2016年 08月 17日
【チャンドラX線観測衛星】 観測成果 第7部
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チャンドラX線観測衛星(Chandra X-ray Observatory)は、
1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。

「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。

その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第7部
【2007年10月】
最大の恒星質量ブラックホールが観測された
銀河M33の近くに存在する巨大な星とブラックホールの連星系の観測で、ブラックホールの質量が太陽の約16倍であることが明らかとなった。恒星質量ブラックホールとしては、これまでに見つかっているもののうちで最大の質量だ。

▲M33 X-7の想像図(右下)と、M33 X-7をとらえた可視光とX線の合成画像。クリックで拡大(提供:(イラスト)NASA/CXC/M.Weiss、X線画像)NASA/CXC/CfA/P.Plucinsky et al.; Optical: NASA/STScI/SDSU/J.Orosz et al.)
さんかく座の方向300万光年の距離にある銀河M33の近くには、ブラックホールと巨大な星から成る連星系M33 X-7が存在している。
NASAのX線観測衛星チャンドラと米国ハワイにあるジェミニ望遠鏡によるこの連星の観測から、ブラックホールの質量が太陽の約16倍あり、伴星の質量が太陽の約70倍であることが明らかとなった。
ブラックホールには、大きく分けて3つのグループがある。1つ目は、太陽数個分の質量を持つ「恒星質量ブラックホール」と呼ばれるグループで、太陽3個分以上の質量をもつ恒星が進化の最期に見せる姿と考えられている。2つ目は、太陽の1000個程度の質量を持つ「中間質量ブラックホール」と呼ばれるグループ。その形成メカニズムは、大質量星の暴走的な合体ではないかと考えられている。3つ目は、ほとんどの銀河の中心核に存在し、太陽の100万倍から数十億倍の質量を持つ「大質量ブラックホール」と呼ばれるグループだ。
連星系M33 X-7に存在するブラックホールは恒星質量ブラックホールの1つで、太陽の約16倍という質量は、今までに観測された恒星質量ブラックホールのなかでは最大だ。
【2007年11月】
スピッツァーとチャンドラ、
遠方宇宙に超巨大なブラックホールを数百個発見
NASAの赤外線天文衛星スピッツァーとX線天文衛星チャンドラによる観測で、90億光年から110億光年の距離に、超巨大なブラックホールが数百個発見された。

▲発見されたブラックホール。青い丸で囲まれているのが新たに発見されたブラックホール。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/T. Pyle (SSC))
活動的な銀河の中心核であり、超巨大なブラックホールが潜む「クエーサー」の多くは、数十年もの間、一体宇宙のどこに存在しているのか、観測による直接的な証拠が得られることはなかった。

▲爆発的に形成される星とブラックホールの想像図(提供:NASA/JPL-Caltech/E. Daddi (CEA Saclay))
初めてその証拠を得たと発表したのは、フランス原子力エネルギー庁(CEA)のEmanuel Daddi氏が率いた研究チームだ。同チームでは、宇宙の年齢が25億歳から45億歳だったころ、つまり90億光年から110億光年の距離に存在する1000個の銀河を観測し、そのうち、約200個の銀河の中心にブラックホールが存在していることを明らかにした。
アメリカ国立光学天文台(NOAO)のMark Dickinson氏は、「初期の宇宙では、いたるところにブラックホールが存在していたのです。今までに発見されてきたブラックホールは氷山の一角で、われわれが発見したブラックホールこそ、氷山そのものなのです」と話している。
研究チームが観測のターゲットとした1000個の銀河は、いずれも星を形成中の不規則銀河で、質量は天の川銀河ほど、その中心にクエーサーは存在しないと考えられていた。
しかし、スピッツァーを使った赤外線観測で、そのうちの約200個から通常と異なる量の赤外線放射が見つかった。赤外線は、クエーサー周辺を取り巻いている円盤型の雲に存在するちりがクエーサーによって温められたことによるものだと考えられている。さらにチャンドラによるX線観測で得られた画像を重ね合わせることにより、遠方にある銀河が放つかすかな放射が強調され、クエーサーが放つ強力なX線が明らかとなった。
新たに発見されたクエーサーは、巨大な銀河がどのように進化するのかという、根本的な問題に関する貴重な情報を提供している。
英国ダラム大学のDavid Alexander氏は「クエーサーが活動を開始するために、銀河同士の合体が必要だと考える研究者もいますが、他からの影響を受けていない銀河でも、クエーサーがじゅうぶんに活動しているようすが観測されたのです」と話している。
また今回の発見について、フランス原子力エネルギー庁(CEA)のDavid Elbaz氏は超巨大なブラックホールを動物の象にたとえて、「以前は目隠しで象を研究していたようなものです。われわれは今初めて、象という動物を目にしているのです」と話している。
【2007年12月】
チャンドラが明かした宇宙のキャノンボール
NASAのX線天文衛星チャンドラによる観測で、超新星残骸「とも座A」の中性子星「RX J0822-4300」が、宇宙でもっとも高速の天体の1つといえるほどの速度で移動していることが明らかとなった。

▲X線と可視光による超新星残骸「とも座A」の合成画像、(右下)中性子星「RX J0822-4300」の画像(1999年と2005年の観測結果を合わせたもの)。クリックで拡大(提供:(チャンドラによるX線データ)NASA/CXC/Middlebury College/F.Winkler et al;(ローサットX線観測衛星によるX線データ)NASA/GSFC/S.Snowden et al.;(可視光)NOAO/AURA/NSF/Middlebury College/F.Winkler)
とも座Aは、約3700年前に大質量星が起こした爆発の残骸と考えられている。とも座Aには爆発で作られた中性子星のRX J0822-4300が存在している。中性子星とは、太陽の質量の8~30倍の星が超新星爆発を起こしたあとにできる高密度の天体だ。
NASAのX線天文衛星チャンドラは、1999年と2005年にRX J0822-4300を観測した。そして、この中性子星の移動速度を調べるために、2回の観測データが重ね合わせられた。
その結果、RX J0822-4300の速度は時速480万キロメートル以上であることが明らかになった。この速度を保ち続ければ、数百万年後には天の川からぬけていってしまうと考えられている。
また、とも座Aの画像では、爆発の残骸である酸素の塊(紫色の擬似カラー)を画像の左上に見ることができる。酸素の塊と中性子星それぞれから伸びる白い矢印は、今後1000年で移動すると思われる距離とその方向を示している。
この矢印からもわかるように、とも座Aでは、爆発で吹き飛ばされた残骸の大部分と中性子星とが、互いにほぼ逆の方向へ移動していることも明らかになっている。
【2008年4月】
300年前に大爆発を起こしていた、天の川銀河の巨大ブラックホール
日本の研究チームが、われわれの天の川銀河(銀河系)の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*」が300年ほど前に大爆発を起こしたことを明らかにした。いて座A*では、周囲から放出されるエネルギーが極めて低いことが大きななぞとされていたが、どうやら大爆発以降、ある種の休眠状態に入っているらしい。

▲NASAのX線天文衛星チャンドラによる銀河中心付近のX線画像。黄色い矢印の先が「いて座A*」。(提供:NASA/CXC/MIT/Frederick K. Baganoff et al.)
いて座A*は天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールで、太陽の400万倍もの質量を持つことが知られている。しかし、その周囲から放出されているエネルギーは、他の銀河の中心にあるブラックホールに比べて10億分の1と極めて低いレベルにあり、長年なぞとされてきた。

▲分子雲「いて座B2」のX線画像。左上から時計回りに、1994年のX線天文衛星あすか、2000年のNASAのX線天文衛星チャンドラ、2004年のESAのX線観測衛星XMM-ニュートン、2005年のX線天文衛星すざく、による観測結果。実線、点線の円で囲んだ領域が5年ほどの間に明るくなったり暗くなったりしている様子がわかる。(提供:ASCA and Suzaku: JAXA; Chandra: NASA/CXC; XMM-Newton: ESA.)
京都大学の乾達也氏がリーダーをつとめる研究チームは、日本のX線天文衛星あすかとすざく、NASAのX線天文衛星チャンドラ、ESAのX線観測衛星XMM-ニュートンによる観測結果を利用した研究で、いて座A*がなぜこれほど静かであるのかというなぞの解明につながる成果を発表した。
研究チームが明らかにしたのは、300年ほど前に銀河の中心で起きた爆発によって起きた分子雲の増光である。1994年から2005年の間に行われた天の川銀河中心の観測結果をつなぎ合わせることで、いて座A*の近くにある分子雲(ガスの雲)が、いて座A*から発せられたX線によって急速に明るくなり、ふたたび暗くなる様子が明らかとなったのである。
「いて座B2」と呼ばれるこの分子雲にX線がたどりつくまでには300年もの時間が必要である。つまり、分子雲の増光は300年前に銀河中心で起きた現象によって引き起こされたことになる。
乾氏は、「ブラックホールが過去には現在と比較にならないほど明るかったことがはっきりしたのです。たぶん、いまは大爆発のあとで、ちょっとお休みしているのでしょう」と話している。
また、研究チームの小山勝二京都大学教授は、「この分子雲が10年の間にどのように明るくなり、また暗くなって行くかを観測することで、われわれは300年前のブラックホールの活動の歴史を辿ることができます。銀河中心のブラックホールは300年前には現在に比べて100万倍も明るかったのです。それは信じられないほどの巨大フレアだったにちがいありません」と話している。
地球から銀河中心までの距離はおよそ2万6000光年である。このことは、われわれは今から2万6000年前のできごとを見ていることを意味する。いて座A*の活動性がこれほど変化する理由が完全に理解されたわけではない。
小山教授は、数百年前に銀河中心の近くで起きた超新星爆発が、周囲のガスをはき集めて銀河中心のブラックホールに供給し、これがブラックホールを眠りから目覚めさせ、巨大な爆発を引き起こすきっかけになった可能性があると指摘している。
【2009年4月】
星雲を突くパルサーの「指先」
NASAのX線天文衛星チャンドラが、手のような形をした星雲をとらえた。大きさ約150光年の複雑な構造を形成したのは、直径20kmたらずのパルサー(中性子星)である。

▲チャンドラによるパルサー「B1509-53」と星雲「RCW 89」のX線画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/P.Slane, et al.
チャンドラがX線でとらえたのは、コンパス座の方向約1万7000光年の距離にある星雲。その中心に位置して星雲を形づくっていると考えられているのが、若いパルサー「B1509-53」だ。
パルサーとは、規則正しく明滅する電磁波の信号(パルス)が観測される天体のことだ。パルスが見られるのは、強力な磁場により磁極の方向へ電磁波のビームを放っていて、なおかつ超高速で自転しているからである。その正体は大質量星が超新星爆発を起こしたときに残る、直径20kmの超高密度天体、中性子星だ。B1509-53は強さが地球の15兆倍もある磁場を持ち、毎秒7回転している。
B1509-53からは電子やイオンなど電荷を帯びた粒子が噴き出していて、磁場の中を移動することでエネルギーを電磁波として放出する。こうして、X線で輝く複雑な星雲が姿をあらわすのだ。
物質の流れは、まるで指のような構造を作りだしており、その先端はとなりのガス雲「RCW 89」に衝突している。B1509-53からのエネルギーが伝わったことで、RCW 89の物質も加熱され、X線で輝いているのがわかる。
この画像は3種類のX線で撮影したデータを合成した疑似カラーであり、赤がもっともエネルギーの低いX線、緑が中間、青が高エネルギーのX線に相当する。
1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。

「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。

その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第7部
【2007年10月】
最大の恒星質量ブラックホールが観測された
銀河M33の近くに存在する巨大な星とブラックホールの連星系の観測で、ブラックホールの質量が太陽の約16倍であることが明らかとなった。恒星質量ブラックホールとしては、これまでに見つかっているもののうちで最大の質量だ。

▲M33 X-7の想像図(右下)と、M33 X-7をとらえた可視光とX線の合成画像。クリックで拡大(提供:(イラスト)NASA/CXC/M.Weiss、X線画像)NASA/CXC/CfA/P.Plucinsky et al.; Optical: NASA/STScI/SDSU/J.Orosz et al.)
さんかく座の方向300万光年の距離にある銀河M33の近くには、ブラックホールと巨大な星から成る連星系M33 X-7が存在している。
NASAのX線観測衛星チャンドラと米国ハワイにあるジェミニ望遠鏡によるこの連星の観測から、ブラックホールの質量が太陽の約16倍あり、伴星の質量が太陽の約70倍であることが明らかとなった。
ブラックホールには、大きく分けて3つのグループがある。1つ目は、太陽数個分の質量を持つ「恒星質量ブラックホール」と呼ばれるグループで、太陽3個分以上の質量をもつ恒星が進化の最期に見せる姿と考えられている。2つ目は、太陽の1000個程度の質量を持つ「中間質量ブラックホール」と呼ばれるグループ。その形成メカニズムは、大質量星の暴走的な合体ではないかと考えられている。3つ目は、ほとんどの銀河の中心核に存在し、太陽の100万倍から数十億倍の質量を持つ「大質量ブラックホール」と呼ばれるグループだ。
連星系M33 X-7に存在するブラックホールは恒星質量ブラックホールの1つで、太陽の約16倍という質量は、今までに観測された恒星質量ブラックホールのなかでは最大だ。
【2007年11月】
スピッツァーとチャンドラ、
遠方宇宙に超巨大なブラックホールを数百個発見
NASAの赤外線天文衛星スピッツァーとX線天文衛星チャンドラによる観測で、90億光年から110億光年の距離に、超巨大なブラックホールが数百個発見された。

▲発見されたブラックホール。青い丸で囲まれているのが新たに発見されたブラックホール。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/T. Pyle (SSC))
活動的な銀河の中心核であり、超巨大なブラックホールが潜む「クエーサー」の多くは、数十年もの間、一体宇宙のどこに存在しているのか、観測による直接的な証拠が得られることはなかった。

▲爆発的に形成される星とブラックホールの想像図(提供:NASA/JPL-Caltech/E. Daddi (CEA Saclay))
初めてその証拠を得たと発表したのは、フランス原子力エネルギー庁(CEA)のEmanuel Daddi氏が率いた研究チームだ。同チームでは、宇宙の年齢が25億歳から45億歳だったころ、つまり90億光年から110億光年の距離に存在する1000個の銀河を観測し、そのうち、約200個の銀河の中心にブラックホールが存在していることを明らかにした。
アメリカ国立光学天文台(NOAO)のMark Dickinson氏は、「初期の宇宙では、いたるところにブラックホールが存在していたのです。今までに発見されてきたブラックホールは氷山の一角で、われわれが発見したブラックホールこそ、氷山そのものなのです」と話している。
研究チームが観測のターゲットとした1000個の銀河は、いずれも星を形成中の不規則銀河で、質量は天の川銀河ほど、その中心にクエーサーは存在しないと考えられていた。
しかし、スピッツァーを使った赤外線観測で、そのうちの約200個から通常と異なる量の赤外線放射が見つかった。赤外線は、クエーサー周辺を取り巻いている円盤型の雲に存在するちりがクエーサーによって温められたことによるものだと考えられている。さらにチャンドラによるX線観測で得られた画像を重ね合わせることにより、遠方にある銀河が放つかすかな放射が強調され、クエーサーが放つ強力なX線が明らかとなった。
新たに発見されたクエーサーは、巨大な銀河がどのように進化するのかという、根本的な問題に関する貴重な情報を提供している。
英国ダラム大学のDavid Alexander氏は「クエーサーが活動を開始するために、銀河同士の合体が必要だと考える研究者もいますが、他からの影響を受けていない銀河でも、クエーサーがじゅうぶんに活動しているようすが観測されたのです」と話している。
また今回の発見について、フランス原子力エネルギー庁(CEA)のDavid Elbaz氏は超巨大なブラックホールを動物の象にたとえて、「以前は目隠しで象を研究していたようなものです。われわれは今初めて、象という動物を目にしているのです」と話している。
【2007年12月】
チャンドラが明かした宇宙のキャノンボール
NASAのX線天文衛星チャンドラによる観測で、超新星残骸「とも座A」の中性子星「RX J0822-4300」が、宇宙でもっとも高速の天体の1つといえるほどの速度で移動していることが明らかとなった。

▲X線と可視光による超新星残骸「とも座A」の合成画像、(右下)中性子星「RX J0822-4300」の画像(1999年と2005年の観測結果を合わせたもの)。クリックで拡大(提供:(チャンドラによるX線データ)NASA/CXC/Middlebury College/F.Winkler et al;(ローサットX線観測衛星によるX線データ)NASA/GSFC/S.Snowden et al.;(可視光)NOAO/AURA/NSF/Middlebury College/F.Winkler)
とも座Aは、約3700年前に大質量星が起こした爆発の残骸と考えられている。とも座Aには爆発で作られた中性子星のRX J0822-4300が存在している。中性子星とは、太陽の質量の8~30倍の星が超新星爆発を起こしたあとにできる高密度の天体だ。
NASAのX線天文衛星チャンドラは、1999年と2005年にRX J0822-4300を観測した。そして、この中性子星の移動速度を調べるために、2回の観測データが重ね合わせられた。
その結果、RX J0822-4300の速度は時速480万キロメートル以上であることが明らかになった。この速度を保ち続ければ、数百万年後には天の川からぬけていってしまうと考えられている。
また、とも座Aの画像では、爆発の残骸である酸素の塊(紫色の擬似カラー)を画像の左上に見ることができる。酸素の塊と中性子星それぞれから伸びる白い矢印は、今後1000年で移動すると思われる距離とその方向を示している。
この矢印からもわかるように、とも座Aでは、爆発で吹き飛ばされた残骸の大部分と中性子星とが、互いにほぼ逆の方向へ移動していることも明らかになっている。
【2008年4月】
300年前に大爆発を起こしていた、天の川銀河の巨大ブラックホール
日本の研究チームが、われわれの天の川銀河(銀河系)の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*」が300年ほど前に大爆発を起こしたことを明らかにした。いて座A*では、周囲から放出されるエネルギーが極めて低いことが大きななぞとされていたが、どうやら大爆発以降、ある種の休眠状態に入っているらしい。

▲NASAのX線天文衛星チャンドラによる銀河中心付近のX線画像。黄色い矢印の先が「いて座A*」。(提供:NASA/CXC/MIT/Frederick K. Baganoff et al.)
いて座A*は天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールで、太陽の400万倍もの質量を持つことが知られている。しかし、その周囲から放出されているエネルギーは、他の銀河の中心にあるブラックホールに比べて10億分の1と極めて低いレベルにあり、長年なぞとされてきた。

▲分子雲「いて座B2」のX線画像。左上から時計回りに、1994年のX線天文衛星あすか、2000年のNASAのX線天文衛星チャンドラ、2004年のESAのX線観測衛星XMM-ニュートン、2005年のX線天文衛星すざく、による観測結果。実線、点線の円で囲んだ領域が5年ほどの間に明るくなったり暗くなったりしている様子がわかる。(提供:ASCA and Suzaku: JAXA; Chandra: NASA/CXC; XMM-Newton: ESA.)
京都大学の乾達也氏がリーダーをつとめる研究チームは、日本のX線天文衛星あすかとすざく、NASAのX線天文衛星チャンドラ、ESAのX線観測衛星XMM-ニュートンによる観測結果を利用した研究で、いて座A*がなぜこれほど静かであるのかというなぞの解明につながる成果を発表した。
研究チームが明らかにしたのは、300年ほど前に銀河の中心で起きた爆発によって起きた分子雲の増光である。1994年から2005年の間に行われた天の川銀河中心の観測結果をつなぎ合わせることで、いて座A*の近くにある分子雲(ガスの雲)が、いて座A*から発せられたX線によって急速に明るくなり、ふたたび暗くなる様子が明らかとなったのである。
「いて座B2」と呼ばれるこの分子雲にX線がたどりつくまでには300年もの時間が必要である。つまり、分子雲の増光は300年前に銀河中心で起きた現象によって引き起こされたことになる。
乾氏は、「ブラックホールが過去には現在と比較にならないほど明るかったことがはっきりしたのです。たぶん、いまは大爆発のあとで、ちょっとお休みしているのでしょう」と話している。
また、研究チームの小山勝二京都大学教授は、「この分子雲が10年の間にどのように明るくなり、また暗くなって行くかを観測することで、われわれは300年前のブラックホールの活動の歴史を辿ることができます。銀河中心のブラックホールは300年前には現在に比べて100万倍も明るかったのです。それは信じられないほどの巨大フレアだったにちがいありません」と話している。
地球から銀河中心までの距離はおよそ2万6000光年である。このことは、われわれは今から2万6000年前のできごとを見ていることを意味する。いて座A*の活動性がこれほど変化する理由が完全に理解されたわけではない。
小山教授は、数百年前に銀河中心の近くで起きた超新星爆発が、周囲のガスをはき集めて銀河中心のブラックホールに供給し、これがブラックホールを眠りから目覚めさせ、巨大な爆発を引き起こすきっかけになった可能性があると指摘している。
【2009年4月】
星雲を突くパルサーの「指先」
NASAのX線天文衛星チャンドラが、手のような形をした星雲をとらえた。大きさ約150光年の複雑な構造を形成したのは、直径20kmたらずのパルサー(中性子星)である。

▲チャンドラによるパルサー「B1509-53」と星雲「RCW 89」のX線画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/P.Slane, et al.
チャンドラがX線でとらえたのは、コンパス座の方向約1万7000光年の距離にある星雲。その中心に位置して星雲を形づくっていると考えられているのが、若いパルサー「B1509-53」だ。
パルサーとは、規則正しく明滅する電磁波の信号(パルス)が観測される天体のことだ。パルスが見られるのは、強力な磁場により磁極の方向へ電磁波のビームを放っていて、なおかつ超高速で自転しているからである。その正体は大質量星が超新星爆発を起こしたときに残る、直径20kmの超高密度天体、中性子星だ。B1509-53は強さが地球の15兆倍もある磁場を持ち、毎秒7回転している。
B1509-53からは電子やイオンなど電荷を帯びた粒子が噴き出していて、磁場の中を移動することでエネルギーを電磁波として放出する。こうして、X線で輝く複雑な星雲が姿をあらわすのだ。
物質の流れは、まるで指のような構造を作りだしており、その先端はとなりのガス雲「RCW 89」に衝突している。B1509-53からのエネルギーが伝わったことで、RCW 89の物質も加熱され、X線で輝いているのがわかる。
この画像は3種類のX線で撮影したデータを合成した疑似カラーであり、赤がもっともエネルギーの低いX線、緑が中間、青が高エネルギーのX線に相当する。
by yascovicci
| 2016-08-17 20:20
| ★☆★宇宙の研究












