループは、くじら座の方向4700万光年の場所にある渦巻銀河M77をアルマ望遠鏡で観測しました。M77の中心には活動銀河核があり、その周囲を爆発的星形成領域が半径3500光年のリング状に取り囲んでいることが知られています(スターバースト・リング)。研究チームは国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて、既にこの銀河で各種の分子が放つ電波の観測を行っており、アルマ望遠鏡を用いることでその研究をさらに発展させ、活動銀河核と爆発的星形成領域での化学組成の違いを明らかにすることを狙っていました。アルマ望遠鏡は、1) 弱い電波も検出できる高い感度、2) 実際のガスの分布を忠実に描き出すことのできる高いイメージング性能、3) 幅広い周波数帯を一度に観測できる能力を併せ持つため、銀河における分子の分析に適した望遠鏡と言えます。

▲画像1:アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した、渦巻銀河M77の中心部。アルマ望遠鏡で検出されたシアノアセチレン(HC3N)の分布を黄色、硫化炭素(CS)の分布を赤、一酸化炭素の分布を青で示しています。シアノアセチレンが活動銀河核のまわりに多く存在しているのに対し、一酸化炭素は主にスターバースト・リングに分布していることがわかります。また、硫化炭素は活動銀河核のまわりとスターバースト・リングの両方に分布しています。
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), S. Takano et al., NASA/ESA Hubble Space Telescope and A. van der Hoeven
アルマ望遠鏡による観測で、M77の活動銀河核のまわりとスターバースト・リングにおける9種類の分子の分布が鮮やかに描き出されました。「今回の観測ではアルマ望遠鏡完成時のアンテナ数の約1/4にあたる16台程度しか使っていませんが、わずか2時間足らずでこれほど多くの分子の分布図を得られたことにたいへん驚きました。これほど多くの分子の分布を一度に得られたのは、今回が初めてのことです。」と研究チームを率いる高野氏は結果を得た時の感想を述べています。

▲画像2:アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の撮影結果を並べた画像
Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), S. Takano et al., NASA/ESA Hubble Space Telescope and A. van der Hoeven
◆【2015年6月09日】
視力13,000を達成! アルマ望遠鏡と重力レンズ望遠鏡のかけ合わせでモンスター銀河の真の姿をとらえることに成功
2015年2月、アルマ望遠鏡がとらえた117億光年彼方のモンスター銀河「SDP.81」の画像が、世界同時公開されました。SDP.81は、その手前に偶然位置する距離34億光年の銀河の重力によって、その姿がリング状に拡大されています(重力レンズ効果)。人類が初めて経験する高い解像度と感度で取得されたその画像は世界中の研究者の注目を集めましたが、その複雑な観測結果を解釈することができていませんでした。そこで、東京大学理学系研究科の田村陽一助教と大栗真宗助教および国立天文台の研究グループは、SDP.81をもっとも精緻に再現できる重力レンズ効果モデルを世界に先がけて発表しました。この結果、重力レンズ効果によって拡大されたSDP.81の詳細な内部構造を解明しただけでなく、重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に太陽質量の3億倍以上におよぶ超巨大ブラックホールが存在することを世界で初めて示しました。アルマ望遠鏡と重力レンズという天然の望遠鏡の組み合わせによって、じつに視力13,000が達成されたことになります。この結果は、モンスター銀河の形成過程や超巨大ブラックホールの成長メカニズムの解明につながると期待されま

▲図は、今回の研究成果を模式的にあらわしたもの。
Credit: アルマ望遠鏡の画像:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/C. Collao (ALMA) 、地球の画像:気象庁ホームページ す。
重力レンズ効果とは、アインシュタインの一般相対性理論によって予言される、質量が時空の歪みを介して光路を曲げる現象です。重力レンズ効果は、非常に重い天体の周囲で必ず生じ、その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質があります。このため、宇宙初期の銀河やブラックホール、暗黒物質を研究するための手段として、この重力レンズが頻繁に利用されています。なかでも、距離の異なるふたつの銀河が視線方向にほぼ完全に重なるときにだけ生じる「アインシュタイン・リング」は、より遠いほう(背景)の銀河の詳細な構造を拡大して観察したり、手前(前景)の銀河がもつ恒星やブラックホールなどの質量を測定したりできるため、たいへん強力なツールです。
このような状況のもと、2015年2月にアルマ望遠鏡が撮像したモンスター銀河「SDP.81」の科学データが、世界同時公開されました。SDP.81は、うみへび座の方向、地球から距離117億光年に位置する爆発的に恒星を生み出している銀河で、その手前に位置する距離34億光年の銀河の重力によって、その姿がリング状に引き伸ばされています(アインシュタイン・リング)。アルマ望遠鏡の画像データは、(a) 恒星や惑星の材料となる低温の分子ガスや塵が放射する波長1ミリメートルの電波(ミリ波)を高い感度で検出し、(b) ハッブル宇宙望遠鏡の解像度をしのぐ0.023秒角(人間の視力で2600に相当)という高い解像度で取得されました(図2)。

▲図2. アルマ望遠鏡がとらえたモンスター銀河SDP.81のアインシュタイン・リング
このデータには背景のモンスター銀河や前景銀河のブラックホールの謎を解く鍵が秘められていると期待されていたため、世界中の研究者が高い関心を寄せていました。しかし、アインシュタイン・リングは完全な円弧ではなく、屈曲していたり分裂していたり細かい粒を持っていたりするなど、構造があまりに精緻かつ複雑なため、物理的な解釈は困難をきわめました。
研究内容
そこで、東京大学理学系研究科の田村陽一助教と大栗真宗助教および国立天文台の研究グループは、SDP.81をもっとも精緻に再現できる重力レンズ効果モデルを、世界に先がけて作り上げました。このモデルでは、SDP.81周辺の重力場の歪みを高精度で補正した、いわば重力レンズの乱視矯正を独自にとりいれることにも成功しました。この結果、重力レンズ効果によって拡大されたSDP.81の詳細な内部構造を解明しただけでなく、重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に超巨大ブラックホールが存在することを世界で初めて示しました。
まず、アインシュタイン・リングの複雑な微細構造は、モンスター銀河SDP.81の内部構造を反映していました。モデルを用いたレンズ像の再構築(図2囲み・ 動画)を行ったところ、差し渡し200〜500光年の塵の雲が、およそ長さ5000光年の楕円状の領域に複数分布していることがわかりました(図3)。

▲図 3. アルマ望遠鏡と重力レンズ効果の高精度解析により明らかになったSDP.81の内部構造モデル(左)と、仮に重力レンズを介さずにアルマ望遠鏡(中央)とハッブル宇宙望遠鏡(右)で見た場合のSDP.81の見えかた。アルマ望遠鏡と重力レンズの組み合わせが、SDP.81の内部構造を克明に描きだすことに成功しました。
この塵の雲は、巨大分子雲と呼ばれる、恒星や惑星が生まれる直接的母体だと考えられます。図4に示すように、SDP.81の内部に見つかった巨大分子雲のサイズは、銀河系や近傍の銀河に見られるものと同程度だということがわかります。117億光年もの距離に位置する銀河の内部構造が、これほど高い解像度で解明されたのは初めてです。

▲図 4. SDP.81の空間構造モデル(左;一部拡大)と近傍の巨大分子雲とのサイズ比較(1目盛 = 250光年)。近傍銀河M33に位置する巨大散光星雲NGC 604(右)や銀河系内のオリオン座巨大分子雲(中央)の実スケールと比較すると、SDP.81のモデルが巨大分子雲サイズで銀河の内部構造を描きだして いることがわかります。(Image credit: NASA and The Hubble Heritage Team (AURA/STScI))
さらに興味深いのは、アインシュタイン・リングの中央に出現することが予想される背景銀河の「中心像」の高感度探査が可能となった点です。図5に、前景銀河の中心に超巨大ブラックホールが存在すると、背景銀河の中心像がどのように見えるかを示しました。前景銀河にブラックホールが存在すると、それがおよぼす重力レンズ効果によって、中心像だけが著しく暗くなります。これを逆手に取ると、中心像の明るさから、前景銀河のブラックホールの重さを量ることができます。

▲図 5. 重力レンズ効果を引き起こす手前の銀河の中心に3億太陽質量の超巨大ブラックホールが存在する場合(右)と超巨大ブラックホールが存在しない場合(左)の、SDP.81の見えかた。手前の銀河に3億太陽質量を超える超巨大ブラックホールが存在すると、それが及ぼす重力レンズ効果によって、中心像が著しく暗くなることがわかりました。アルマ望遠鏡の観測によって、SDP.81の中心像がきわめて暗いことがわかったため、手前の銀河に3億太陽質量以上のブラックホールが存在すると考えられます。
▼SDP.81の動画
今回のアルマ望遠鏡の観測によって、SDP.81の中心像がきわめて暗いことが示されました。これは、前景銀河の中心に、太陽質量の3億倍以上におよぶ超巨大ブラックホールが存在することを意味します。
発表雑誌
雑誌名日本天文学会欧文研究報告 (Publications of the Astronomical Society of Japan) オンライン版:6月9日論文タイトルHigh-resolution ALMA observations of SDP.81. I. The innermost mass profile of the lensing elliptical galaxy probed by 30 milli-arcsecond images.著者Yoichi Tamura*, Masamune Oguri, Daisuke Iono, Bunyo Hatsukade, Yuichi Matsuda, Masao Hayashi
◆【2015年6月18日】
アルマ望遠鏡によるブラックホールの精密体重測定
総合研究大学院大学の大西響子氏らの研究グループは、アルマ望遠鏡を用いて棒渦巻銀河NGC 1097を観測し、その中心に位置する超巨大ブラックホールが太陽の1億4000万倍の質量をもつことを明らかにしました。銀河とそこに含まれる超巨大ブラックホールは共に進化してきたと考えられており、その関係を議論する上で超巨大ブラックホールの質量はたいへん重要な情報です。今回の結果は、アルマ望遠鏡による2時間程度の観測で得られたものであり、超巨大ブラックホールの質量測定にアルマ望遠鏡が大きな威力を発揮することを示しています。

▲図1. 欧州南天天文台VLTが可視光で観測したNGC1097 Credit: ESO/R. Gendler
アルマ望遠鏡による研究
国立天文台で研究を行う総合研究大学院大学博士課程の大西響子氏らのチームは、アルマ望遠鏡による銀河NGC 1097の観測データを用いて、その中心にある超巨大ブラックホールの質量導出に挑みました。感度が高く、ガスの速度を精密に測ることができるアルマ望遠鏡は、この研究に非常に適しています。

▲図2. アルマ望遠鏡で観測した、NGC1097中心部。シアン化水素(HCN)の分布を赤色で、ホルミルイオン(HCO+)の分布を緑色で表現し、可視光画像に合成しています。HCNとHCO+の両方が存在する場所は黄色に見えています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Onishi (SOKENDAI), NASA/ESA Hubble Space Telescope
「デービス氏らが観測したNGC 4526はレンズ状銀河という種類の銀河であるのに対し、NGC 1097は棒渦巻銀河です。超巨大ブラックホールの質量とそれを取り巻く銀河の性質との関係は、銀河のタイプによって異なることがわかってきており、さまざまなタイプの銀河で超巨大ブラックホールの質量を精度良く求めることは大変重要です」と、大西氏は語っています。
アルマ望遠鏡による観測で、研究チームはNGC1097中心付近に分布するシアン化水素(HCN)とホルミルイオン(HCO+)が放つ電波を観測し、分子ガスの分布と運動の様子を精密に測定しました。次にこのガスがどのような重力のもとで運動しているのかを、天体モデルを作成して調べました。超巨大ブラックホールの質量の多寡やバルジ部の星の量・分布の様子によってガスが受ける重力が異なるので、さまざまな場合についてモデルを作ってガスの動きを計算し、観測結果ともっともよく合致するモデルを探すのです。この結果、NGC1097の中心にある超巨大ブラックホールの質量は、太陽質量の1億4000万倍であることがわかりました。晩期型銀河(渦巻銀河や棒渦巻銀河)に対して、この方法で超巨大ブラックホールの質量を測定したのは今回が初めてのことです。

▲図3. アルマ望遠望遠鏡で観測したHCNガスの運動を色で表した画像。赤色の部分はガスが私たちから遠ざかる方向に、紫色の部分はガスが手前に近づく方向に移動しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Onishi (SOKENDAI), NASA/ESA Hubble Space Telescope
▼動画で解説する「アルマ望遠鏡によるブラックホールの精密体重測定」
Credit: J. Hellerman, B. Kent (NRAO/AUI/NSF); ALMA (NRAO/ESO/NAOJ); K. Onishi (SOKENDAI); NASA/ESA Hubble Space Telescope
Produced by U. S. National Radio Astronomy Observatory
大西氏は、「アルマ望遠鏡は、わずか2時間ほどの観測でNGC1097中心部のガスの運動データを得ることができました。銀河とその中心にある超巨大ブラックホールの関係を明らかにするには、多くの、そしてさまざまなタイプの銀河でブラックホールの質量を求める必要がありますが、アルマ望遠鏡を使えば現実的な時間で多くの銀河の観測を実行することができます。」と、アルマ望遠鏡での今後の観測に期待を寄せています。
銀河がどのように生まれどのように進化してきたのか、またその中で超巨大ブラックホールがどのように生まれ成長してきたのかは、天文学における大きな謎のひとつです。今回の研究のように超巨大ブラックホールの質量を精密に測定することは、銀河と超巨大ブラックホールの共進化の仕組みと歴史を明らかにする第一歩であり、この宇宙の歴史を紐解くことにつながります。












