2016年 08月 16日
【チャンドラX線観測衛星】 観測成果 第4部
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編集中
チャンドラX線観測衛星(Chandra X-ray Observatory)は、
1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。

「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。

その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第4部
【2004年1月】
NASAのX線望遠鏡チャンドラ、衝突銀河に「宇宙の鉱脈」を発見
NASAのX線望遠鏡チャンドラが、6000万光年離れた衝突銀河「アンテナ銀河」で、大量のネオン、マグネシウム、ケイ素などの元素を発見した。これらの物質はやがて、たくさんの恒星や惑星系を生む可能性がある。

▲チャンドラによるアンテナ銀河。上:ループ状に銀河の南の部分から広がるガスや数百万度のガスの広がりが見える。明るい点は中性子星やブラックホール。青、赤、緑はそれぞれX線の強度(強中弱)を表している。下:中心部の拡大画像。ガスの広がりや元素の分布を示している(提供:NASA/CXC/SAO/G. Fabbiano et al.)
銀河同士の衝突によってガスが圧縮されると、星の形成が加速される。そのようにしてできた星のうち寿命の短い大質量星は、数百万年のうちに、われわれの銀河系の30倍という早い割合で次々と超新星爆発を起こす。すると、それらの星の内部で作られていた重元素が数千光年にもわたって撒き散らされる。さらに、超新星爆発によって、周囲のガスは摂氏数百万度に加熱される。
こうした重元素を含む高温のガスは光学望遠鏡では見えないが、X線でなら観測することが可能だ。チャンドラは初めて、アンテナ銀河の詳しいデータを提供してくれた。たとえば、たった一つのガス雲のなかに、太陽の16から24倍ものマグネシウムやケイ素が含まれていることがわかったのだ。
これらの物質は、生命を育む惑星の形成になくてはならない構成要素であり、宇宙のいろいろなところで見られるが、なんといっても銀河の衝突によってもたらされるその量は群を抜いている。また、重元素が豊富な場合には惑星系が形成されやすくなるということが、いくつかの研究によって示されている。アンテナ銀河で将来ひじょうに多くの惑星が作られるかもしれない。
より多くの惑星が存在すれば、それだけ生命体誕生の可能性も高くなると言えるだろう。
このような銀河の衝突現象は、われわれの銀河系の将来そのものを見せれくれている。
われわれの銀河系も、30億年以内にはお隣のアンドロメダ大銀河と衝突すると考えられている。衝突した銀河は破壊され、数百万もの太陽のような若い星を持つ新たな巨大楕円銀河が作られると考えられている。惑星系や生命体も、ひょっとすると誕生するかもしれない。
【2004年1月】
銀河団に飲み込まれる銀河からのびる、長さ20万光年のガスの尾
NASAのハッブル望遠鏡やチャンドラX線望遠鏡など複数の望遠鏡による観測で、高速で銀河団の中心に突入しながら20万光年もの長い尾を引いている銀河のようすが捉えられた。

▲銀河団Abell 2125と銀河C153。クリックで拡大(右の画像:左上:ハッブル宇宙望遠鏡による可視光像、左下:VLA(超大型電波干渉計)による電波像、右上:チャンドラX線望遠鏡によるX線像、右下:キットピーク国立天文台4m望遠鏡による酸素輝線の像、左の画像:右の4つの画像を合成したもの)(提供:NASA、W. Keel (U Alabama)、F Owen (NRAO)、M. Ledlow (Gemini Obs.) and D. Wang (U mass.))
この銀河C153は、おおぐま座とりゅう座の境界付近にある銀河団Abell 2125中にあり、地球からは約30億光年離れている。C153は以前はわれわれの銀河系と同じような銀河だったが、銀河団の中心に時速700万キロメートルという猛烈なスピードで突入し、ばらばらにされながら飲み込まれている状態にある。その結果として、20万光年もの長いガスの尾がのびているというわけだ。銀河の腕の部分からは新しい星を作る材料となる水素がはがされ、銀河はすっかりやせ衰えてしまっている。また、銀河団のガスの温度は摂氏2000万度、ガスの尾の温度は摂氏1000万度と、速度も温度も想像を絶するような世界になっている。
このような銀河団と銀河の相互作用現象は、活発な宇宙において渦巻き銀河に何が起こっているのかを探る重要なヒントを与えてくれる。初期宇宙では、渦巻き銀河が銀河団の中に数多く存在していたのだが、長い時間を経ているうちに、それらはまるで消えてなくなってしまっているように見える。銀河団の中にあった渦巻き銀河は一体どこへいってしまったのか、はっきりした答はいまだ疑問のままだ。
C153と同じように銀河団に飲み込まれる銀河は今までにも観測されているのだが、過去の発見例と比較したC153の特徴は、とても激しく早いぺースで銀河の崩壊が進んでいる点や、電波源としてもきわだった存在であるという点だ。今後進化が進むと、このC153は渦巻きの部分を失い、中心のバルジと円盤部分を持ったS0型銀河(ちりや若い星を含まずバルジと円盤部からなる銀河、レンズ状銀河)と姿を変えていくと考えられている。
【2004年2月】
巨大ブラックホールによって星が引き裂かれ飲み込まれる現場を初めて発見
NASAのX線観測衛星チャンドラとESA(ヨーロッパ宇宙機関)のX線衛星XMM-ニュートンによる観測で、巨大ブラックホールの重力によって引き裂かれ一部飲み込まれつつある星の壮絶な崩壊現場が捉えられた。理論上の予測や他の観測によって示唆されていただけの現象が、現実に初めて捉えられたものだ。

▲RX J1242-11の中心にあるブラックホール周辺の想像図と実際の画像。上:発見された現象のイメージ図、左下:チャンドラX線望遠鏡による画像、右下:ヨーロッパ南天天文台による可視光画像(提供:(イラスト)NASA/CXC/M.Weiss、(X線)NASA/CXC/MPE/S.Komossa et al.、(可視光) ESO/MPE/S.Komossa)
画像(上)は、今回発見された現象をイメージしたもので、地球から7億光年離れたおとめ座の方向にある銀河RX J1242-11の中心に存在する超巨大ブラックホール周辺のようすをあらわしている。ブラックホールの周辺で2つの星が出会い、そのうちの1つがブラックホールに近い位置に追いやられたことで、この星の物質が巨大ブラックホールの重力によって引き裂かれ伸び、一部が吸収されているところだ。実際に飲み込まれているのは星の質量のうちほんの数パーセントで、それ以外の物質は周辺に広がっている。
また、X線望遠鏡「ROSAT」が以前撮った画像と組み合わせることで、RX J1242-11の中心部で起きている現象は今までに検出された銀河におけるX線アウトバースト(突発増光)の中でもっとも激しいものの1つであることもわかった。X線アウトバーストが観測されるのは、ブラックホールによって崩壊しつつある星のガスの温度が摂氏何億度にも上昇しているためで、その膨大なエネルギーは超新星レベルに匹敵する。
潮汐力による星の崩壊という奇妙な現象の発生確率は、1つの銀河内で1年間に1万分の1と極めて低いため、これまで実際に検出されたことはなかった。しかし、すでに専門家はたくさんの銀河についてのデータを集めているため、今後も同様の現象が発見される確率は想像以上に高いかもしれない。もし、われわれの天の川銀河系の中心でこの現象が起きると、現在銀河系内で発見されている一番明るいX線源の5万倍も明るいX線アウトバーストが見られるとのことだ。
今回の発見によって、ブラックホールの成長やそれを取り巻く星とガスへの影響に関する研究が進むことは間違いない。また、チャンドラX線望遠鏡とXMM-ニュートンX線衛星によって次々と潮汐力による星の崩壊が観測されれば、ブラックホール周辺で何が起こっているのかをわれわれが知る日もそう遠くはない
【2004年3月】
チャンドラX線望遠鏡、超新星残骸N49Bに大量のマグネシウムを発見
NASAのX線観測衛星チャンドラが捉えた、大マゼラン雲にある超新星残骸N49Bの画像が公開された。1万年もの間広がり続けている数百万度のガス雲のようすなどが写し出されている。

▲超新星残骸N49B(提供:NASA/CXC/Penn State/S.Park et al.)
画像は特別な処理が施されたもので、ここには予期されていなかった大量のマグネシウム(青緑色)が捉えられている。マグネシウムは、星の内部で作られ、超新星爆発の際に放出されるものだ。通常、マグネシウムは酸素と一緒に存在しているが、大量のマグネシウムが検出されているにもかかわらず大量の酸素が検出されない理由についてはわかっていない。
また、マグネシウムの量が太陽質量に相当することもわかっている。われわれの太陽に含まれるマグネシウムは、太陽の全質量に対してたった0.1%にすぎない。したがって、N49Bのマグネシウムの総量は、太陽(さらには、その他の惑星)に通常含まれる量の約一千倍ということになる。
マグネシウムは、地球の地殻には8番目に多い物質で、われわれの細胞になくてはならないミネラル分だ。筋肉や神経機能、心臓の働き、骨の健康など、われわれの体に大きくかかわっている。つまり、超新星爆発はわれわれの存在になくてはならい現象なのである。
【2004年4月】
チャンドラX線観測衛星が捉えた、
「かに星雲」のX線を利用したタイタンの影
NASAのチャンドラX線観測衛星によって、土星最大の衛星タイタンが、まぶしくX線を放つかに星雲を横切るというめずらしい現象が捉えられた。この観測からタイタンの大気に関する情報も得られたが、その結果次第では、今年7月に土星に到着を予定している土星探査機カッシーニの経路を変更する可能性もあり得るという。
かに星雲は、おうし座にある超新星残骸で、1054年に超新星爆発を起こした名残だ。土星や衛星タイタンとかに星雲は30年に一度の割合で接近するが、直接横切るのはひじょうにめずらしい現象で、おそらくかに星雲の誕生以来初めてのことだろうと考えられている。2003年1月5日に観測されたこの現象が次に起こるのは、2267年だ。

▲(左下)タイタンの影、(右)かに星雲中心部のリング構造。黄色い横線がタイタンの通過経路。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Penn State/K. Mori et al.)

▲観測のようすの説明。かに星雲からのX線を観測し、タイタンの部分が影となって捉えられた(提供:CXC/M.Weiss)
このめずらしい現象を利用して、チャンドラX線観測衛星がタイタンの大気をX線で観測した。いわば、かに星雲の放つX線によるタイタンのレントゲン撮影といったところだ。星雲の放つX線を遮ってできたタイタンの影の大きさは、タイタンの地表の大きさよりも880kmほど大きかった。つまり、この部分がタイタンの大気の厚みに相当することになる。
今回の観測では、1980年の惑星探査機ボイジャー1号による大気の観測に比べ、大気が10%から15%程度広がっていることがわかった。原因の1つは、1980年から2003年の間で土星が太陽に5%ほど接近したことに伴ってタイタンの大気が加熱された影響だと考えられている。実際に大気が以前に比べ広がっている場合、今年7月に土星に到着を予定している土星探査機カッシーニの経路の変更もあり得るということだ。
【2004年5月】
チャンドラX線衛星が明かす、銀河の激しい過去と中心に潜む巨大ブラックホール
NASAのチャンドラX線衛星が、5000万光年離れたおとめ座にある巨大な楕円銀河M87を観測した画像が公開された。数百万度という高温の環境で作られた空洞のような構造、輝くX線のアーク(弧)に取り囲まれる中心のジェットが捉えられている。


▲(上)X線によるM87の中心領域の画像、(下)中心部の拡大画像。ジェットが見られる(提供:NASA/CXC/W. Forman et al.)
M87の中心から5万光年ほど離れた領域には、かすかなリングとリングを越えて伸びる二つの柱のような構造が見られる。これらの特徴からは、中心にある巨大ブラックホールが数百万年にもわたって何度もアウトバースト(突発的な爆発)を起こし、銀河全体に影響を及ぼし続けてきたことがが示唆される。
また、拡大された画像には、高エネルギー粒子のジェットが見られる。このジェットは、磁気を帯びたガスが中心のブラックホールに向かって回転しながら落ち込んでいく時にできるもので、そのうちもっとも最近のものを見ている可能性が高い。
さらに、半径4万5000光年と5万5000光年の2つのリングが外側の領域に存在することもわかった。これらのリングは、おそらく1000万年から1400万年前の爆発によってできたものだろう。左上から右下にカーブを描いているX線の柱状構造も、過去のアウトバーストで銀河中心から運ばれたガスと考えられている。
このようなX線の特徴は、他の銀河団の中心に位置する銀河にも見られている。大銀河の中心にある超巨大ブラックホールのアウトバーストは、意外にありふれた現象として、巨大な銀河と中心ブラックホールの成長速度に影響を及ぼしているのかもしれない。
【2004年6月】
気になる宇宙の将来:
ビッグリップもビッグクランチも起こらない!?
NASAのチャンドラX線衛星の銀河団に関するデータを利用することで、宇宙膨張の減速、加速の変遷が数十億年の単位で明らかにされた。これによって、暗黒エネルギーがアインシュタインの提唱した「宇宙定数」と同じ働きをし、宇宙は永久に膨張を続けるというシナリオが示された。


▲(上)銀河団Abell 2029(可視光、X線による画像を合成したもの)、(下)銀河団中に捉えられた銀河間ガス(赤く写っている部分)(提供:(上)可視光画像:National Optical Astronomy Observatory/Kitt Peak, X線画像:NASA/Chandra X-ray Center/IoA、(下)NASA/Chandra X-ray Center)
専門家のグループは、チャンドラX線衛星を使い、10億から80億光年の距離にある銀河団26個について調べ上げた。そのデータから銀河団の中にある熱いガスと暗黒物質の比率が決定され、時間の経過と共に宇宙がどのような変化をしてきたかが示されたのだ。そして、当初減速膨張していた宇宙が、のちの60億年間には加速膨張してきたことがわかった。この年代は、ちょうど宇宙が初期の膨張から次の加速膨張に入る前、暗黒エネルギーによる反発力によって一時的に膨張のスピードを落としていた時期に相当する。
銀河団までの距離を測ることは、加速膨張する宇宙の広がりを直接観測していることになる。今回の観測結果から、暗黒エネルギーは急激な変化を見せることなくほぼ一定を保っており、アインシュタインの提唱した「宇宙定数」のような役割をしていることが示されたのだ。今回の結果が真に正しいものならば、宇宙は永久に膨張を続けていくこととなり、数十億年後この宇宙で観測できるものは、ほんの数個の銀河をのぞいては、何も見えなくなるという。
われわれの興味をひく宇宙の将来についてのシナリオは、現在二つある。一つは、暗黒エネルギーが増加の一途をたどり、いずれ宇宙のすべての物理構造がひきちぎられ、ばらばらとなるというものだ。これは「ビッグリップ」と呼ばれるシナリオである。もう一つの「ビッグクランチ」のシナリオでは、宇宙は自身の重力によって収縮し、すべての物質と時空がつぶれて、無次元の特異点に収束してしまう。しかし、今回の研究結果が示すように暗黒エネルギーが一定であれば、宇宙の将来は、意外にも、劇的な変化は起こらずに静的なものになるということだ。
NASAのマイクロ波観測衛星WMAPと今回のチャンドラX線衛星によるデータを合わせた結果によれば、暗黒エネルギーの量は75%、暗黒物質は21%で、残る4%が、われわれの目に見える物だという。専門家は、現時点での計測結果については、まだ不確実性が残っている可能性があることを強調している。また、チャンドラX線衛星のデータからは、今後暗黒エネルギーが増加する可能性もあり得るということだ。今後のハッブル宇宙望遠鏡やマイクロ波観測衛星WMAP、さらにはConstellation-X計画などによる、より正確な観測が望まれる。一体、われわれの宇宙の将来はどうなるのか、続く観測や研究結果を待ちたいところだ。
【2004年6月】
中間質量ブラックホールのX線によって輝く星雲が初めて発見された
不規則矮小銀河に存在する100光年サイズの星雲が、中間質量ブラックホールのX線によってエネルギーを得ていることが発見された。太陽の25倍以上の質量を持つこのブラックホールは、宇宙で最初に生まれた星の残骸ではないかと考えられている。ブラックホールからのX線によって照らされる星雲が発見されたのは大マゼラン雲のLMC X-1以来わずか2例目で、中間質量ブラックホールによるものが発見されたのは初めてのことだ。

▲中間質量ブラックホールの想像図。100光年サイズの星雲が中間質量ブラックホールのX線によってエネルギーを得ている(提供:David A. Aguilar, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)
今回の発見の発端は、われわれから1000万光年離れた不規則矮小銀河Holmberg IIに強力なX線源が発見されたことだ。続いて、NASAのハッブル宇宙望遠鏡やチャンドラX線観測衛星、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のXMM-Newton X線観測衛星などによって、星雲の中心に位置するX線源がピンポイントで観測された。その結果、中心に潜む謎の天体が、太陽が放つ全放射の100万倍に相当するまぶしいX線を放っていることがわかったのだ。
さらに、このX線のエネルギー源が、伴星である若い大質量星の質量を急速に吸収するブラックホールだということもわかった。若い大質量星からは約4年で地球1個分に相当する質量がブラックホールに吸収されており、100光年サイズの星雲の領域をイオン化させ輝かせるのに充分なエネルギーが生み出されている。
また、X線があらゆる方向に放射されていることから、このブラックホールの質量はわれわれの銀河系に見られる恒星質量ブラックホールよりも大きく、太陽の25倍以上、おそらくは40倍以上と考えられている。この質量は、中間質量ブラックホールにあたる。中間質量ブラックホールについては観測のサンプルが少なく、その形成については謎が多い。新しい観測、分析対象が発見された意味はひじょうに大きいと言えるだろう。
【2004年6月】
美しく輝く宇宙の樽 W49B
NASAのチャンドラX線衛星とパロマ山天文台の200インチ望遠鏡によって、超新星残骸W49Bの樽のような姿が捉えられた。観測から得られたデータから、W49Bが天の川銀河内で見つかった初のガンマ線バースト残骸と考えられると同時に、ブラックホールへと姿を変える崩壊星(コラプサー)の有力な候補であることが示された。

▲チャンドラが捉えた超新星残骸W49B。疑似カラーの青はX線の観測、赤と緑は赤外線の観測(提供:X線:NASA/CXC/SSC/J. Keohane et al.、赤外線:Caltech/Palomar/J.Keohane et al.)
W49Bは、われわれから3万5000光年離れたわし座にある。画像には、赤外線で輝くリングや、鉄やニッケルを含む摂氏1500万度のガスから放射されるX線のバーなどが写し出されている。このほか、大質量星の爆発によって作られる両極に伸びるジェットの存在や、そのジェットが鉄を多く含んでいることも明らかになった。これらのことから、W49Bが天の川銀河に見られる初のガンマ線バースト残骸で、やがてブラックホールへと姿を変える崩壊星の有力な候補であることが示されたのだ。
崩壊星に関する理論によれば、ガンマ線バーストは、大質量星の核燃料が尽きて星が爆発して起こり、その際に高速で回転する高温ガスの円盤を持ったブラックホールを作ると考えられている。そして、ほとんどのガスはブラックホールに飲み込まれ、残り一部のガスがジェットとして両極から光速に近いスピードで放出される。
これまでに発見されているもっとも近いガンマ線バーストまでの距離は数百万光年であるため、天の川銀河内でこの現象が発見された意味は大きい。今回の観測は、崩壊星とガンマ線バーストに関して専門家が抱えてきた問題を解決する一助となりそうだ。
チャンドラX線観測衛星(Chandra X-ray Observatory)は、
1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。

「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。

その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第4部
【2004年1月】
NASAのX線望遠鏡チャンドラ、衝突銀河に「宇宙の鉱脈」を発見
NASAのX線望遠鏡チャンドラが、6000万光年離れた衝突銀河「アンテナ銀河」で、大量のネオン、マグネシウム、ケイ素などの元素を発見した。これらの物質はやがて、たくさんの恒星や惑星系を生む可能性がある。

▲チャンドラによるアンテナ銀河。上:ループ状に銀河の南の部分から広がるガスや数百万度のガスの広がりが見える。明るい点は中性子星やブラックホール。青、赤、緑はそれぞれX線の強度(強中弱)を表している。下:中心部の拡大画像。ガスの広がりや元素の分布を示している(提供:NASA/CXC/SAO/G. Fabbiano et al.)
銀河同士の衝突によってガスが圧縮されると、星の形成が加速される。そのようにしてできた星のうち寿命の短い大質量星は、数百万年のうちに、われわれの銀河系の30倍という早い割合で次々と超新星爆発を起こす。すると、それらの星の内部で作られていた重元素が数千光年にもわたって撒き散らされる。さらに、超新星爆発によって、周囲のガスは摂氏数百万度に加熱される。
こうした重元素を含む高温のガスは光学望遠鏡では見えないが、X線でなら観測することが可能だ。チャンドラは初めて、アンテナ銀河の詳しいデータを提供してくれた。たとえば、たった一つのガス雲のなかに、太陽の16から24倍ものマグネシウムやケイ素が含まれていることがわかったのだ。
これらの物質は、生命を育む惑星の形成になくてはならない構成要素であり、宇宙のいろいろなところで見られるが、なんといっても銀河の衝突によってもたらされるその量は群を抜いている。また、重元素が豊富な場合には惑星系が形成されやすくなるということが、いくつかの研究によって示されている。アンテナ銀河で将来ひじょうに多くの惑星が作られるかもしれない。
より多くの惑星が存在すれば、それだけ生命体誕生の可能性も高くなると言えるだろう。
このような銀河の衝突現象は、われわれの銀河系の将来そのものを見せれくれている。
われわれの銀河系も、30億年以内にはお隣のアンドロメダ大銀河と衝突すると考えられている。衝突した銀河は破壊され、数百万もの太陽のような若い星を持つ新たな巨大楕円銀河が作られると考えられている。惑星系や生命体も、ひょっとすると誕生するかもしれない。
【2004年1月】
銀河団に飲み込まれる銀河からのびる、長さ20万光年のガスの尾
NASAのハッブル望遠鏡やチャンドラX線望遠鏡など複数の望遠鏡による観測で、高速で銀河団の中心に突入しながら20万光年もの長い尾を引いている銀河のようすが捉えられた。

▲銀河団Abell 2125と銀河C153。クリックで拡大(右の画像:左上:ハッブル宇宙望遠鏡による可視光像、左下:VLA(超大型電波干渉計)による電波像、右上:チャンドラX線望遠鏡によるX線像、右下:キットピーク国立天文台4m望遠鏡による酸素輝線の像、左の画像:右の4つの画像を合成したもの)(提供:NASA、W. Keel (U Alabama)、F Owen (NRAO)、M. Ledlow (Gemini Obs.) and D. Wang (U mass.))
この銀河C153は、おおぐま座とりゅう座の境界付近にある銀河団Abell 2125中にあり、地球からは約30億光年離れている。C153は以前はわれわれの銀河系と同じような銀河だったが、銀河団の中心に時速700万キロメートルという猛烈なスピードで突入し、ばらばらにされながら飲み込まれている状態にある。その結果として、20万光年もの長いガスの尾がのびているというわけだ。銀河の腕の部分からは新しい星を作る材料となる水素がはがされ、銀河はすっかりやせ衰えてしまっている。また、銀河団のガスの温度は摂氏2000万度、ガスの尾の温度は摂氏1000万度と、速度も温度も想像を絶するような世界になっている。
このような銀河団と銀河の相互作用現象は、活発な宇宙において渦巻き銀河に何が起こっているのかを探る重要なヒントを与えてくれる。初期宇宙では、渦巻き銀河が銀河団の中に数多く存在していたのだが、長い時間を経ているうちに、それらはまるで消えてなくなってしまっているように見える。銀河団の中にあった渦巻き銀河は一体どこへいってしまったのか、はっきりした答はいまだ疑問のままだ。
C153と同じように銀河団に飲み込まれる銀河は今までにも観測されているのだが、過去の発見例と比較したC153の特徴は、とても激しく早いぺースで銀河の崩壊が進んでいる点や、電波源としてもきわだった存在であるという点だ。今後進化が進むと、このC153は渦巻きの部分を失い、中心のバルジと円盤部分を持ったS0型銀河(ちりや若い星を含まずバルジと円盤部からなる銀河、レンズ状銀河)と姿を変えていくと考えられている。
【2004年2月】
巨大ブラックホールによって星が引き裂かれ飲み込まれる現場を初めて発見
NASAのX線観測衛星チャンドラとESA(ヨーロッパ宇宙機関)のX線衛星XMM-ニュートンによる観測で、巨大ブラックホールの重力によって引き裂かれ一部飲み込まれつつある星の壮絶な崩壊現場が捉えられた。理論上の予測や他の観測によって示唆されていただけの現象が、現実に初めて捉えられたものだ。

▲RX J1242-11の中心にあるブラックホール周辺の想像図と実際の画像。上:発見された現象のイメージ図、左下:チャンドラX線望遠鏡による画像、右下:ヨーロッパ南天天文台による可視光画像(提供:(イラスト)NASA/CXC/M.Weiss、(X線)NASA/CXC/MPE/S.Komossa et al.、(可視光) ESO/MPE/S.Komossa)
画像(上)は、今回発見された現象をイメージしたもので、地球から7億光年離れたおとめ座の方向にある銀河RX J1242-11の中心に存在する超巨大ブラックホール周辺のようすをあらわしている。ブラックホールの周辺で2つの星が出会い、そのうちの1つがブラックホールに近い位置に追いやられたことで、この星の物質が巨大ブラックホールの重力によって引き裂かれ伸び、一部が吸収されているところだ。実際に飲み込まれているのは星の質量のうちほんの数パーセントで、それ以外の物質は周辺に広がっている。
また、X線望遠鏡「ROSAT」が以前撮った画像と組み合わせることで、RX J1242-11の中心部で起きている現象は今までに検出された銀河におけるX線アウトバースト(突発増光)の中でもっとも激しいものの1つであることもわかった。X線アウトバーストが観測されるのは、ブラックホールによって崩壊しつつある星のガスの温度が摂氏何億度にも上昇しているためで、その膨大なエネルギーは超新星レベルに匹敵する。
潮汐力による星の崩壊という奇妙な現象の発生確率は、1つの銀河内で1年間に1万分の1と極めて低いため、これまで実際に検出されたことはなかった。しかし、すでに専門家はたくさんの銀河についてのデータを集めているため、今後も同様の現象が発見される確率は想像以上に高いかもしれない。もし、われわれの天の川銀河系の中心でこの現象が起きると、現在銀河系内で発見されている一番明るいX線源の5万倍も明るいX線アウトバーストが見られるとのことだ。
今回の発見によって、ブラックホールの成長やそれを取り巻く星とガスへの影響に関する研究が進むことは間違いない。また、チャンドラX線望遠鏡とXMM-ニュートンX線衛星によって次々と潮汐力による星の崩壊が観測されれば、ブラックホール周辺で何が起こっているのかをわれわれが知る日もそう遠くはない
【2004年3月】
チャンドラX線望遠鏡、超新星残骸N49Bに大量のマグネシウムを発見
NASAのX線観測衛星チャンドラが捉えた、大マゼラン雲にある超新星残骸N49Bの画像が公開された。1万年もの間広がり続けている数百万度のガス雲のようすなどが写し出されている。

▲超新星残骸N49B(提供:NASA/CXC/Penn State/S.Park et al.)
画像は特別な処理が施されたもので、ここには予期されていなかった大量のマグネシウム(青緑色)が捉えられている。マグネシウムは、星の内部で作られ、超新星爆発の際に放出されるものだ。通常、マグネシウムは酸素と一緒に存在しているが、大量のマグネシウムが検出されているにもかかわらず大量の酸素が検出されない理由についてはわかっていない。
また、マグネシウムの量が太陽質量に相当することもわかっている。われわれの太陽に含まれるマグネシウムは、太陽の全質量に対してたった0.1%にすぎない。したがって、N49Bのマグネシウムの総量は、太陽(さらには、その他の惑星)に通常含まれる量の約一千倍ということになる。
マグネシウムは、地球の地殻には8番目に多い物質で、われわれの細胞になくてはならないミネラル分だ。筋肉や神経機能、心臓の働き、骨の健康など、われわれの体に大きくかかわっている。つまり、超新星爆発はわれわれの存在になくてはならい現象なのである。
【2004年4月】
チャンドラX線観測衛星が捉えた、
「かに星雲」のX線を利用したタイタンの影
NASAのチャンドラX線観測衛星によって、土星最大の衛星タイタンが、まぶしくX線を放つかに星雲を横切るというめずらしい現象が捉えられた。この観測からタイタンの大気に関する情報も得られたが、その結果次第では、今年7月に土星に到着を予定している土星探査機カッシーニの経路を変更する可能性もあり得るという。
かに星雲は、おうし座にある超新星残骸で、1054年に超新星爆発を起こした名残だ。土星や衛星タイタンとかに星雲は30年に一度の割合で接近するが、直接横切るのはひじょうにめずらしい現象で、おそらくかに星雲の誕生以来初めてのことだろうと考えられている。2003年1月5日に観測されたこの現象が次に起こるのは、2267年だ。

▲(左下)タイタンの影、(右)かに星雲中心部のリング構造。黄色い横線がタイタンの通過経路。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Penn State/K. Mori et al.)

▲観測のようすの説明。かに星雲からのX線を観測し、タイタンの部分が影となって捉えられた(提供:CXC/M.Weiss)
このめずらしい現象を利用して、チャンドラX線観測衛星がタイタンの大気をX線で観測した。いわば、かに星雲の放つX線によるタイタンのレントゲン撮影といったところだ。星雲の放つX線を遮ってできたタイタンの影の大きさは、タイタンの地表の大きさよりも880kmほど大きかった。つまり、この部分がタイタンの大気の厚みに相当することになる。
今回の観測では、1980年の惑星探査機ボイジャー1号による大気の観測に比べ、大気が10%から15%程度広がっていることがわかった。原因の1つは、1980年から2003年の間で土星が太陽に5%ほど接近したことに伴ってタイタンの大気が加熱された影響だと考えられている。実際に大気が以前に比べ広がっている場合、今年7月に土星に到着を予定している土星探査機カッシーニの経路の変更もあり得るということだ。
【2004年5月】
チャンドラX線衛星が明かす、銀河の激しい過去と中心に潜む巨大ブラックホール
NASAのチャンドラX線衛星が、5000万光年離れたおとめ座にある巨大な楕円銀河M87を観測した画像が公開された。数百万度という高温の環境で作られた空洞のような構造、輝くX線のアーク(弧)に取り囲まれる中心のジェットが捉えられている。


▲(上)X線によるM87の中心領域の画像、(下)中心部の拡大画像。ジェットが見られる(提供:NASA/CXC/W. Forman et al.)
M87の中心から5万光年ほど離れた領域には、かすかなリングとリングを越えて伸びる二つの柱のような構造が見られる。これらの特徴からは、中心にある巨大ブラックホールが数百万年にもわたって何度もアウトバースト(突発的な爆発)を起こし、銀河全体に影響を及ぼし続けてきたことがが示唆される。
また、拡大された画像には、高エネルギー粒子のジェットが見られる。このジェットは、磁気を帯びたガスが中心のブラックホールに向かって回転しながら落ち込んでいく時にできるもので、そのうちもっとも最近のものを見ている可能性が高い。
さらに、半径4万5000光年と5万5000光年の2つのリングが外側の領域に存在することもわかった。これらのリングは、おそらく1000万年から1400万年前の爆発によってできたものだろう。左上から右下にカーブを描いているX線の柱状構造も、過去のアウトバーストで銀河中心から運ばれたガスと考えられている。
このようなX線の特徴は、他の銀河団の中心に位置する銀河にも見られている。大銀河の中心にある超巨大ブラックホールのアウトバーストは、意外にありふれた現象として、巨大な銀河と中心ブラックホールの成長速度に影響を及ぼしているのかもしれない。
【2004年6月】
気になる宇宙の将来:
ビッグリップもビッグクランチも起こらない!?
NASAのチャンドラX線衛星の銀河団に関するデータを利用することで、宇宙膨張の減速、加速の変遷が数十億年の単位で明らかにされた。これによって、暗黒エネルギーがアインシュタインの提唱した「宇宙定数」と同じ働きをし、宇宙は永久に膨張を続けるというシナリオが示された。


▲(上)銀河団Abell 2029(可視光、X線による画像を合成したもの)、(下)銀河団中に捉えられた銀河間ガス(赤く写っている部分)(提供:(上)可視光画像:National Optical Astronomy Observatory/Kitt Peak, X線画像:NASA/Chandra X-ray Center/IoA、(下)NASA/Chandra X-ray Center)
専門家のグループは、チャンドラX線衛星を使い、10億から80億光年の距離にある銀河団26個について調べ上げた。そのデータから銀河団の中にある熱いガスと暗黒物質の比率が決定され、時間の経過と共に宇宙がどのような変化をしてきたかが示されたのだ。そして、当初減速膨張していた宇宙が、のちの60億年間には加速膨張してきたことがわかった。この年代は、ちょうど宇宙が初期の膨張から次の加速膨張に入る前、暗黒エネルギーによる反発力によって一時的に膨張のスピードを落としていた時期に相当する。
銀河団までの距離を測ることは、加速膨張する宇宙の広がりを直接観測していることになる。今回の観測結果から、暗黒エネルギーは急激な変化を見せることなくほぼ一定を保っており、アインシュタインの提唱した「宇宙定数」のような役割をしていることが示されたのだ。今回の結果が真に正しいものならば、宇宙は永久に膨張を続けていくこととなり、数十億年後この宇宙で観測できるものは、ほんの数個の銀河をのぞいては、何も見えなくなるという。
われわれの興味をひく宇宙の将来についてのシナリオは、現在二つある。一つは、暗黒エネルギーが増加の一途をたどり、いずれ宇宙のすべての物理構造がひきちぎられ、ばらばらとなるというものだ。これは「ビッグリップ」と呼ばれるシナリオである。もう一つの「ビッグクランチ」のシナリオでは、宇宙は自身の重力によって収縮し、すべての物質と時空がつぶれて、無次元の特異点に収束してしまう。しかし、今回の研究結果が示すように暗黒エネルギーが一定であれば、宇宙の将来は、意外にも、劇的な変化は起こらずに静的なものになるということだ。
NASAのマイクロ波観測衛星WMAPと今回のチャンドラX線衛星によるデータを合わせた結果によれば、暗黒エネルギーの量は75%、暗黒物質は21%で、残る4%が、われわれの目に見える物だという。専門家は、現時点での計測結果については、まだ不確実性が残っている可能性があることを強調している。また、チャンドラX線衛星のデータからは、今後暗黒エネルギーが増加する可能性もあり得るということだ。今後のハッブル宇宙望遠鏡やマイクロ波観測衛星WMAP、さらにはConstellation-X計画などによる、より正確な観測が望まれる。一体、われわれの宇宙の将来はどうなるのか、続く観測や研究結果を待ちたいところだ。
【2004年6月】
中間質量ブラックホールのX線によって輝く星雲が初めて発見された
不規則矮小銀河に存在する100光年サイズの星雲が、中間質量ブラックホールのX線によってエネルギーを得ていることが発見された。太陽の25倍以上の質量を持つこのブラックホールは、宇宙で最初に生まれた星の残骸ではないかと考えられている。ブラックホールからのX線によって照らされる星雲が発見されたのは大マゼラン雲のLMC X-1以来わずか2例目で、中間質量ブラックホールによるものが発見されたのは初めてのことだ。

▲中間質量ブラックホールの想像図。100光年サイズの星雲が中間質量ブラックホールのX線によってエネルギーを得ている(提供:David A. Aguilar, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)
今回の発見の発端は、われわれから1000万光年離れた不規則矮小銀河Holmberg IIに強力なX線源が発見されたことだ。続いて、NASAのハッブル宇宙望遠鏡やチャンドラX線観測衛星、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のXMM-Newton X線観測衛星などによって、星雲の中心に位置するX線源がピンポイントで観測された。その結果、中心に潜む謎の天体が、太陽が放つ全放射の100万倍に相当するまぶしいX線を放っていることがわかったのだ。
さらに、このX線のエネルギー源が、伴星である若い大質量星の質量を急速に吸収するブラックホールだということもわかった。若い大質量星からは約4年で地球1個分に相当する質量がブラックホールに吸収されており、100光年サイズの星雲の領域をイオン化させ輝かせるのに充分なエネルギーが生み出されている。
また、X線があらゆる方向に放射されていることから、このブラックホールの質量はわれわれの銀河系に見られる恒星質量ブラックホールよりも大きく、太陽の25倍以上、おそらくは40倍以上と考えられている。この質量は、中間質量ブラックホールにあたる。中間質量ブラックホールについては観測のサンプルが少なく、その形成については謎が多い。新しい観測、分析対象が発見された意味はひじょうに大きいと言えるだろう。
【2004年6月】
美しく輝く宇宙の樽 W49B
NASAのチャンドラX線衛星とパロマ山天文台の200インチ望遠鏡によって、超新星残骸W49Bの樽のような姿が捉えられた。観測から得られたデータから、W49Bが天の川銀河内で見つかった初のガンマ線バースト残骸と考えられると同時に、ブラックホールへと姿を変える崩壊星(コラプサー)の有力な候補であることが示された。

▲チャンドラが捉えた超新星残骸W49B。疑似カラーの青はX線の観測、赤と緑は赤外線の観測(提供:X線:NASA/CXC/SSC/J. Keohane et al.、赤外線:Caltech/Palomar/J.Keohane et al.)
W49Bは、われわれから3万5000光年離れたわし座にある。画像には、赤外線で輝くリングや、鉄やニッケルを含む摂氏1500万度のガスから放射されるX線のバーなどが写し出されている。このほか、大質量星の爆発によって作られる両極に伸びるジェットの存在や、そのジェットが鉄を多く含んでいることも明らかになった。これらのことから、W49Bが天の川銀河に見られる初のガンマ線バースト残骸で、やがてブラックホールへと姿を変える崩壊星の有力な候補であることが示されたのだ。
崩壊星に関する理論によれば、ガンマ線バーストは、大質量星の核燃料が尽きて星が爆発して起こり、その際に高速で回転する高温ガスの円盤を持ったブラックホールを作ると考えられている。そして、ほとんどのガスはブラックホールに飲み込まれ、残り一部のガスがジェットとして両極から光速に近いスピードで放出される。
これまでに発見されているもっとも近いガンマ線バーストまでの距離は数百万光年であるため、天の川銀河内でこの現象が発見された意味は大きい。今回の観測は、崩壊星とガンマ線バーストに関して専門家が抱えてきた問題を解決する一助となりそうだ。
by yascovicci
| 2016-08-16 06:56
| ★☆★宇宙の研究












