【フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡】 観測成果 その2
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◆◆フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡
観測成果 その2
【2010年11月】
天の川銀河の中心から広がる、なぞの巨大泡構造
NASAのガンマ線天文衛星フェルミが、天の川銀河の中心から広がる巨大な2つの泡構造を発見した。構造は銀河面に垂直に、約5万光年ほども広がっている。その正体は、天の川銀河の中心部で過去に起こった大規模な物質の放出の痕跡ではないかと考えられている。
NASAのガンマ線天文衛星フェルミが、天の川銀河の中心から伸びる巨大な泡状の構造を発見した。この発見を地球上でたとえるなら、新大陸の発見に相当するスケールだ。構造の広がりは銀河面に対して垂直に長さが約5万光年ほどで、地球から見るとおとめ座からつる座にまで広がっており、視直径は100度以上にもなる。また、構造は形成されてからおそらく数百万年経っていると考えられている。

▲発見された2つの泡状構造の想像図(紫:ガンマ線を放射している領域、青:X線天文衛星レントゲン(ROSAT)がとらえた泡の境界と思われるかすかなX線放射)。クリックで拡大(提供:NASA/GSFC)
泡状構造は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのDoug Finkbeiner氏と米・ハーバード大学の大学院生Meng Su氏、Tracy Slatyer氏らが一般に公開されているフェルミ広域望遠鏡(LAT)のデータを加工して発見に至った。LATは、これまで宇宙に打ち上げられたガンマ線検出器としては感度、解像度とももっとも高い。
ほかのガンマ線研究者がこれほどの構造をこれまで発見できなかった理由は、霧のように全天に広がる「拡散放射ガンマ線」のためである。この放射は、光速に近い速度で運動する粒子が天の川銀河内の光子や星間ガスと衝突することで生じる。Finkbeiner氏らは、さまざまな計算を行ってLATのデータから拡散放射を分離することによって、巨大な泡構造を発見したのである。
ただし、泡構造の存在は過去の観測データでも一部示されていた。1990年に打ち上げられたX線天文衛星レントゲン(ROSAT)は、泡の境界と思われるかすかなX線をとらえていた。また、2001年に打ち上げられたNASAのマイクロ波観測衛星WMAPは、泡構造の位置にひじょうに強い電波を検出していた。
泡状構造からの放射は、天の川銀河内に広がるあらゆるガンマ線の霧からものより、はるかにエネルギーが高い。また、泡にははっきりとした境界があるようだ。構造の形と放射の強度から、比較的急速に大きなエネルギーが放出された結果形成されたのではないかと考えられている。現在のところ、この泡状構造の形成プロセスはなぞで、解明を目指してさらなる分析が進められている。考えられる可能性の一つは、超巨大ブラックホールから噴出するジェットがこの構造に関係しているというものだ。

▲フェルミによる全天ガンマ線マップ(銀河面から伸びるダンベルのような形をした部分が、今回発見された泡状構造)。クリックで拡大(提供:NASA/DOE/Fermi LAT/D. Finkbeiner et al.)
多くの銀河では、ブラックホールへと物質が落ち込むことによって粒子がエネルギーを得て高速のジェットとなって噴出している。天の川銀河のブラックホールが現在このようなジェットを噴出している証拠は得られていないため、過去にジェットが存在していたとも考えられる。
さらに別の可能性として、数百万年前に天の川銀河の中心領域で数多くの巨大な星団が誕生したときのような、爆発的な星形成によって起こるガスの大流出もあげられている。米・プリンストン大学のDavid Spergel氏は「ほかの銀河では、スターバースト(爆発的な星形成)現象によるガスの大流出を目にすることがあります」と述べ、さらに「この巨大な泡状構造の背後にどんなエネルギー源が潜んでいたのかはまだわかりませんが、多くの奥深い宇宙物理学上の問題と関連があると思います」と話している。
【2011年5月】
かに星雲からガンマ線アウトバーストを検出、しかしX線は無反応
NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が、かに星雲からガンマ線のアウトバーストを検出した。すぐにX線観測衛星「チャンドラ」も観測を始めたが、このアウトバーストの影響と思われるような結果は取得されなかった。なぜガンマ線で検出されてX線で検出されなかったのか、その理由はよくわかっていない。
かに星雲はおうし座の方向約6500光年離れたところにあり、1054年に中国で記録された超新星爆発の残骸であることが知られている。中心には1秒間に30回転する中性子星、パルサーが存在しており、そこからパルス状の高エネルギーの光を出している。
このパルス状の光を除けば、かに星雲からは一定の強度の光が出続けていると考えられてきたが、2011年1月に長期間にわたって変化するX線の存在が発見され、かに星雲からの高エネルギーの光に注目が集まっていた。
2011年4月、通常時に見られるガンマ線の30倍、2009年に見られたガンマ線のアウトバーストの5倍もの強度をもつアウトバーストが発生し、数日間それが持続しているのをNASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が発見した。

▲ハッブル宇宙望遠鏡によるかに星雲。背景に見えるのは全天のガンマ線マッピング。クリックで拡大(提供:NASA)
このようなアウトバーストは中性子星の磁場の構造が変化することで起きると考えられる。ガンマ線で何か異常なことが起きるとX線でも変化が現れることが期待されるため、X線観測衛星「チャンドラ」を運用するチームに協力を要請し、X線でも測定を行った。しかし、チャンドラから得られたデータではパルサーの周りの円盤にこれといった変化は現れなかった。

▲アウトバースト前後の比較。上はかに星雲、下は比較のために撮影したふたご座にあるパルサー。左は通常時、右は2011年4月のアウトバースト発生時の画像で、かに星雲だけ明るくなっているのがわかる。クリックで拡大(提供:NASA/DOE/Fermi LAT/R. Buehler)
なぜガンマ線で変化が検出されて、X線では何も検出されなかったのか、その理由はよくわかっていないが、X線で何も検出されなかったこと自体が手がかりとなるかもしれない。
つまり、チャンドラで検出できるような低いエネルギーの光が放射されないようなメカニズムでこのガンマ線が放射されている可能性や、チャンドラでは十分に見分けられないような、パルサーにごく近い領域で何かが起きている可能性が考えられる。今回のアウトバーストの規模を考えると、おそらく太陽系と同じくらいの大きさを持った領域からガンマ線が発生しているだろうと考えられている。
【2011年11月4日】
超高速回転パルサーに若い「新種」
NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」の観測から、非常に明るい「ミリ秒パルサー」が発見された。平均的な同種の天体よりもかなり若いとみられており、ミリ秒パルサーが形成されるしくみの解明する手がかりが得られるかもしれない。

▲隣の恒星から物質を引き寄せ、自転がスピードアップしていく(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)
パルサーとは、大質量星が超新星爆発したあとに残る中性子星(注)からの電磁波放射が、その高速自転のためにまるでパルス信号のように断続的に観測されるものだ。
その中に、毎秒数百回という超高速で回転する「ミリ秒パルサー」と呼ばれる天体がある。生まれてから10億年ほど経った古いものがほとんどで、いったん自転速度が衰えたパルサーが、パートナーである普通の恒星から重力で引きこんだ物質により再び勢いを得たものと考えられている。
だが、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」の観測データから、たった2500万歳という若いミリ秒パルサーが発見された。2万7000光年離れたいて座の球状星団NGC 6624に存在する「J1823-3021A」というパルサーで、1秒間に183.8回転している。球状星団から観測されるガンマ線のすべては、この若いたった1個のミリ秒パルサーから放射されている。

▲今回の研究で新たに発見された9つのパルサーと、それぞれの自転速度(回転数/秒)および年齢。唯一のミリ秒パルサー「J1823-3021A」(緑色)の回転速度がきわだっている。クリックで拡大(提供:NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration)
研究チームのPaulo Freire氏は、形成から100億年も経っている星団でこのような天体が見つかったことを、まるで「老人ホームにひびく赤ん坊の泣き声のよう」だと喩えている。
【2011年11月11日】
初期宇宙に「化学進化」が進んだ銀河を発見
120億光年離れた銀河から発せられたガンマ線バーストを詳しく観測したところ、すぐそばに別の銀河が存在していることがわかった。これらの銀河は非常に重元素に富んでおり、初期宇宙での銀河の進化の理論に影響を与えそうだ。
ガンマ線バーストは宇宙で最も明るい爆発現象であり、非常に明るいために遠方で発生したものも地球から捉えることができる。そのような現象のひとつ、GRB 090323をNASAのガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」が捉え、同じくNASAのガンマ線バースト監視衛星「スウィフト」やヨーロッパ南天天文台のVLTなどが観測を行った。

▲ガンマ線バーストと2つの銀河のイメージ図。クリックで拡大(提供:ESO/L. Calçada)
ガンマ線バーストはごく短期間しか明るく輝かないため、GRB 090323が明るいうちに素早くVLTなどで観測できたのは幸運であった。VLTでの観測により、このガンマ線バーストが発生した銀河とは別の銀河がそばに存在しており、地球から約120億光年離れていることがわかった。

▲ガンマ線バーストの光を2つの銀河が吸収しているイメージ図。最初ガンマ線バースト天体から連続的に出ていた光は、銀河に含まれる特定の元素によってその一部が吸収される。地球で見たときにはその部分だけ暗くなる(図中スペクトルの黒い線)ことから、どのような元素が存在しているのかがわかる。クリックで拡大(提供:ESO/L. Calçada
また、ガンマ線バーストの光をもとに銀河の組成をよく調べてみると、2つの銀河には冷たいガスがあり、このガスは「化学進化」が進んだものであることがわかった。
この場合の「化学進化」とは、銀河に含まれる恒星が核融合で様々な元素を作り出すため、徐々に組成が変化していくことを指す。一般に年老いた銀河ほど「進化」が進み、重い元素(注)の量が多くなることが知られている。初期宇宙では銀河の進化はそれほど進んでいないと考えられているため、このように重元素に富んだ銀河が120億光年かなた(つまり120億年前の宇宙)に見つかったのは非常に驚くべきことだ。
2つの銀河は非常に近いところに存在しているため、合体する現場を見ているのかもしれない。また、重元素に富んでいるということは、この2つの銀河では星形成が非常に活発に起きているはずだ。もしかしたらガンマ線バーストは、激しい星形成と何か関係があるかもしれない。
【2014年4月】
ダークマター予測と一致する、銀河中心部のガンマ線
天の川銀河中心に見られる由来不明なガンマ線のマップが作成された。ダークマターから発生している可能性があり、今後の確認が待たれる。

▲天の川銀河中心部のガンマ線分布図。右が由来不明のガンマ線。銀河中心から5000光年の距離まで広がっている。クリックで拡大(提供:T. Linden, Univ. of Chicago)
ダークマター(暗黒物質)は、電磁波で観測できない未知の重力源だ。その有力候補の1つがWIMPと呼ばれる仮想粒子で、このWIMP同士が衝突するとガンマ線が発生し、ダークマターの直接的な証拠として観測されると予測されている。
Dan Hooperさん(米フェルミ研究所)らは、宇宙望遠鏡「フェルミ」で天の川銀河中心部のガンマ線観測を行い、そのうち超新星残骸やパルサーなどの既知のガンマ線源を差し引いたガンマ線マップを作成した(画像)。
すると、由来の不明なガンマ線が銀河中心部から対称に広がっているようすが浮かび上がった。このガンマ線は1~3GeV(ギガ電子ボルト)のエネルギー範囲でもっとも明るい。ガンマ線スペクトルや明るさ、広がり具合などは、31~40GeVの範囲の質量を持つダークマター粒子から発生を予測されるものとよく一致しているという。
まだ断言はできないが、ダークマターの兆候を初めてとらえた研究として後に振り返るかもしれないと研究者らは期待している。
【2015年1月】
時速300万kmで広がる、天の川の巨大バブル
天の川銀河中心から広がる巨大バブルの観測により、構造内のガスの広がる速度や温度などがわかった。この「フェルミバブル」を作り上げた爆発現象の詳細が明かされつつある。
2010年、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が天の川銀河の円盤から垂直方向にそれぞれ3万光年も広がる2つの巨大なバブル構造を発見した。「フェルミバブル」とも呼ばれるこの構造は、200万年以上前に銀河中心部で起こった爆発的なガス放出により作られたものと考えられている。その引き金としては、(1)星が次々に生まれ、次々に超新星爆発を起こした、(2)単独の星または星の集団が銀河中心のブラックホールに落ちこんだ、といったことが候補として挙げられる。いずれにせよ、銀河の長い歴史の中では瞬間的な出来事であり、繰り返し起こっているのかもしれない。
Andrew Foxさん(米宇宙望遠鏡科学研究所)らの研究チームでは、バブルの向こう側にあるクエーサー(明るく光る遠方の銀河核)をハッブル宇宙望遠鏡で紫外線観測し、その光の分析からこの構造内のようすを探っている。

▲バブルごしに見た遠方クエーサーの光から、バブル内のガスを調べる(提供:NASA, ESA, and A. Feild (STScI))
その初期成果から、バブル内のガスは時速300万kmで広がっていること、ケイ素や炭素、アルミニウムといった星生成の名残りである重元素が豊富であること、温度はおよそ摂氏9700度とそれほど高くないことがつきとめられた。この温度については、銀河円盤内の星間ガスの流入により冷えているものと考えられる。
研究では20個のクエーサーについて同様の観測を行ってバブル全体の総質量や複数箇所での速度を調べ、フェルミバブルを作り上げた現象を解明しようとしている。
【2015年12月】
ガンマ線で輝く最遠方の超大質量ブラックホール
75億光年彼方の活動銀河核からの高エネルギーガンマ線放射がとらえられた。これまでに観測された高エネルギーガンマ線天体としては最も遠いもので、宇宙初期から現在までの宇宙進化の情報を導くための「灯台」となることが期待される。
銀河のなかには、その中心にある太陽の100万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールをエネルギー源として、電波から高エネルギーガンマ線に至る幅広い波長で輝いて見える激しい活動性を示すものがある。
とくにこうした活動銀河核からの高エネルギーガンマ線は、天体から地球に届くまでの間に宇宙空間で吸収されてしまうため、観測が難しい。はるばる地球までやってきたガンマ線は地球の大気にブロックされてしまうことや、天体の活動が激変するために強度が強くなったアウトバーストの瞬間をとらえる必要があることも、高エネルギーガンマ線の観測にとっての障壁である。

▲活動銀河核の想像図(提供:NASA)
大気によるブロックについては、高エネルギーガンマ線が地球の大気の原子核と衝突して生成される荷電粒子が発する「チェレンコフ光」を検出してガンマ線の大気突入を同定し、間接的に高エネルギーガンマ線を観測するという仕組みがある。この方法を用いてカナリア諸島ラパルマ島の「MAGIC望遠鏡」で、ガンマ線の高感度観測が行われている。
また、検出にあたっては、全天を監視しているガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」がガンマ線アウトバーストの兆候をとらえて世界中に情報を伝えるという体制がとられており、地上と宇宙の連携によって迅速なフォローができるようになっている。
東京大学宇宙線研究所の手嶋政廣さん、京都大学の窪秀利さん、東海大学西嶋恭司さんたちが研究を進めるMAGIC国際共同研究チームは、フェルミからの情報を元にMAGIC望遠鏡を向け、うしかい座の方向75億光年彼方の活動銀河「PKS1441+25」から放出される高エネルギーガンマ線を発見した。75億光年という距離は、これまでに観測された高エネルギーガンマ線天体として最も遠いものだ。
ガンマ線が地球に到来するまでに吸収される量を高精度に測定することで、宇宙を満たす可視赤外背景放射のエネルギー密度が求められ、従来の研究と整合性があることが確かめられた。可視赤外背景放射は星や銀河形成の歴史の産物であり、その量や分布は宇宙の進化の過程を理解するための重要な手がかりとなる。最遠方天体からの高エネルギーガンマ線放射が見えたという今回の発見は、この天体が宇宙初期から現在までの宇宙の進化の情報を導くための「灯台」となりえることを意味している。
【2016年3月】
高エネルギーガンマ線を放出する、
超大質量ブラックホール候補天体の大規模探査
大学連携VLBI観測網を用いて、高エネルギーガンマ線を放出する超大質量ブラックホール候補天体の探査が行われた。845個もの電波源を観測するという、世界的に前例のない大規模な探査だ。
高エネルギーガンマ線天体は、2008年に打ち上げられた天文衛星「フェルミ」の高感度観測により、現在までに1900個発見されている。そのうち30%は正体が明らかになっていないが、ほとんどが遠方銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールだと考えられている。これを直接検証するためには、ガンマ線望遠鏡よりもはるかに高い空間分解能を持つVLBI(Very Long Baseline Interferometry、超長基線干渉計)観測によって天体の輝度温度(天体の明るさを温度単位に換算した物理量)を測定する必要がある。
VLBI観測では遠い場所にある複数の電波望遠鏡が協力して観測を行うが、これらの望遠鏡は他の様々な科学観測も行うため、望遠鏡の数が増えるほど時間の確保が難しくなり、たくさんの天体を観測することは困難となる。
そこで、山口大学の藤永義隆さんと新沼浩太郎さんたちの研究チームは、山口32m電波望遠鏡(国立天文台・山口大学)とつくば32m電波望遠鏡(国土地理院・筑波大学)という2つの大口径電波望遠鏡だけを使うことによって、高い空間分解能と感度を保ったまま長時間におよぶ観測を実現した。
藤永さんたちは、未同定ガンマ線源の候補となる845個の電波源に対して輝度温度の測定を行った。この数は世界的に前例のない大規模な探査だ。その結果、輝度温度が100万度を超える29の超大質量ブラックホール候補天体が検出された。さらに、赤外線天文衛星「WISE」(現・NEOWISE)のデータを用いて検出された天体の性質を調べたところ、8天体がガンマ線ブレーザー天体と呼ばれる特殊な大質量ブラックホールである可能性が示唆された。

▲観測された超巨大ブラックホール候補天体(中心の青丸)に対するWISEによる赤外線画像の例(提供:IRSA - NASA/IPAC Infrared Science Archive)
研究チームでは今後、これらの天体に対して米国のVLBI観測網であるVLBA(Very Long Baseline Array)を用いた多波長観測を行って、より詳細な検証を行う予定だ。また、今回の成功を受けてさらなる大規模な探査計画も進めており、ガンマ線を放出する超大質量ブラックホールの性質を統計的に明らかにしたいと考えている。
◆ガンマ線観測関連ニュース
【2016年3月】
天の川銀河の中心から届く、超高エネルギー宇宙線
ナミビアのヘス望遠鏡による長年のガンマ線観測により、非常に高エネルギーの宇宙線を生み出している領域が天の川銀河の中心に存在するらしいことが初めて明らかになった。
地球には宇宙線と呼ばれる、陽子、電子、原子核などが加速された高エネルギー粒子が絶えず降り注いでいる。宇宙線は電気を帯びており、天の川銀河内の恒星間磁場によって大きく曲げられるため、その発生源を直接特定することはできないが、宇宙線が周囲の光やガスと相互作用して生成したガンマ線は磁場の影響を受けずにまっすぐ進むので、その起源をたどることが可能だ。
高エネルギーのガンマ線が地球に届くと、上層大気中の分子と相互作用して、チェレンコフ光を放射する二次粒子のシャワーが発生する。このチェレンコフ光を検出することによって、過去30年間に100個以上の高エネルギーガンマ線源が確認されており、約100テラ電子ボルト(可視光線の100兆倍)ものエネルギーを持つ宇宙線が、超新星残骸やパルサー風星雲などの天体で生成されていることがわかっている。
アフリカ南西部のナミビアに設置されたヘス望遠鏡では、天の川銀河の中心領域の地図作りを、高エネルギーのガンマ線観測で行ってきた。その10年以上にわたる観測から、ガンマ線が銀河の一番奥からやってくる宇宙線によって生成されているものであり、宇宙線源は銀河中心の超大質量ブラックホールとみられることが明らかになった。ペタ電子ボルトにおよぶ宇宙線加速の直接的な証拠が初めて示されたものだ。
ヘス望遠鏡は最初の3年間で、銀河の中心領域に非常に強力なガンマ線の点源を見つけただけでなく、約500光年にわたる領域内の巨大な分子雲から放射される広がったガンマ線放射もとらえた。分子雲が光速に近い速度の宇宙線にさらされ、分子雲内の物質と相互作用してガンマ線が生成されているようだ。

▲天の川銀河の中心を取り囲む巨大分子雲と、そこからガンマ線が放射される様子を表したイラスト(提供:Dr Mark A. Garlick/ H.E.S.S. Collaboration)
さらにその後の観測と解析で、銀河中心で宇宙線にエネルギーが供給されるプロセスに光が当てられた。「天の川銀河の中心33光年以内に、少なくとも1000年間、陽子に約1ペタ電子ボルトものエネルギーを持たせる天体が存在します」(仏・サクレー原子力庁センター Emmanuel Moulinさん)。
「ペタ電子ボルトのエネルギーを持つ陽子の源は、天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール「いて座A*(エー・スター)」と考えるのがもっともらしいでしょう」(マックス・プランク原子核物理学研究所 Felix Aharonianさん)。












