【宇宙の神秘】 「ALMA望遠鏡」とその観測成果 第3部
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◆◇◆ALMA望遠鏡の観測成果
宇宙誕生後8億年後までは、すばる望遠鏡でも見ることが出来るが、それより過去にさかのぼろうとすると、赤方偏移の効果で光学望遠鏡では見ることが次第に難しくなる。しかし、赤方偏移の効果により逆にミリ波やサブミリ波で銀河などは明るくなること、銀河自身が含む塵がミリ波サブミリ波を放射することなどから、アルマ望遠鏡なら宇宙の暗黒時代直後の銀河の誕生を見ることが出来ると期待されている。暗黒時代直後の銀河の成り立ちへの手がかりを、アルマ望遠鏡がとらえることが期待されている。(ALMA国立天文台)
◆【2015年10月15日】
アルマ望遠鏡が明らかにした遠方銀河の活発な星形成
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のJohn D. Silverman (ジョン・シルバーマン) 特任助教らの研究グループは、南米チリのアタカマ高原にあるアルマ望遠鏡やフランスのビュール高原にあるビュール高原電波干渉計 (PdBI) といった電波望遠鏡を用い、遠くの宇宙にある7つのスターバースト銀河の観測を行いました。その結果、遠方のスターバースト銀河の環境が、激しい星形成が起きている近くのスターバースト銀河と似ていることが分かりました。この結果から、昔の宇宙でも現在と同じような環境下で爆発的な星の形成が起きていた可能性が示されました。

▲衝突し、爆発的に星形成が起きている銀河の例 Zw II 96。今回アルマ望遠鏡ではこの天体よりもずっと遠方で活発に星を作っている銀河を観測した。
Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook University)
◆【2015年12月05日】
115億光年彼方の原始グレートウォールの内部に巨大銀河誕生の現場を発見
東京大学大学院理学系研究科の梅畑豪紀日本学術振興会特別研究員、田村陽一助教、河野孝太郎教授を中心とする国際研究チームは、アルマ望遠鏡による観測から、115億光年彼方に位置する若い銀河の大集団、いわば宇宙最大の天体である「原始グレートウォール」の中心に、爆発的な星形成活動を行っている銀河(モンスター銀河)が9個も群れ集まっている様子を捉えることに成功しました。一つ一つのモンスター銀河は我々の住む天の川銀河の数百倍から1000倍もの凄まじい勢いで星を形成しており、やがて巨大銀河へと進化すると考えられています。この結果は、原始グレートウォールが巨大銀河の誕生を支える母体であることを指し示すものであり、モンスター銀河の形成過程やその後の進化の解明につながると期待されます。
発表内容
研究チームは、みずがめ座の一角にあるSSA22と呼ばれる天域に注目しました。この方向には、すばる望遠鏡やケック望遠鏡による観測によって、115億光年彼方に若い銀河の大集団が発見されています。この大集団はフィラメント状の立体構造を成していることが知られていて、「原始グレートウォール」だと考えられています。研究チームでは、この原始グレートウォールについて、モンスター銀河の徹底的な捜索を行いました。
モンスター銀河には研究者を悩ませる、ある特徴があります。それは、あまりに多くの塵に覆われていて、すばる望遠鏡で見ることができるような、目に見える光(可視光)ではその姿をあまりとらえられない、というものです。モンスター銀河を「見る」ためには、可視光ではなくサブミリ波と呼ばれる電磁波で観測することが有効になります。サブミリ波を使うことで、塵からの放射を捉え、モンスター銀河の姿を浮かび上がらせることができるのです。
これまでに、研究チームではアステ望遠鏡を用いて、この領域のサブミリ波の画像を取得していました。この画像から、どうやら原始グレートウォールの方向にモンスター銀河がいるらしい、と予想できました。一方で、解像度、感度、ともに十分ではなかったため、それ以上の探査が難しい状況でした。そこで、より鮮明な画像を得るべく、南米チリに作られた最新鋭の電波望遠鏡であるアルマ望遠鏡を用いて、この領域を詳しく観測しました。
その結果、従来の観測と比較して60倍の解像度と10倍の感度を達成することができ、それぞれのモンスター銀河を明確に認識することが可能になりました(図1)。

▲図1. モンスター銀河の例。左はアステ望遠鏡によって撮影されたサブミリ波の画像で、1個の明るいモンスター銀河が存在しているように見えます。中央は今回、新たにアルマ望遠鏡によって得られた同じサブミリ波の画像です。60倍の解像度、10倍の感度を得たことで実は3個のモンスター銀河が近い範囲に存在していることがわかりました。右の図は同じ領域のすばる望遠鏡による可視光の画像です。モンスター銀河は全く見えていないか、見えていても非常に暗いことがわかります。
そして、合計9個のモンスター銀河が原始グレートウォールの内部に群れ集まって存在していることを確認しました。モンスター銀河は希少な天体であり、1億光年四方の立方体の中に平均して0.1個程度しか存在しないことが知られています。今回発見されたモンスター銀河の集団はその数千倍のとても高い密度を示していました。さらに、原始グレートウォールの中でも中心部、フィラメントの交わる場所でこのモンスター銀河の集団は発見されました(図2)。

図2. 原始グレートウォールとモンスター銀河の想像図。若い銀河がフィラメント状に分布した大集団である原始グレートウォールの中心部で、モンスター銀河がいくつも誕生していると考えられます。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
若い銀河の密度が高くなっているこのような場所は、ダークマターの密度もまた高くなっていることを意味しています。そのような特殊な環境において、多くのモンスター銀河が生まれていることを示した本研究結果は、現在の銀河形成理論による予想を裏付けるものだと言えます。また、原始グレートウォールがモンスター銀河、ひいてはその子孫となる巨大銀河の誕生の母体となっていることを示しています。
この観測成果は、2015年12月4日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されます。(Umehata et al. "ALMA Deep Field in SSA22: Aconcentration of dusty starbursts in a z=3.09 protocluster core")
◆【2016年3月03日】
アルマ望遠鏡、原始星円盤へのガス流入の詳細を明らかに
アルマ望遠鏡を使った原始星TMC-1Aの観測から、この原始星を取り巻くガス円盤とその周囲でのガスの動きがこれまでになく詳細に明らかになりました。高い感度を持つアルマ望遠鏡によって、原始星を取り巻くガス円盤と、そこに向かってゆっくりと落下するガスを初めて直接見分けることに成功したのです。これは、原始星周囲の円盤の成長と進化の謎に迫る重要な一歩といえます。

▲図1. TMC-1Aの観測画像。アルマ望遠鏡で観測した原始星周囲を取り巻くガスの分布を赤で表しています。また原始星には一般的に見られる、原始星から噴き出すガス流をアルマ望遠鏡で捉えた様子を白色で合成しています。原始星TMC-1Aの位置は十字で示しています。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Aso et al.
太陽や夜空に輝く星は、宇宙に漂うガスが自らの重力によって集まることで誕生します。宇宙には「星の卵」ともいえるガスの集合体が数多く発見されており、その中に赤ちゃん星(原始星)を宿したものも多くあります。おなかの中の赤ちゃんに母体から栄養が供給されるように、原始星を取り巻くガスの集合体から中心の原始星に向かってガスが流れ込むことで、原始星は次第に成長しいきます。この時ガスは直接原始星には取り込まれず、いったん原始星のまわりを円盤状に回るようになります。しかし、この円盤が星の誕生過程のどの段階で作られ、どのように成長していくのかは、観測的研究からも理論的研究からもまだ明らかになっていません。これは、十分な解像度と感度で原始星の周囲を観測できていなかったことに原因があります。

▲図2. TCM-1Aのまわりのガスの運動を表した図。こちらに近づく方向に動くガスを青色、遠ざかる方向に動くガスを赤色で表現しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Aso et al.
東京大学大学院理学系研究科の大学院生 麻生有佑氏と国立天文台ハワイ観測所の大橋永芳教授らを中心とする研究グループは、原始星を取り巻く円盤の構造を詳しく調べるため、おうし座にある原始星TMC-1A(地球からの距離 約450光年)をアルマ望遠鏡で観測しました。TMC-1Aは誕生直後の非常に若い星で、その周囲にはガスの円盤があり、さらにそれを取り巻くようにガス雲(エンベロープ)が取り囲んでいることが知られています。

▲図3. TMC-1Aの想像図。中心に原始星があり、それを回転するガス円盤が取り巻いています。ガス円盤にはさらに外側からガスが流れ込んでいます。
Credit: NAOJ
観測の結果、研究グループはエンベロープから円盤に向かってガスが降り積もり、円盤内でケプラー回転するようになる領域を観測から直接精度よく見出すことに初めて成功しました。エンベロープから円盤にはガスが流れ込んでいるため両者は連続的につながっており、従来の研究ではこれらを見分けるのは困難でした。これらを見分けるためには、まず内側にある円盤の回転速度を観測から精度よく見積もり、外側でその回転速度と合致しない成分を探す必要があります。円盤のガスは中心の星に近いほど高速で回転していますが、内側ほどガスの量が少なくなります。このため、円盤の内側から発せられる電波は弱くなってしまい、精度良く測定することが難しいのです。今回の観測では、アルマ望遠鏡の高い感度のおかげで、高速回転する円盤の速度とその広がりを高い精度で求めることができました。そのおかげで、外側にある異なった速度を持つ構造、すなわちエンベロープとの境界が特定でき、エンベロープから円盤に降り積もってくるガスの速度も精度よく見積もることに成功しました。
TMC-1Aの想像図(動画)。 Credit: NAOJ
◆【2016年3月10日】
アルマ望遠鏡、宇宙に満ちる謎の赤外線放射の起源を解明
東京大学宇宙線研究所の藤本征史氏と大内正己准教授をはじめとする研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、人類史上最も暗いミリ波天体の検出に成功しました(図1)。そして、これらの天体から放射される赤外線が、これまで謎だった宇宙赤外線背景放射の起源であることが分かりました(図2)。

図1: (上)モヤモヤとしたCIBが、今回のアルマ望遠鏡を用いた研究により個別の天体に分解された様子のイメージイラスト。
Credit: NAOJ
さらに研究チームは、今回の研究で見つかった暗いミリ波天体をハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡の光赤外線の画像で調べました。その結果、暗いミリ波天体のうち約60%の正体は、これまで光赤外線の観測で知られている遠方銀河だと分かりました。一方で残りの約40%の天体は、光赤外線観測では姿が見えない天体でした(図3)。今回の研究によって、宇宙赤外線背景放射の起源が銀河などの天体であることが明らかになった一方で、これらのうち40%については正体不明の新しいタイプの天体である可能性が出てきました。

図1:(下)アルマで発見された個別の天体の明るさの総和が、CIBのほぼ全量に届いたことを表しています。
Credit: NAOJ, Fujimoto et al.
宇宙を望遠鏡で観測すると、星や銀河以外の場所は漆黒の闇に包まれているように見えます。しかし実際の宇宙からは、どの方向からも一様な弱い光(電磁波)が届いており、これを宇宙背景放射と呼びます。宇宙背景放射には可視光(COB)、マイクロ波(CMB)、赤外線(CIB)の主要な3つの成分があります。このうちCOBに関しては、宇宙に存在する銀河中の星が起源であることがわかっています。またCMBは、ビックバン直後の宇宙の熱いガスが放った光だとわかっています。一方CIBについてはこれまでのところ正体がわかっておらず、様々な観測で調べられてきました。特に、最高感度と高い空間分解能を誇るアルマ望遠鏡を用いた観測でもCIBが調べられてきましたが、その起源の約半分は明らかになっていませんでした。この原因は、これまで行われていたアルマ望遠鏡による個々の観測では感度や観測範囲に限界があり、暗い天体を十分に捉えることができなかったためです
こうした未知のCIB起源を解明するために、研究チームは公開されている約900日間に及ぶアルマ望遠鏡観測データをくまなく調べました。更に背景天体が重力レンズ効果で増光されることを利用して、これまで検出することができなかった、より暗い天体を網羅する探査を行いました。東京大学宇宙線研究所の大学院生である藤本征史氏は、「CIBの起源は宇宙から届く主要なエネルギーにおけるミッシングピースとなっていました。あらゆる手を尽くしてこの起源に迫ろうと、膨大なデータ解析に励んだのです。」と語ります。その結果、研究チームは133個の暗い天体を発見しました。その中には、これまで発見されていたものよりも最大で5倍も暗い天体が含まれています。その明るさと数を足し合わせるとCIBのほぼ全てに相当することが分かったのです。

図2:すばる望遠鏡の観測(カラー画像)により明らかになった、暗いアルマ天体(赤等高線)の正体。アルマ望遠鏡では、光赤外線で観測される銀河(2本の赤い線に挟まれた天体)に含まれる塵からの放射を捉えていると考えられます。
Credit: NAOJ, Fujimoto et al.
◆【2016年5月25日】
新たなデータ解析手法で見えてきた、ガス円盤に刻まれた惑星形成の確かな証拠
台湾中央研究院天文及天文物理研究所のイェン・シーウェイ氏と鹿児島大学の高桑繁久教授らの研究グループは、アルマ望遠鏡による観測から、若い星おうし座HL星の周囲のガスの円盤に二重の溝が存在していることを発見しました。おうし座HL星を取り巻く円盤に含まれる塵の分布はアルマ望遠鏡の超高解像度観測から詳細に明らかになっていましたが、ガスの分布がこれほど高解像度で明らかになったのは今回の研究が初めてのことです。塵とガスの両方で同じ場所に溝が見られたことは、その場所で惑星が形成されている強い証拠であり、100万歳という若い星の周囲ですでに惑星が作られている可能性が高まったことで、惑星形成のシナリオを大きく書き換える必要が出てきました。
2014年11月、アルマ望遠鏡は「視力2000」に相当する超高解像度でおうし座HL星(地球からの距離は約450光年)の観測を行いました。

画像1. アルマ望遠鏡が観測したおうし座HL星の周囲の塵の円盤。間隙に隔てられた同心円状の細い環が幾重にも並んでいる様子がはっきりと見て取れます。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

図2. おうし座HL星の周囲のHCO+ガス(青)と塵(赤)の分布。円盤の隙間に点線を描いています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Yen et al.

図3. おうし座HL星の想像図。中心の星のまわりに塵とガスの円盤(赤色で描かれている)があり、そのさらに外側に厚いエンベロープが取り巻いています。また星からは両極方向に細く絞られたジェットが出ています。 Credit: Yin-Chih Tsai/ASIAA EPO
この研究成果は、Yen et al. "Gas Gaps in the Protoplanetary Disk around the Young Protostar HL Tau"として、2016年4月1日発行の米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。
◆【2016年6月17日】
アルマ望遠鏡、観測史上最遠方の酸素を捉える
大阪産業大学の井上昭雄准教授、東京大学の田村陽一助教、国立天文台の松尾宏准教授をはじめとする研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、131億光年かなたの銀河に電離した酸素ガスがあることを初めて突き止めました。これは、観測史上最遠方の酸素の発見です。酸素ガスは多数の若くて巨大な星によって電離されていると考えられ、いまだ謎に包まれている「宇宙再電離」を探る重要な手がかりになります。今回アルマ望遠鏡で「宇宙再電離」期の酸素を検出できることが実証されたことで、この謎の解明にアルマ望遠鏡が大きな役割を果たすことが期待されます。

研究の背景
現在の宇宙には様々な元素が存在しますが、今から138億年前のビッグバン直後には、最も軽い元素である水素、2番目に軽いヘリウムと、ごく微量のリチウム(3番目に軽い元素)しか存在しませんでした。より重い元素、例えば私たちにも身近な酸素や炭素―天文学では「重元素」と呼ぶ―は、星の内部での核融合反応によって作られ、超新星爆発など星の死とともに宇宙空間にばら撒かれていきました。例えば、太陽は質量で71%が水素、27%がヘリウム、2%がその他の元素という組成になっています。長い年月をかけて宇宙の中で星の生死が繰り返されることによって、太陽が生まれるころには「重元素」が2%ほど蓄積したのです。つまり、「重元素」の量は、星形成の歴史を反映しているのです。
「宇宙最初期の『重元素』を探すことは、その時代の星形成の歴史を調べることです。そして、星の大集団である銀河がどのようにして生まれたのか、宇宙の夜明けとも言うべき『宇宙再電離』を何が起こしたのか、という難問にも迫ることができます」と、研究チームの代表である井上氏は語っています。
ビッグバン当初の宇宙は非常に高温だったため、陽子と電子がバラバラに飛び交う「電離状態」にありました。宇宙が膨張してくると次第に温度は下がり、ビッグバンから約40万年後には電離状態を脱し、陽子と電子が結合して水素原子が生まれました。さらに数億年が経過するうちに宇宙の中では天体が誕生し、そこから放たれる強烈な光によって宇宙に満ちる水素は再び電離されていったと考えられています。これが「宇宙再電離」です。「宇宙再電離」は宇宙全体の物質の状態が一変した一大イベントですが、どんな天体が再電離を引き起こしたのか具体的には明らかになっておらず、宇宙初期に残された大きなミステリーとなっています。
研究チームは、くじら座の方向およそ131億光年かなたにある銀河SXDF-NB1006-2を観測ターゲットに選びました。この銀河は国立天文台が運用するすばる望遠鏡によって2012年に発見された銀河で、米国のケック望遠鏡を用いた追観測で、その当時は観測史上最遠の場所にあると分かった銀河でした。すばる望遠鏡による観測では、この銀河に含まれる電離水素ガスからの光が検出されていましたが、研究チームのねらいは電離した酸素の光と、重元素の塵粒子からの光でした。

図2:すばる望遠鏡で発見されたSXDF-NB1006-2の画像。青色を B バンド、緑色を R バンド、赤色を NB1006 バンドに割り当てています。 クレジット:国立天文台
アルマ望遠鏡での観測
高い感度を持つアルマ望遠鏡による観測が2015年6月に実施され、研究チームはSXDF-NB1006-2から電離した酸素の光を検出することに成功しました[2]。これは人類がこれまで目にした最遠方の酸素であり、宇宙誕生後およそ7億年という最初期の宇宙に酸素が存在していたことを証明する結果です[3]。さらに、その光の強さから水素に対する酸素の存在比率を計算すると、太陽における比率の10分の1程度(質量割合で0.05%)であることがわかりました。

図3:SXDF-NB1006-2の疑似カラー合成画像。アルマ望遠鏡で観測された電離酸素からの光を緑色、すばる望遠鏡で観測された電離水素からの光を青色、イギリス赤外線望遠鏡UKIRTで観測された紫外線を赤色で合成しています。
クレジット:国立天文台, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

図4: SXDF-NB1006-2の想像図。巨大な若い星たちが放つ強烈な光によってガスが電離されている様子が描かれています。
クレジット:国立天文台
「宇宙初期なので星形成の歴史が浅く、太陽の組成より少ないのは当然と言えます。また、太陽の組成の10分の1というのも私たちの銀河形成シミュレーションの予想通りでした。でも一つ予想外のことがありました。塵の少なさです」と、研究チームの一員である吉田直紀氏(東京大学)はコメントしています。実は、塵からの光はアルマ望遠鏡による観測では検出されませんでした。塵の材料である「重元素」は現在の宇宙の10分の1程度はありますが、塵はそれ以上に少なかったわけです。また、研究チームは炭素の光もアルマ望遠鏡で観測しましたが、こちらも検出されませんでした。「この銀河の中では何か特殊なことが起こっているようです。例えば、ガスのほとんどが電離されているのかもしれません」と井上氏は語っています。
今回検出された放射は、電子を2個はぎ取られた酸素からのものでした。酸素原子から2個の電子をはぎ取るには、大きなエネルギーを持った強烈な光が必要です。SXDF-NB1006-2にこうした酸素が存在しているということは、太陽の数十倍の質量を持つ巨大な星が多数存在していることを示しています。一方で、塵が少なく、炭素の光も弱いということは、「宇宙再電離」にとっては非常に重要です。この銀河に含まれる巨大星から放たれた強烈な光が銀河の外にまで達し、広範囲のガスを電離させるからです。「SXDF-NB1006-2は『宇宙再電離』を引き起こした光源のプロトタイプかもしれないのです」と井上氏は語ります。

映像: 宇宙再電離のコンピュータシミュレーション映像。中心に再電離の原因となる強烈な光を発する天体が位置しており、時間とともに電離された領域(黄色で表現)が広がっていくことがわかります。このシミュレーションでは一辺5万光年の領域を計算しており、シミュレーションの開始から終了までは500万年に相当します。
Credit: S. Chon (University of Tokyo)
「今回の研究成果は、第一歩にすぎません。」と田村氏は語っています。「すでに、アルマ望遠鏡による次の観測が始まっています。高い解像度で観測すれば、銀河の中での電離酸素ガスの分布や運動の様子も見えるはずです。この銀河の性質を議論する上で非常に役に立つ情報になるでしょう。そして、どんな銀河が『宇宙再電離』を引き起こしたのか明らかにする重要な手がかりが得られるでしょう。」












