【チャンドラX線観測衛星】 観測成果 第3部
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1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。
「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。
その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第3部
【2003年2月】
銀河から吹くスーパーウィンドが作り上げたフィラメント構造
X線観測衛星チャンドラとハッブル宇宙望遠鏡によって観測された渦巻き銀河NGC3079の画像が公開された。銀河の中心付近に見られるフィラメント状の構造がひじょうに印象的だ。
▲渦巻き銀河NGC3079。チャンドラが撮影したX線放射は青で表されている。赤と緑はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した可視光の画像(提供:NASA/CXC/U.North Carolina/G.Cecil)
NGC3079はおおぐま座にある銀河で、地球からはおよそ5500万光年離れている。画像に見られる馬蹄型をしたフィラメント状の構造は銀河の中心近くにあるが、この構造は1万度程度のガスと1000万度程度のガスが混ざり合ってできている。
フィラメントは次のようにして形成されると考えられている。まず、銀河の中心から勢いよく吹き出したガス(スーパーウィンド,superwind)によって銀河円盤(ディスク)の冷たいガスが削られ空洞ができる。そして、空洞の壁面の一部ががさらにスーパーウィンドによって引き剥がされて長く伸ばされ、高温のフィラメントになるのだ。
このNGC3079に観測されるようなスーパーウィンドは、銀河中心の超巨大ブラックホールの活動によって発生するか、あるいは超新星爆発によって発生すると考えられている。スーパーウィンドは、星形成のようすを変化させたり銀河の外側まで重元素を広げたりして、銀河全体の進化に大きな影響を与えると考えられている。最新のチャンドラのデータによれば、天文学者たちは今まで銀河全体に対するスーパーウィンドの影響をかなり小さく見積もっていた可能性があるということで、今後の新しい観測やデータ解析が期待される。
【2003年3月】
ガンマ線バーストはやはり大質量星の重力崩壊に伴う現象のようだ
ガンマ線バーストの残光をX線で観測することにより、ガンマ線バーストが大質量星の重力崩壊に伴って起こる現象であるという説がさらに有力になった。
宇宙のはるか遠方で起こるガンマ線バーストはひじょうに高いエネルギーを放射する現象だが、その起源についてはまだはっきりとしたことはわかっていない。現在のところもっとも有力視されている説は、大質量の恒星が重力崩壊を起こしてブラックホールが生まれるときに高エネルギーのジェットが発生し、そのジェットによって作られる衝撃波がガンマ線バーストであるというものだ。また、超新星の周りに広がるシェル(球殻状の構造)とジェットが相互作用し、可視光やX線で観測される残光が発生すると考えられている。
▲ガンマ線バーストを模式的に示したイラスト。右下は得られたX線スペクトル(提供:イラスト:CXC/M.Weiss、スペクトル:NASA/CXC/N.Butler et al.)
NASAのX線観測衛星チャンドラは、昨年8月13日に発生したガンマ線バーストGRB020813の残光をのべ21時間にわたって観測した。その結果、ケイ素や硫黄イオンに特徴的な線がX線スペクトル中にはっきりと見られたのである。これらのイオンは超新星爆発によって放出される典型的な元素なので、ガンマ線バーストと超新星爆発との関連を強く示唆していると言えるだろう。
スペクトルの解析からは、イオンが光速の10%の速さでガンマ線バーストから遠ざかっていることやガンマ線バーストが細く絞られたビーム状になっている可能性が高いこと、超新星爆発からガンマ線バーストまでおよそ60日ほどの間が空くことなどもわかった。
ガンマ線バーストの正体が、これまで有力視されてきた超新星爆発に関連した現象であるという強い証拠が得られた一方で、爆発からガンマ線バーストまで60日も間が空くという新たな謎も生まれた。ガンマ線バーストにはまだまだ謎が多く残されているようである。
【2003年3月】
超新星残骸DEM L71の観測からその起源を探る
X線観測衛星チャンドラが撮影した、小マゼラン雲中にある超新星残骸DEM L71の画像が公開された。
▲超新星残骸DEM L71。左はX線の画像、右はHα線の画像(提供:X線:NASA/CXC/Rutgers/J.Hughes et al、Hα線:Rutgers Fabry-Perot)
チャンドラの観測結果によれば、画像の内側の水色をした部分は1000万度もの高温になっているということだ。爆発によって吹き飛ばされた物質とそれに伴う衝撃波により作られた、外側の明るい部分と内側の水色の部分という典型的な二重構造のようすがよくわかる。
観測データを詳しく解析することで、残骸物質の質量や化学組成がわかる。計算によれば、残骸物質の質量は太陽と同じくらいで、酸素やケイ素に対して鉄の割合が大きいということがわかった。また、爆発後数千年が経過していることもわかった。
超新星爆発には主に2つのタイプがある。1つは大質量星の爆発であるII型超新星で、もう1つは白色矮星の爆発であるIa型超新星である。Ia型超新星は、白色矮星と連星系になっている伴星から質量が白色矮星に降り積もり、白色矮星の質量が太陽の1.4倍を超えると不安定になって大爆発を起こすというメカニズムの現象だ。見積もられた質量などから考えると、DEM L71はこのIa型超新星の残骸になる。
【2003年4月】
ケンタウルス座Aから伸びる高エネルギーのジェット流
強力な電波源として有名な銀河、ケンタウルス座Aを、X線と電波で観測して得られた合成画像が公開された。中心の超巨大ブラックホールのすぐ近くから伸びている高エネルギーのジェットの存在がはっきりと写し出されている。
▲ケンタウルス座A(右下)から放射されるジェット。青はX線の観測、赤は電波の観測(提供:(X線)NASA/CXC/Bristol U./M. Hardcastle et al.、(電波)NRAO/VLA/Bristol U./M. Hardcastle)
電波による観測から、ジェットの内側の部分は光速の約半分の速度で外側に向かって動いていることがわかった。一方、ジェットから放射されるX線の大半は、ジェットが銀河中のガスと衝突して止まっている外側のほうで発生しているようだ。ジェットとガスの衝突によって強力な衝撃波が発生し、高エネルギーの粒子ができ、それらがX線を放射しているのである。
このようなジェットは宇宙のいたるところに存在し、大きいものでは長さが100万光年にも達するものもある。銀河の主要なエネルギー源として、銀河やその周辺の環境の進化に大きな影響を与えているのだ。ケンタウルス座Aまでの距離は1100万光年と比較的近いため、他のジェットに比べてより詳しく観測することができる。ジェットとガスがどのように相互作用するのか、ジェットが周りの環境の進化にどのような影響を与えるのか、研究者たちはさらに観測と解析を進めるだろう。
【2003年5月】
ステファンの五つ子のレントゲン写真
この画像は、「ステファンの五つ子」という名前で知られている銀河群を、X線と可視光で観測し撮影した画像を合成したものだ。青色がX線観測の画像を表しているが、これは600万度にも達する高温のガスの分布に対応している。
▲ステファンの五つ子。青はチャンドラで観測した画像で、黄は可視光の画像(提供:X線:NASA/CXC/INAF-Brera/G.Trinchieri et al.、可視光:パロマー山天文台、DSS)
ステファンの五つ子は、地球から2億8000万光年離れたペガスス座の方向にある銀河群である。この画像では4つしか銀河が写っておらず(右のものは2つである)、しかも左下の銀河は3500万光年とはるか手前にある銀河なので、一見すると五つ子には見えないが、より広範囲の画像では、確かに等距離に5つの銀河が集まっていることがわかる。
X線画像に見られる高温ガスは、画像の中央付近にある銀河が高速で移動して発生した衝撃波によって熱せられたものである。また、一部の高温ガスは、過去にこの集団を通過した別の銀河の影響で熱せられたものらしい。
ステファンの五つ子は、銀河群の中で銀河がどのように相互作用し進化するのかということや、相互作用によってガスや星にどのような影響があるのかといったことを研究するのにとても都合のよい天体だ。数十億年後には、五つ子たちは一つの楕円銀河になってしまうと考えられている。
【2003年5月】
宇宙で一番大きな建設現場で作られる大質量銀河
X線観測衛星チャンドラによる、ひじょうに遠方の大質量銀河の観測から得られた画像が公開された。銀河の周囲には、銀河から放射されたジェットによって数十万度にまで加熱された高温、高エネルギーのガスが広がっている。
▲銀河4C41.17(左)と3C294(右)。色はX線強度に応じて着けられている(提供:(左)NASA/CXC/Columbia/C.Scharf et al.、(右)NASA/CXC/IoA/A.Fabian et al.)
左の銀河4C41.17はぎょしゃ座に、右の銀河3C294はうしかい座にあり、距離はそれぞれ120億光年と100億光年と推定されている。両方とも銀河が密集したところに位置しており、周囲には多くの銀河やガス、暗黒物質が存在している。研究グループによれば、これらの銀河を調べることで、銀河の質量の限界についての手がかりが得られそうだということだ。
巨大な銀河やその中心に存在すると考えられているブラックホールは、他の銀河との相互作用や周囲のガスを取り込んで質量を増加させていく。しかし、ブラックホールから放射される高エネルギーのジェットによって加熱されたガスは、エネルギーが高くなり重力を振り切ってしまうため、ある時点でそれ以上銀河に取り込まれなくなってしまう。この時の銀河の質量が理論的に最大となるわけだが、私たちの天の川銀河系のおよそ数十倍程度だと考えられている。
また、大質量の銀河は一定の割合で質量を増加させているわけではなく、間欠的に質量の増加があるということもわかる。質量が増えることによって中心のブラックホールの活動が活発になり、ジェットで加熱されたガスが取り込まれなくなるので質量が増えなくなる。すると今後は、活動源となるガスがなくなったブラックホールの活動がおさまり、ジェットが消えてガスが冷えるため、再び銀河に取り込まれるようになる、というわけだ。
【2003年9月】
ブラックホールから発せられる宇宙一の重低音
NASAのX線観測衛星チャンドラの観測により、ブラックホールから音波が発せられていることが初めて明らかになった。
▲チャンドラが観測したペルセウス座銀河団。左はX線のエネルギーに応じて色付けされた画像、右は音波を視覚化した画像(提供:NASA/CXC/IoA/A.Fabian et al.))
音波を発しているブラックホールがあるのは、地球から2億5000万光年かなたのペルセウス座銀河団である。2002年に行われた詳しい観測により、銀河団中のガスがさざ波のようになっているようす写しだされた。このさざ波は、銀河団中心のブラックホールから外側へ向かって伝わっていった音波が存在している大きな証拠である。
音波は、音階で言えば「シ」のフラットにあたるが、あまりにも低い音なので人間の耳では聞き取ることはできない。耳慣れた「ド」の音よりも57オクターブも低いこの音は、これまでに検出された音のうちもっとも低いものである。
音波の存在は、銀河団に関する大きな謎の一つを解く鍵となるかもしれない。銀河団中には高温のガスが存在していることが観測されているが、なぜ高温のまま存在し続けられるのかについてはうまく説明されていない。ブラックホールが生み出す大量のエネルギーが音波に乗って中心から外側へと伝えられ、そのエネルギーのおかげで銀河団全体のガスが暖かいままでいられるのだろうという新たな説が、銀河団の謎を解くかもしれないのだ。
【2003年10月】
銀河団の得は銀河の損
NASAの衛星チャンドラのX線での観測とパロマー山天文台の可視光での観測により、おとめ座銀河団の銀河M86から20万光年以上にわたってガスがのびているようすが明らかになった。
▲M86。青はX線観測によるもの、オレンジは可視光観測によるもの。右上のほうにガスがのびている(提供:X線:NASA/CXC/SAO/C. Jones, W. Forman & S. Murray、可視光:パロマー山天文台DSS)
このガスは初めは銀河に付随していたものだが、時速500万キロメートルという超高速で銀河団に広がる希薄なガスの中を運動しているうちに圧力を受けて銀河からはがされ、のびた構造となったものである。
銀河は、銀河団に含まれるダークマター(暗黒物質)や高温のガス、他の無数の銀河から重力の影響を受けて銀河団に強く引っ張られている。銀河団へと銀河が落ち込んでいくようすは、まさに数十億年かけて銀河団が形成されつつある現場を見ていることになる。こうして捕らえられ銀河団の中を運動するようになった銀河は、M86のようにガスを剥ぎ取られてしまう。そして、銀河から失われた分が、そのまま銀河団全体のガスと混ざっていくというわけだ。
M86のもう一つのおもしろい特徴は、この銀河が我々と近づきつつあるということだ。一般的に遠方の銀河は、宇宙膨張の影響で我々から遠ざかるように運動している。しかしM86の場合、おとめ座銀河団(これ自体は時速約300万キロメートルで遠ざかっている)の向こう側からおとめ座銀河団の中心部へ向かって落ち込んでいる。先に述べたようにこの速度は時速約500万キロメートルなので、結果的におよそ時速150万キロメートルで我々に近づいているように見えるのだ。
【2003年12月】
チャンドラ、もっとも遠いX線ジェットを発見
NASAのX線観測衛星チャンドラによって、これまででもっとも遠い120億光年かなたのX線ジェットが発見された。このジェットから、ビッグバンからわずか14億年後の宇宙背景放射について調べることが可能になるので、初期宇宙に関して興味深い情報を与えてくれそうだ。
チャンドラX線望遠鏡は、もともとはクエーサーと地球の間にあるダストからのX線放射についてデータを集めるため、りゅう座のクエーサーGB1508+5714を観測した。当時はGB1508+5714からはジェットや複雑な構造を示すものは何も得られていなかったが、その後一般に公開されたデータをあらためて見直したところ、クエーサーの中心にある超巨大ブラックホールから10万光年以上にわたりジェットが伸びていることが明らかになったのである。
▲クエーサーGB1508+5714からのジェット(左上)と、X線源周辺のようすの想像イラスト(提供:NASA/CXC/A.Siemiginowska et al.; イラスト:CXC/M.Weiss)
ジェットを構成する電子が高速で動きながら宇宙背景放射の光子にぶつかると、光子のエネルギーが増幅されてX線の波長になる。これが、今回チャンドラが発見したようなX線源となるのだ。X線のエネルギーは電子や背景放射の光子の強度に依存するので、そこから背景放射について調べることが可能になる。
今回のジェットの発見で興味深いのは、ビッグバンからわずか14億年後の宇宙背景放射について調べることが可能になったということだ。過去に発見されたもっとも遠いX線ジェットはビッグバンの30億年後に相当するものであったが、さらにさかのぼって背景放射を調べることができるようになったということになる。これは、背景放射の強度が時間とともにどのように変化していったのかを調べることにもつながる。今後の研究成果の発展が楽しみだ。
【2003年12月】
チャンドラが捉えた宇宙のイルミネーション
NASAのX線観測衛星チャンドラが、巨星の崩壊後に作られた輝くシェル構造を捉えた。この天体は、大マゼラン雲の中にある超新星残骸、N36Aだ。
▲超新星残骸N36A。チャンドラによるX線画像(青)と可視光(緑)、電波(赤)で捉えた画像とを合成(提供:X線:NASA/CXC/Rutgers/J.Warren et al、可視光:NASA/STScl/U. Ill/Y.Chu、電波:ATCA/U. Ill/J.Dickel et al.)
X線は、超新星爆発の際におきた衝撃波で物質が摂氏1000万度程度に熱せられ、放射されている。この超新星残骸の年齢は、2000から5000歳ほどの範囲と考えられている。
中心に見える三角形の部分は、X線では穴のように何も見えないが、可視光や電波での観測では明るく見える。この部分では、地球に一番近い側にある低温高密度のガスやちりによってX線が吸収されているためにX線が見えなくなっており、いわばX線の盲点となっている。X線で捉えた像と可視光や電波による像を比較してみると、衝撃波が巨大なガス雲を飲みこんで(巻きこんで)いることが考えられる。このような衝撃波とガス雲との衝突により、新しい星形成活動が始まるのである。
また、X線によって捉えられた青いもやもやとした部分は、爆発の際に高速で吹き飛ばされたかけらではないかと考えられている。このような特徴は、他の超新星残骸では、唯一「ほ座」の超新星残骸でしか見られないものだ。別の可能性としては、爆発の場所から数光年離れた場所にあった小質量のガス雲が衝撃波によって吹き飛ばされたものということも考えられる。
【2003年12月】
チャンドラ、もっとも遠いX線ジェットを発見
NASAのX線観測衛星チャンドラによって、これまででもっとも遠い120億光年かなたのX線ジェットが発見された。このジェットから、ビッグバンからわずか14億年後の宇宙背景放射について調べることが可能になるので、初期宇宙に関して興味深い情報を与えてくれそうだ。
チャンドラX線望遠鏡は、もともとはクエーサーと地球の間にあるダストからのX線放射についてデータを集めるため、りゅう座のクエーサーGB1508+5714を観測した。当時はGB1508+5714からはジェットや複雑な構造を示すものは何も得られていなかったが、その後一般に公開されたデータをあらためて見直したところ、クエーサーの中心にある超巨大ブラックホールから10万光年以上にわたりジェットが伸びていることが明らかになったのである。
▲クエーサーGB1508+5714からのジェット(左上)と、X線源周辺のようすの想像イラスト(提供:NASA/CXC/A.Siemiginowska et al.; イラスト:CXC/M.Weiss)
ジェットを構成する電子が高速で動きながら宇宙背景放射の光子にぶつかると、光子のエネルギーが増幅されてX線の波長になる。これが、今回チャンドラが発見したようなX線源となるのだ。X線のエネルギーは電子や背景放射の光子の強度に依存するので、そこから背景放射について調べることが可能になる。
今回のジェットの発見で興味深いのは、ビッグバンからわずか14億年後の宇宙背景放射について調べることが可能になったということだ。過去に発見されたもっとも遠いX線ジェットはビッグバンの30億年後に相当するものであったが、さらにさかのぼって背景放射を調べることができるようになったということになる。これは、背景放射の強度が時間とともにどのように変化していったのかを調べることにもつながる。今後の研究成果の発展が楽しみだ。
【2003年12月】
チャンドラが捉えた宇宙のイルミネーション
NASAのX線観測衛星チャンドラが、巨星の崩壊後に作られた輝くシェル構造を捉えた。この天体は、大マゼラン雲の中にある超新星残骸、N36Aだ。
▲超新星残骸N36A。チャンドラによるX線画像(青)と可視光(緑)、電波(赤)で捉えた画像とを合成(提供:X線:NASA/CXC/Rutgers/J.Warren et al、可視光:NASA/STScl/U. Ill/Y.Chu、電波:ATCA/U. Ill/J.Dickel et al.)
X線は、超新星爆発の際におきた衝撃波で物質が摂氏1000万度程度に熱せられ、放射されている。この超新星残骸の年齢は、2000から5000歳ほどの範囲と考えられている。
中心に見える三角形の部分は、X線では穴のように何も見えないが、可視光や電波での観測では明るく見える。この部分では、地球に一番近い側にある低温高密度のガスやちりによってX線が吸収されているためにX線が見えなくなっており、いわばX線の盲点となっている。X線で捉えた像と可視光や電波による像を比較してみると、衝撃波が巨大なガス雲を飲みこんで(巻きこんで)いることが考えられる。このような衝撃波とガス雲との衝突により、新しい星形成活動が始まるのである。
また、X線によって捉えられた青いもやもやとした部分は、爆発の際に高速で吹き飛ばされたかけらではないかと考えられている。このような特徴は、他の超新星残骸では、唯一「ほ座」の超新星残骸でしか見られないものだ。別の可能性としては、爆発の場所から数光年離れた場所にあった小質量のガス雲が衝撃波によって吹き飛ばされたものということも考えられる。