2016年 08月 18日
【チャンドラX線観測衛星】 観測成果 第8部
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チャンドラX線観測衛星(Chandra X-ray Observatory)は、
1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。

「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。

その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第8部
【2010年5月】
超新星爆発で放たれた「美しき銃弾」
16万光年先の大マゼラン雲にある超新星残骸N49のそばに、銃弾のような小さい残骸が見つかった。不規則な形状で起こった超新星爆発のようすや、発見例の少ない「軟ガンマ線リピーター」の解明について、大きなヒントを与えてくれそうだ。

▲チャンドラによるX線画像(青)と、HSTの可視光画像(黄色と紫)を重ね合わせた画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/Penn State/S. Park et al. Optical: NASA/STScI/UIUC/Y.H. Chu & R. Williams et al.)
X線天文衛星チャンドラがとらえた超新星残骸N49の、新しい画像が公開された。N49は大質量星の爆発によって形成された天体で、爆発から約5000年たった姿がとらえられている。
図中、残骸のすぐ右脇に見えるのが、超新星爆発の際に散らばったとみられる「銃弾」のような天体で、米ペンシルバニア州立大学のSangwook Park氏を中心としたチームの観測により発見された。N49自体もいびつな形をしているが、この「銃弾」の発見で、この残骸の起源となった爆発が全方向に均一ではなくかなり不規則な形でひろがっていったことがわかる。
この「銃弾」は図中の真ん中上あたりにある光点から時速800万kmで遠ざかっているが、この光点は「軟ガンマ線リピーター(SGR)」と呼ばれる種類の天体とみられている。SGRはX線やガンマ線を繰り返し爆発的に放射するパルサーの一種で、現在までに数個程度しか発見されていない。
その正体はひじょうに強力な磁場を持つ中性子星の一種だというのが有力な見方だが、超新星爆発の際には中性子星が作られることが多いので、SGRが超新星残骸に見られることは不思議なことではない。「銃弾」が光点から遠ざかっているという観測結果も、この光点が超新星爆発でできたものである(つまり、SGRが超新星残骸の中に存在している)ことを裏付けている。
ただしこの光点は、超新星残骸の中に存在するにしてはガスによる減光の度合いが強い。もしかしたら、この残骸の向こう側(奥)にあり、透けて見えているのかもしれないということだ。
【2010年7月】
重力波キックではじき飛ばされたブラックホール?
超巨大ブラックホールどうしの合体でブラックホールがはじき飛ばされたことを示す証拠が、NASAのX線観測衛星チャンドラ、ESAのX線観測衛星XMM-Newton、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)、そのほか複数の地上望遠鏡による観測で発見された。

▲チャンドラによる「CID-42」のX線画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/F.Civano et al.)

▲HSTによる「CID-42」の可視光画像。銀河から伸びる長い尾は、数百万年ほど前に銀河の合体が起きたことを示唆していると考えられている。クリックで拡大(提供:NASA/STScI)
ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターのFrancesca Civsno氏らの研究チームは、COSMOSプロジェクト(Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ)で観測された2600個ものX線天体の中から、地球から約39億光年の距離に存在する「CID-42」と呼ばれる天体の位置が、可視光で観測された2つのコンパクトな天体と一致していることを発見した。
1枚目の画像は、チャンドラによる「CID-42」のX線画像である。一方2枚目の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が同じ天体をとらえた可視光画像である。チャンドラの画像とは異なり、2つの白っぽい天体が画像のほぼ中央に分離してとらえられている。
これら2つの天体をヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡(VLT)と南米チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン6.5m望遠鏡で観測した結果、両天体の速度に大きな違いがあることが示された。その差は、少なくとも時速4800万kmと見られている。
チャンドラとXMM-Newtonの観測で得られたX線スペクトルから、鉄を豊富に含むガスの吸収線が地球から急速に遠ざかるようすが示された。これは、ガスがブラックホールへ急速に落ち込んでいるか、または、ブラックホールからさらに遠くへガスが吹き飛ばされているためと考えられている。
この観測結果を説明するために、2つのシナリオが挙げられている。1つ目は、3つのブラックホールの接近によって、2段階のプロセスが起きたというものだ。最初に2つの銀河が衝突し、接近した軌道を持つブラックホールのペアができた。そして、ブラックホールが合体する前に、さらに別の超巨大ブラックホールが、すでに存在していたブラックホールのペアに向かって落ち込んでいった。そして、3つのブラックホールが互いに及ぼす作用によって、そのうちもっとも質量の軽いものがはじき飛ばされたというのである。
このシナリオが正しければ、可視光画像中に輝く2つの天体のうち、左下の天体は超巨大ブラックホールの物質からエネルギーを得ている活動銀河核で、右上の天体の中心には合体したブラックホールが存在していると考えられる。
また、2つ目のシナリオは、2つの超巨大ブラックホールが銀河の中心部で合体したというものである。このようなプロセスでは、非対称の重力波が放出されるため、合体したブラックホールが銀河の中心から放り出されてしまうと考えられている。このシナリオの場合、重力波キックによって放り出されたブラックホールは、画像の左下に見える天体と考えられる。また、銀河の中心に取り残されたと思われる星団は右上に見えている。
2つ目の重力波キックによるシナリオは、最近オランダ宇宙研究機関(SRON;Netherlands Institute for Space Research)のPeter Jonker氏も、別の銀河の中心に発見したある天体を説明するために提唱した。Jonker氏の発見したX線源は、銀河の中心から約1万光年の距離に発見された。そのため、その正体は特異な超新星か、超高輝度のX線天体でありかつ可視光でも観測可能な天体か、または、重力波キックではじき飛ばされた超巨大ブラックホールと考えられている。
【2010年8月】
3つの天文衛星がとらえた銀河スペクタクル、アンテナ銀河最新画像
衝突銀河として有名な「アンテナ銀河」を、NASAの赤外線天文衛星スピッツァーとX線観測衛星チャンドラ、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえ、そのデータを重ね合わせた最新画像が公開された。

▲スピッツァーとチャンドラ、HSTによる観測データを重ね合わせたアンテナ銀河。クリックで拡大(提供: Chandra: NASA/CXC/SAO, Spitzer: NASA/JPL-Caltech, Hubble: NASA/STScI )
アンテナ銀河は、からす座の方向約6200万光年の距離にある有名な衝突銀河だ。NGC 4038とNGC 4039という2つの銀河が1億年以上前に衝突を起こし、今も変形を続けている。
衝突によって、2つの銀河を構成していたちりやガスから、数百万個の星が形成された。そのうち、ほとんどの大質量星は、誕生から数百万年が経過した後に超新星爆発を起こし、すでに一生を終えている。
画像中、青の擬似カラーで示されているのは、X線を放射する高温の星間ガスである。これらのガスは超新星爆発で放出されたもので、酸素や鉄、マグネシウムやケイ素などを含んでおり、新しい星や惑星の材料となる。
明るい点のように見えているのは、大質量星の残骸である中性子星やブラックホールへ落ち込んでいく物質がX線で輝いているところだ。アンテナ銀河には、太陽質量の百倍ほどの質量をもつブラックホールも存在している。
一方、スピッツァーによる近赤外線の波長の観測では、生まれたばかりの星の放射によって暖められたちりの雲(擬似カラー:赤)がとらえられている。2つの銀河が重なっている領域では、赤外線でもっとも明るく輝く雲が見えている。
そのほか、黄や白っぽい色をしているのは、HSTがとらえた年老いた星や星形成領域である。また、ちりのつくる繊維状の構造が茶色く見えている。そのほか、可視光の波長では、数千個の星が集まる星団が比較的暗い天体としてとらえられている。
【2011年2月】
中性子星が超流動体の核を持つ証拠を発見
チャンドラX線天文衛星の観測から、超新星残骸「カシオペヤ座A」にある中性子星の温度が急激に低下していることがわかった。中性子星の中心核が超流動体であるという初めての証拠であり、高密度状態における核相互作用への理解を深める一歩となる。

▲チャンドラのX線データ(赤・緑)とハッブル宇宙望遠鏡の可視光データ(黄)を合成したカシオペヤ座Aの画像。中心に中性子星が見える。拡大した想像図には、中性子星の外殻と中心核、ニュートリノの放出(青)が描かれている。(提供:X-ray: NASA/CXC/xx; Optical: NASA/STScI; Illustration: NASA/CXC/M.Weiss)
地球から11,000光年先にある「カシオペヤ座A」は、超新星爆発から330年経った超新星残骸だ。大きく広がった残骸の中心には、爆発した大質量星の名残である超高密度の中性子星(注1)がある。
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」の観測により、この中性子星の温度が10年間で4%も低下していることがわかった。この温度低下は100年前から続いており、星の中心核で中性子の超流動化(注2)が起きていることによるものと思われる。中性子星の核に超流動体の物質が存在することが、初めて裏付けられた。
また、地球上の物質は絶対零度に近い極低温で超流動状態になるが、中性子星の内部物質が超流動状態になる上限温度は摂氏5億~10億度弱と非常に高いことも判明した。星の広い範囲で中性子の超流動化が起きており、また、急激な温度低下から、残された陽子の超流動化による超伝導体生成が早い段階から始まっていたと見られる(注3)。この温度低下はあと数十年後には緩やかになると予測されている。
この発見により、超高密度状態における核力(陽子や中性子を結合し原子核を形成する力)のふるまいや、中性子星におけるパルス(注4)の乱れ、歳差(注5)や磁場の形成などへの理解が進むと期待される。
【2011年4月】
「ティコの超新星残骸」のアークが伝えるIa型超新星の起源
「ティコの超新星残骸」に、高エネルギーX線で輝くアーク状の構造が見つかった。Ia型超新星爆発は白色矮星同士の合体ではなく、白色矮星と太陽のような普通の恒星の連星から発生したとする説を裏付ける発見だ。
ティコの超新星残骸は1572年にデンマークの天文学者ティコ・ブラーエが観測記録を残したことで知られており、このときは昼間でも肉眼で見えるほど明るく輝いていたという。カシオペヤ座の方向、地球から約1万3000光年離れたところにある銀河系内の天体だ。
NASAのチャンドラX線観測衛星はこの天体の中に、超新星爆発の影響で作られたと思われるアーク(弧)を発見した。

▲超新星爆発により伴星の物質を吹き飛ばしてアーク(弧)を形成しているイメージ図。超新星爆発の影響で吹き飛ばされた物質やアークは左下の方に進んでいくが、伴星は右下に動いていることがわかっている。左下の黒い部分は残骸の影。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/M.Weiss)
これは前回発見された縞模様(天文ニュース「ティコの超新星残骸に縞模様」などとは構造もメカニズムも異なるものだと考えられる。このアークは高エネルギーX線として観測され、白色矮星が超新星爆発を起こして伴星の物質を吹き飛ばした時の衝撃波で形成されたと結論付けられた。アークの隣に見られる陰が爆発の中心方向と正反対にあることも、つじつまが合う。

▲ティコの超新星残骸のX線画像。中心近くの十字が超新星爆発の中心。その左下に青く見える弧のように見えるものが今回見つかったアーク。低エネルギーのものは赤、高エネルギーのものは青で色付けされている。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Chinese Academy of Sciences/F. Lu et al)
ティコの超新星残骸の元となった超新星爆発は「Ia型超新星」に分類されているが、そのメカニズムとして2つ候補が存在している。1つは白色矮星と太陽のような普通の恒星の連星系で引き起こされるもの、もう1つは白色矮星同士が合体して引き起こされるものだ。
白色矮星同士の合体による爆発の場合、伴星から物質が吹き飛ばされた痕跡が見つかることはありえないとされている。たとえ両方のケースが起こりうるとしても、今回の発見はまぎれもなく「白色矮星と普通の星の連星系」説を支持するものだ。
【2011年8月】
「チャンドラ」がブラックホールに落ち込むガスを初めて撮影
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が、銀河の中心にあるブラックホールにガスが落ち込んでいる様子を初めて観測した。この観測から、ブラックホールがどのように成長するのか、強い重力の中で物質がどのようにふるまうかという基本的な問題の理解が進むと期待される。

▲NGC 3115のX線と可視光線の合成画像。青色が「チャンドラ」によるX線画像、金色がヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡による可視光画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/Univ. of Alabama/K.Wong et al, Optical: ESO/VLT)
これまでの多くの観測から、塵のようなものがブラックホールに落ち込んでいる様子は確認できていたが、高温のガスが落ち込んでいる様子は確認されていなかった。NASAのX線天文衛星「チャンドラ」で地球から約3200万光年離れたところにある、ろくぶんぎ座の銀河「NGC 3115」中心の大質量ブラックホールを観測したところ、ブラックホールにガスが落ち込んで行く様子を初めて撮影することに成功した。
チャンドラがとらえたのは、中心にある大質量ブラックホールから700光年のところでガスがブラックホールの重力につかまり、温度が上がっている様子だ。この重力の影響を及ぼしている距離(これをボンディ半径という)からブラックホールの質量を推定すると、およそ太陽の20億倍であることがわかった。
また、予想通りブラックホールの中心に近いところほどガスの密度が大きいこともわかった。1年間に太陽質量の50分の1ほどのガスがボンディ半径の内側に引っ張られていると見積もられている。
ブラックホールに落ち込んだガスのエネルギーがどの程度X線として外部に放出されるかを推定してみたところ、なんと今回の観測の100万倍以上もの明るさで輝くはずであることがわかった。ではなぜ、このブラックホールはこんなにも暗いのか。その理由ははっきりとはわかっていないが、2つの可能性が考えられている。
1つは、ボンディ半径の内側に流れ込むガスのうち、実際にブラックホールに落ち込む質量は見積もりよりもずっと少ないために、明るさを過大評価しているというもの。もう1つは、エネルギーがX線へと変換される効率が予想よりもずっと悪いことだ。
ブラックホールに近づいたときにどれくらいの速さでガスの密度が上がるか、その詳細な観測ができれば、この謎を解く手がかりを得ることができるかもしれない。
【2015年6月】
銀河の歴史を物語る、銀河周囲に空いた3組の巨大な空洞
銀河中心の超大質量ブラックホールが5000万年にわたって起こしてきた爆発的な噴出によって周囲の高温ガスに3組の巨大な空洞が作られた様子を、X線天文衛星「チャンドラ」が明らかにした。
おとめ座の方向1億500万光年の距離に位置する銀河群をX線天文衛星「チャンドラ」が観測し、銀河群に属する銀河NGC 5813の中心に存在する超大質量ブラックホールが起こしてきた爆発的噴出の歴史が明らかにされた。
銀河中心のブラックホールのすぐ近くからは強力な高速の双極ジェットが噴出しており、この双極ジェットの衝撃波によって銀河内に広がる数百万度もの高温ガスが外に押し出され、ガスに空洞のペアが作られる。最新のチャンドラによる観測で、この銀河に3組目となる空洞のペアが見つかった。つまり、これまでに3回ブラックホールから爆発的な噴出が起こったことになる。

▲NGC 5813。X線(紫)と可視光線観測のデータを合成。黄色の矢印の部分が、銀河を取り巻くガスに空いた空洞(提供:X線:NASA/CXC/SAO/S.Randall et al.、可視光線:SDSS)
さらに詳しく調べると、ブラックホールに最も近く一番新しい1組の空洞を作るのに必要な総エネルギー量は、古い2組の空洞を作ったエネルギーよりも小さいことがわかった。しかし3組のエネルギー生成率はほぼ同じで、最も内側の空洞を作ったブラックホールからの噴出はまだ続いていることを表している。
また、空洞の端(衝撃波面)が少しぼやけているのは、高温ガスの乱流によるものと考えられている。この仮定に基づくとガスのランダムな運動速度は時速約25万8000kmになり、理論モデルの予測や他の銀河群、銀河団に存在する高温ガスのX線観測に基づいた計算と一致した。
1999年7月23日にNASAによって打ち上げられた人工衛星である。
スペースシャトルコロンビアによって放出された。

「チャンドラ」の名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で「月」という意味でもある。
チャンドラはNASAの4つあるグレートオブザバトリー計画のうち3番目の観測衛星である。

その最初の観測衛星は1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡、2番目は1991年のコンプトンガンマ線観測衛星、そして最後が2003年打ち上げのスピッツァー宇宙望遠鏡である。
◆◆チャンドラX線観測衛星 観測成果 第8部
【2010年5月】
超新星爆発で放たれた「美しき銃弾」
16万光年先の大マゼラン雲にある超新星残骸N49のそばに、銃弾のような小さい残骸が見つかった。不規則な形状で起こった超新星爆発のようすや、発見例の少ない「軟ガンマ線リピーター」の解明について、大きなヒントを与えてくれそうだ。

▲チャンドラによるX線画像(青)と、HSTの可視光画像(黄色と紫)を重ね合わせた画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/Penn State/S. Park et al. Optical: NASA/STScI/UIUC/Y.H. Chu & R. Williams et al.)
X線天文衛星チャンドラがとらえた超新星残骸N49の、新しい画像が公開された。N49は大質量星の爆発によって形成された天体で、爆発から約5000年たった姿がとらえられている。
図中、残骸のすぐ右脇に見えるのが、超新星爆発の際に散らばったとみられる「銃弾」のような天体で、米ペンシルバニア州立大学のSangwook Park氏を中心としたチームの観測により発見された。N49自体もいびつな形をしているが、この「銃弾」の発見で、この残骸の起源となった爆発が全方向に均一ではなくかなり不規則な形でひろがっていったことがわかる。
この「銃弾」は図中の真ん中上あたりにある光点から時速800万kmで遠ざかっているが、この光点は「軟ガンマ線リピーター(SGR)」と呼ばれる種類の天体とみられている。SGRはX線やガンマ線を繰り返し爆発的に放射するパルサーの一種で、現在までに数個程度しか発見されていない。
その正体はひじょうに強力な磁場を持つ中性子星の一種だというのが有力な見方だが、超新星爆発の際には中性子星が作られることが多いので、SGRが超新星残骸に見られることは不思議なことではない。「銃弾」が光点から遠ざかっているという観測結果も、この光点が超新星爆発でできたものである(つまり、SGRが超新星残骸の中に存在している)ことを裏付けている。
ただしこの光点は、超新星残骸の中に存在するにしてはガスによる減光の度合いが強い。もしかしたら、この残骸の向こう側(奥)にあり、透けて見えているのかもしれないということだ。
【2010年7月】
重力波キックではじき飛ばされたブラックホール?
超巨大ブラックホールどうしの合体でブラックホールがはじき飛ばされたことを示す証拠が、NASAのX線観測衛星チャンドラ、ESAのX線観測衛星XMM-Newton、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)、そのほか複数の地上望遠鏡による観測で発見された。

▲チャンドラによる「CID-42」のX線画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/F.Civano et al.)

▲HSTによる「CID-42」の可視光画像。銀河から伸びる長い尾は、数百万年ほど前に銀河の合体が起きたことを示唆していると考えられている。クリックで拡大(提供:NASA/STScI)
ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターのFrancesca Civsno氏らの研究チームは、COSMOSプロジェクト(Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ)で観測された2600個ものX線天体の中から、地球から約39億光年の距離に存在する「CID-42」と呼ばれる天体の位置が、可視光で観測された2つのコンパクトな天体と一致していることを発見した。
1枚目の画像は、チャンドラによる「CID-42」のX線画像である。一方2枚目の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が同じ天体をとらえた可視光画像である。チャンドラの画像とは異なり、2つの白っぽい天体が画像のほぼ中央に分離してとらえられている。
これら2つの天体をヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡(VLT)と南米チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン6.5m望遠鏡で観測した結果、両天体の速度に大きな違いがあることが示された。その差は、少なくとも時速4800万kmと見られている。
チャンドラとXMM-Newtonの観測で得られたX線スペクトルから、鉄を豊富に含むガスの吸収線が地球から急速に遠ざかるようすが示された。これは、ガスがブラックホールへ急速に落ち込んでいるか、または、ブラックホールからさらに遠くへガスが吹き飛ばされているためと考えられている。
この観測結果を説明するために、2つのシナリオが挙げられている。1つ目は、3つのブラックホールの接近によって、2段階のプロセスが起きたというものだ。最初に2つの銀河が衝突し、接近した軌道を持つブラックホールのペアができた。そして、ブラックホールが合体する前に、さらに別の超巨大ブラックホールが、すでに存在していたブラックホールのペアに向かって落ち込んでいった。そして、3つのブラックホールが互いに及ぼす作用によって、そのうちもっとも質量の軽いものがはじき飛ばされたというのである。
このシナリオが正しければ、可視光画像中に輝く2つの天体のうち、左下の天体は超巨大ブラックホールの物質からエネルギーを得ている活動銀河核で、右上の天体の中心には合体したブラックホールが存在していると考えられる。
また、2つ目のシナリオは、2つの超巨大ブラックホールが銀河の中心部で合体したというものである。このようなプロセスでは、非対称の重力波が放出されるため、合体したブラックホールが銀河の中心から放り出されてしまうと考えられている。このシナリオの場合、重力波キックによって放り出されたブラックホールは、画像の左下に見える天体と考えられる。また、銀河の中心に取り残されたと思われる星団は右上に見えている。
2つ目の重力波キックによるシナリオは、最近オランダ宇宙研究機関(SRON;Netherlands Institute for Space Research)のPeter Jonker氏も、別の銀河の中心に発見したある天体を説明するために提唱した。Jonker氏の発見したX線源は、銀河の中心から約1万光年の距離に発見された。そのため、その正体は特異な超新星か、超高輝度のX線天体でありかつ可視光でも観測可能な天体か、または、重力波キックではじき飛ばされた超巨大ブラックホールと考えられている。
【2010年8月】
3つの天文衛星がとらえた銀河スペクタクル、アンテナ銀河最新画像
衝突銀河として有名な「アンテナ銀河」を、NASAの赤外線天文衛星スピッツァーとX線観測衛星チャンドラ、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえ、そのデータを重ね合わせた最新画像が公開された。

▲スピッツァーとチャンドラ、HSTによる観測データを重ね合わせたアンテナ銀河。クリックで拡大(提供: Chandra: NASA/CXC/SAO, Spitzer: NASA/JPL-Caltech, Hubble: NASA/STScI )
アンテナ銀河は、からす座の方向約6200万光年の距離にある有名な衝突銀河だ。NGC 4038とNGC 4039という2つの銀河が1億年以上前に衝突を起こし、今も変形を続けている。
衝突によって、2つの銀河を構成していたちりやガスから、数百万個の星が形成された。そのうち、ほとんどの大質量星は、誕生から数百万年が経過した後に超新星爆発を起こし、すでに一生を終えている。
画像中、青の擬似カラーで示されているのは、X線を放射する高温の星間ガスである。これらのガスは超新星爆発で放出されたもので、酸素や鉄、マグネシウムやケイ素などを含んでおり、新しい星や惑星の材料となる。
明るい点のように見えているのは、大質量星の残骸である中性子星やブラックホールへ落ち込んでいく物質がX線で輝いているところだ。アンテナ銀河には、太陽質量の百倍ほどの質量をもつブラックホールも存在している。
一方、スピッツァーによる近赤外線の波長の観測では、生まれたばかりの星の放射によって暖められたちりの雲(擬似カラー:赤)がとらえられている。2つの銀河が重なっている領域では、赤外線でもっとも明るく輝く雲が見えている。
そのほか、黄や白っぽい色をしているのは、HSTがとらえた年老いた星や星形成領域である。また、ちりのつくる繊維状の構造が茶色く見えている。そのほか、可視光の波長では、数千個の星が集まる星団が比較的暗い天体としてとらえられている。
【2011年2月】
中性子星が超流動体の核を持つ証拠を発見
チャンドラX線天文衛星の観測から、超新星残骸「カシオペヤ座A」にある中性子星の温度が急激に低下していることがわかった。中性子星の中心核が超流動体であるという初めての証拠であり、高密度状態における核相互作用への理解を深める一歩となる。

▲チャンドラのX線データ(赤・緑)とハッブル宇宙望遠鏡の可視光データ(黄)を合成したカシオペヤ座Aの画像。中心に中性子星が見える。拡大した想像図には、中性子星の外殻と中心核、ニュートリノの放出(青)が描かれている。(提供:X-ray: NASA/CXC/xx; Optical: NASA/STScI; Illustration: NASA/CXC/M.Weiss)
地球から11,000光年先にある「カシオペヤ座A」は、超新星爆発から330年経った超新星残骸だ。大きく広がった残骸の中心には、爆発した大質量星の名残である超高密度の中性子星(注1)がある。
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」の観測により、この中性子星の温度が10年間で4%も低下していることがわかった。この温度低下は100年前から続いており、星の中心核で中性子の超流動化(注2)が起きていることによるものと思われる。中性子星の核に超流動体の物質が存在することが、初めて裏付けられた。
また、地球上の物質は絶対零度に近い極低温で超流動状態になるが、中性子星の内部物質が超流動状態になる上限温度は摂氏5億~10億度弱と非常に高いことも判明した。星の広い範囲で中性子の超流動化が起きており、また、急激な温度低下から、残された陽子の超流動化による超伝導体生成が早い段階から始まっていたと見られる(注3)。この温度低下はあと数十年後には緩やかになると予測されている。
この発見により、超高密度状態における核力(陽子や中性子を結合し原子核を形成する力)のふるまいや、中性子星におけるパルス(注4)の乱れ、歳差(注5)や磁場の形成などへの理解が進むと期待される。
【2011年4月】
「ティコの超新星残骸」のアークが伝えるIa型超新星の起源
「ティコの超新星残骸」に、高エネルギーX線で輝くアーク状の構造が見つかった。Ia型超新星爆発は白色矮星同士の合体ではなく、白色矮星と太陽のような普通の恒星の連星から発生したとする説を裏付ける発見だ。
ティコの超新星残骸は1572年にデンマークの天文学者ティコ・ブラーエが観測記録を残したことで知られており、このときは昼間でも肉眼で見えるほど明るく輝いていたという。カシオペヤ座の方向、地球から約1万3000光年離れたところにある銀河系内の天体だ。
NASAのチャンドラX線観測衛星はこの天体の中に、超新星爆発の影響で作られたと思われるアーク(弧)を発見した。

▲超新星爆発により伴星の物質を吹き飛ばしてアーク(弧)を形成しているイメージ図。超新星爆発の影響で吹き飛ばされた物質やアークは左下の方に進んでいくが、伴星は右下に動いていることがわかっている。左下の黒い部分は残骸の影。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/M.Weiss)
これは前回発見された縞模様(天文ニュース「ティコの超新星残骸に縞模様」などとは構造もメカニズムも異なるものだと考えられる。このアークは高エネルギーX線として観測され、白色矮星が超新星爆発を起こして伴星の物質を吹き飛ばした時の衝撃波で形成されたと結論付けられた。アークの隣に見られる陰が爆発の中心方向と正反対にあることも、つじつまが合う。

▲ティコの超新星残骸のX線画像。中心近くの十字が超新星爆発の中心。その左下に青く見える弧のように見えるものが今回見つかったアーク。低エネルギーのものは赤、高エネルギーのものは青で色付けされている。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Chinese Academy of Sciences/F. Lu et al)
ティコの超新星残骸の元となった超新星爆発は「Ia型超新星」に分類されているが、そのメカニズムとして2つ候補が存在している。1つは白色矮星と太陽のような普通の恒星の連星系で引き起こされるもの、もう1つは白色矮星同士が合体して引き起こされるものだ。
白色矮星同士の合体による爆発の場合、伴星から物質が吹き飛ばされた痕跡が見つかることはありえないとされている。たとえ両方のケースが起こりうるとしても、今回の発見はまぎれもなく「白色矮星と普通の星の連星系」説を支持するものだ。
【2011年8月】
「チャンドラ」がブラックホールに落ち込むガスを初めて撮影
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が、銀河の中心にあるブラックホールにガスが落ち込んでいる様子を初めて観測した。この観測から、ブラックホールがどのように成長するのか、強い重力の中で物質がどのようにふるまうかという基本的な問題の理解が進むと期待される。

▲NGC 3115のX線と可視光線の合成画像。青色が「チャンドラ」によるX線画像、金色がヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡による可視光画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/Univ. of Alabama/K.Wong et al, Optical: ESO/VLT)
これまでの多くの観測から、塵のようなものがブラックホールに落ち込んでいる様子は確認できていたが、高温のガスが落ち込んでいる様子は確認されていなかった。NASAのX線天文衛星「チャンドラ」で地球から約3200万光年離れたところにある、ろくぶんぎ座の銀河「NGC 3115」中心の大質量ブラックホールを観測したところ、ブラックホールにガスが落ち込んで行く様子を初めて撮影することに成功した。
チャンドラがとらえたのは、中心にある大質量ブラックホールから700光年のところでガスがブラックホールの重力につかまり、温度が上がっている様子だ。この重力の影響を及ぼしている距離(これをボンディ半径という)からブラックホールの質量を推定すると、およそ太陽の20億倍であることがわかった。
また、予想通りブラックホールの中心に近いところほどガスの密度が大きいこともわかった。1年間に太陽質量の50分の1ほどのガスがボンディ半径の内側に引っ張られていると見積もられている。
ブラックホールに落ち込んだガスのエネルギーがどの程度X線として外部に放出されるかを推定してみたところ、なんと今回の観測の100万倍以上もの明るさで輝くはずであることがわかった。ではなぜ、このブラックホールはこんなにも暗いのか。その理由ははっきりとはわかっていないが、2つの可能性が考えられている。
1つは、ボンディ半径の内側に流れ込むガスのうち、実際にブラックホールに落ち込む質量は見積もりよりもずっと少ないために、明るさを過大評価しているというもの。もう1つは、エネルギーがX線へと変換される効率が予想よりもずっと悪いことだ。
ブラックホールに近づいたときにどれくらいの速さでガスの密度が上がるか、その詳細な観測ができれば、この謎を解く手がかりを得ることができるかもしれない。
【2015年6月】
銀河の歴史を物語る、銀河周囲に空いた3組の巨大な空洞
銀河中心の超大質量ブラックホールが5000万年にわたって起こしてきた爆発的な噴出によって周囲の高温ガスに3組の巨大な空洞が作られた様子を、X線天文衛星「チャンドラ」が明らかにした。
おとめ座の方向1億500万光年の距離に位置する銀河群をX線天文衛星「チャンドラ」が観測し、銀河群に属する銀河NGC 5813の中心に存在する超大質量ブラックホールが起こしてきた爆発的噴出の歴史が明らかにされた。
銀河中心のブラックホールのすぐ近くからは強力な高速の双極ジェットが噴出しており、この双極ジェットの衝撃波によって銀河内に広がる数百万度もの高温ガスが外に押し出され、ガスに空洞のペアが作られる。最新のチャンドラによる観測で、この銀河に3組目となる空洞のペアが見つかった。つまり、これまでに3回ブラックホールから爆発的な噴出が起こったことになる。

▲NGC 5813。X線(紫)と可視光線観測のデータを合成。黄色の矢印の部分が、銀河を取り巻くガスに空いた空洞(提供:X線:NASA/CXC/SAO/S.Randall et al.、可視光線:SDSS)
さらに詳しく調べると、ブラックホールに最も近く一番新しい1組の空洞を作るのに必要な総エネルギー量は、古い2組の空洞を作ったエネルギーよりも小さいことがわかった。しかし3組のエネルギー生成率はほぼ同じで、最も内側の空洞を作ったブラックホールからの噴出はまだ続いていることを表している。
また、空洞の端(衝撃波面)が少しぼやけているのは、高温ガスの乱流によるものと考えられている。この仮定に基づくとガスのランダムな運動速度は時速約25万8000kmになり、理論モデルの予測や他の銀河群、銀河団に存在する高温ガスのX線観測に基づいた計算と一致した。
by yascovicci
| 2016-08-18 01:41
| ★☆★宇宙の研究












