【WMAP】 ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機
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WMAP の任務はビッグバンの名残の熱放射である宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の温度を全天にわたってサーベイ観測することである。
この探査機は2001年6月30日午後3時46分 (EDT) にアメリカのケープカナベラル空軍基地からデルタIIロケットで打ち上げられ、太陽と地球のラグランジュ点 (L2) で2010年8月まで観測を行った。

▲WMAP launched on top of a Delta II rocket from Cape Canaveral on June 30, 2001. Credits: NASA
概要
WMAP の目的は CMB の微小なゆらぎを全天にわたって描き出すことによって、宇宙の性質を記述する様々な理論の妥当性を検証することである。この探査機は COBE の後継機で、中型探査機シリーズmedium-class explorer (MIDEX) の1つである。

WMAP は計画当初は MAP (Microwave Anisotropy Probe) という名称であったが、打ち上げ後の2002年に、このミッションの科学研究チームの一員で、宇宙背景放射の研究におけるパイオニアであった天文学者のデビッド・ウィルキンソンが亡くなったため、その名を冠して現在の名称となった。WMAP の科学的目標は、CMB の相対温度を全天について高い角分解能と感度で正確に測定することである。それゆえ、探査機の設計に求められる最も重要な点は、最終的に得られる CMB マップに含まれる系統誤差をできるだけ抑えることであった。具体的な WMAP の目標としては、全天の CMB の相対温度を0.3°以内の角分解能で測定すること、この0.3°四方の1ピクセルについて 20 μK の感度を達成し、系統誤差を1ピクセル当たり 5 μK 以内に抑えることが求められた。

これらの目標を達成するために、WMAP は天空上の2点の温度差を測定する差分マイクロ波ラジオメータを搭載している。WMAP は地球から150万km離れた太陽‐地球系のラグランジュ点 L2 付近の軌道から観測を行う。よって、WMAP を慣習的に「衛星 (satellite)」と呼ぶ場合があるが、宇宙機の軌道としては正確には人工惑星である。L2 へ向かうために月の引力によるスイングバイが行われた。
2003年2月11日、NASA の広報グループは宇宙の年齢と組成についてのプレスリリースを発表した。このリリースでは、それまでに撮られた中で最も複雑な宇宙の「赤ん坊時代の写真」と言うべきデータが発表され、欧州宇宙機関が打ち上げを予定しているプランク探査衛星の観測結果が待たれることとなった。NASA によると、この画像には驚くほど詳細な情報が含まれており、21世紀初頭の科学的成果の中でも最も重要なものの一つである。この画像は当時の技術で可能な最高の解像度の画像ではないが、CMB の全天画像としては最もノイズの少ないものである。
MAPの観測計画は2年間の予定だったが、最終的に8年間にまで延長され、2006年3月には "New Three Year Results" が発表された。
2010年9月8日に運用を終了した。
◆◆観測成果
WMAP は多くの宇宙論パラメータについて、過去の観測装置で得られた値よりも高い精度での測定を行った。現在の宇宙モデルによれば、WMAP の 1st-year のデータから各宇宙論パラメータは以下のように求まる。

◆宇宙年齢は137億年。正確には (13.7 ± 0.2) ×10の9乗 年である。
◆宇宙の大きさは少なくとも780億光年以上。
◆宇宙の組成は4%が通常の物質、23%が正体不明のダークマター、73%がダークエネルギーである。このことからいわゆるΛ-CDMモデルと呼ばれる宇宙モデルとの一致が確認された(3rd-year の結果では各々 4%, 24%, 72% がベストフィットであり、ほとんど変化がなかった)。
◆インフレーション宇宙論のシナリオは観測と一致している。ただし大きい角スケールには現状では説明のつかない不一致が見られる。
◆ハッブル定数は (71 ± 4) km/s/Mpc。
◆WMAP のデータに現在の宇宙モデルの理論を適用すると、この宇宙は永遠に膨張を続けるという結果になる。
◆WMAP の観測は、自由電子が原子核に取り込まれ宇宙が中性化した時期の結果である。その後の天体形成により再電離が起きる。この時期は CMB の偏光から解析でき、1st-year では赤方偏移で z=20 という非常に早い時期という結果が出た。これはビッグバンから約2億年後に相当する。
その後、3rd-year では z=11(約4億年後)に修正された。
◆宇宙背景マイクロ波放射の観測から宇宙の年齢が正確に測定された
【2003年2月】
NASAのマイクロ波観測衛星WMAPの観測により、宇宙のもっとも初期の姿が捉えられた。この観測により、宇宙の年齢が137億年であることも高い精度で求められた。
ビッグバンによって宇宙が誕生した直後に発せられた光は、現在は宇宙背景マイクロ波放射として観測される。このマイクロ波は絶対温度2.73度で全天に広がっているが、その温度にわずかに揺らぎがある。揺らぎは100万分の数度というひじょうに小さいものだが、WMAPが1年かけて全天の揺らぎを正確に観測したのだ。

▲全天の温度の揺らぎを示した観測結果の図。青は2.73度より低温の部分、赤は高温の部分を表している(提供:NASA/WMAP Science Team)
今回測定された揺らぎを再現するようにモデルのパラメータを選ぶことで、宇宙の年齢や進化のようすを正確に調べることができる。モデル計算の結果、宇宙の年齢は137億年であることや宇宙誕生からわずか2億年後に最初の星が輝き始めたことなどが明らかになった。
2001年6月に打ち上げられたWMAPは、今後さらに3年間かけてマイクロ波の観測を続ける予定だ。ビッグバン直後の宇宙の状態や、宇宙の約4分の3を占める謎に包まれた「ダークエネルギー」の性質について、新しいデータをもたらしてくれると期待されている。
なお、WMAPのWは、昨年亡くなった天文学者David T. Wilkinsonにちなんでつけられたものだ。Wilkinsonは宇宙背景放射に関する研究の草分け的存在で、1989年に打ち上げられた宇宙背景放射観測衛星COBEの計画にも参加していた人物である。
◆宇宙磁場の起源、解明へ
~ 宇宙初期の密度ゆらぎと化石磁場 ~
【2006年1月】
国立天文台、プリンストン大学、東京大学などの研究者からなる研究グループは、宇宙初期の物質分布のむらである密度ゆらぎが、宇宙で観測されている磁場の有力な起源である可能性を明らかにしました。
宇宙では星・銀河・銀河団など様々なスケールで磁場の存在が観測されています。これらの磁場は宇宙での構造の形成や宇宙線の加速、天体からのX線やガンマ(γ)線の放射などにおいて重要な役割を果たしています。しかし、「宇宙磁場がいつ・どのようにして生成されたのか」という問題はこれまで宇宙の大きな謎の一つでした。

▲WMAPによって観測された宇宙背景放射の温度揺らぎ。(右下の図のスケールは4.2億光年×4.2億光年。温度の平均値からのずれは最大±200μK程度。温度揺らぎが存在する場所に磁場が生成されます。)クリックで拡大(提供:NASA/WMAP Science Team, 花山秀和(東京大学))
研究グループが磁場の起源として着目したのは宇宙初期に存在した密度ゆらぎです。ビッグバン直後の宇宙は高温・高圧の状態で、陽子・電子・光子がバラバラに存在しており、それらの粒子の分布にはわずかな密度のゆらぎ(むら)がありました。その中では、電子は密度ゆらぎによって生じる光子の流れにひきずられますが、電子よりずっと重い陽子はあまりひきずられません。そのため、電子と陽子の運動の間にはずれ、すなわち電流が生じ、その周りにはアンペール-マクスウェルの法則により磁場が発生します。
研究グループはこの磁場の生成メカニズムの理論的な定式化を行い、密度ゆらぎ中での電子・陽子・光子の運動をコンピュータを用いて計算することにより、生成される磁場の強さを精密に予測することに初めて成功しました。そして、密度ゆらぎによって生じる磁場の強さが、宇宙磁場の有力な起源として十分な強さであることを明らかにしました。
◆宇宙で超巨大な「ボイド(空洞)」が見つかった
【2007年9月】
電波の観測から、約10億光年にわたって何もない領域が見つかった。そこには星や銀河はもちろん、ガス、そしてダークマター(暗黒物質)さえ存在しない。大きなスケールで見れば、宇宙には泡のように「空洞」が連なっていることが知られているが、今回見つかった「空洞」のサイズはけた違いだ。

宇宙にはほとんど物質が存在しない「ボイド(空洞)」が存在し、膜のように分布する銀河団とともに、泡が積み重なったかのような「大規模構造」をなしていることはよく知られている。ビッグバンで誕生して間もない宇宙には、場所によってわずかなゆらぎ(温度差)があり、それが大規模構造へ発達していったと考えられている。
典型的なボイドは1億光年スケールの大きさがあるが、今回見つかった巨大ボイドの大きさは桁が1つ違う。これほど大きなボイドは、今まで見つかったことがないのはもちろん、ビッグバンから大規模構造が形成されるまでの過程をコンピュータでシミュレーションしても再現できないという。直径は10億光年弱で、地球から60~100億光年の距離にある。
そんな巨大ボイドの存在が浮かび上がってきたのは、2004年にNASAのマイクロ波観測衛星WMAPがエリダヌス座付近の宇宙背景放射(解説参照)を撮影したときだった。
宇宙背景放射には、「ゆらぎ」と呼ばれるように方向によってわずかな温度差がある(波長の違いとして観測される)が、エリダヌス座には目立って温度が低い領域があったのだ。「コールドスポット(冷たい場所)」と名付けられたこの領域の異常は、果たして宇宙初期のゆらぎなのか、途中で何者かの影響を受けた結果なのかは、謎とされていた。
議論を大きく前進させたのは、米国国立電波天文台(NRAO)の超大型電波干渉計(VLA)による観測だった。VLAは広い範囲の空について、銀河が発する電波を撮影していたのだが、「コールドスポット」と同じ領域に銀河が存在しないことを突きとめたのである。
「何もない」ことが通過する背景放射に影響を与えるのはなぜだろう。その原因となっているのは、「ダークエネルギー」である。
宇宙には「観測できる物質とエネルギー」のほかに、決して観測できない「ダークマター(暗黒物質)」や「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が存在する。とくにダークエネルギーは重力とは逆の反発作用、「斥力」として機能していて、それが宇宙の膨張を加速させているらしい。加速膨張する宇宙では、物質が集まった領域を通過した背景放射は、温度がわずかに高く観測される。しかし、巨大ボイドを通過した背景放射は、物質が存在しない分温度が低く観測されるというわけだ。
これまでに登場した宇宙背景放射とそのゆらぎ、ダークエネルギーの存在(宇宙膨張加速の発見)などは、宇宙論を根本から変えてきた発見である。
今回見つかったボイドも、本物であれば、そのサイズ同様、宇宙論に大きな影響を与えそうだ。
◆WMAPの最新全天マップ公開、宇宙の10%はニュートリノだった
【2008年3月】
NASAはマイクロ波観測衛星WMAPが5年間で得た全天マップの最新版を公開した。宇宙年齢38万歳の宇宙では、宇宙ニュートリノが10%を占めていたことなどが示された。これから仮説の淘汰が進むなど、宇宙論はますます熱くなりそうだ。
WMAP(ウィルキンソンマイクロ波異方性探査機)が5年間で得た観測データが米国東部時間2008年3月7日に公開された。初期宇宙の密度ゆらぎを反映した全天の温度分布マップが最新版に更新され、研究者の間では最新データにもとづく新たな議論が始まっている。

▲WMAPの5年間のデータから描かれた高角度分解能の温度ゆらぎの全天マップ。わずかに高温な領域が赤、わずかに低温な領域が青で示されている。クリックで拡大(提供:NASA / WMAP Science Team)

▲宇宙の組成比、上は現在、下は宇宙誕生38万年の時点の組成比。クリックで拡大(提供:NASA / WMAP Science Team)
私たちのもとに到達する宇宙最古の光は、宇宙年齢38万歳(光子が電子に邪魔されずに進めるようになった「宇宙の晴れ上がり」の時点)における温度約3000K(補足参照)の放射であるが、その後の宇宙膨張によって現在では平均2.725Kの宇宙マイクロ波背景放射として観測される。WMAPは宇宙のあらゆる方向における宇宙マイクロ波背景放射の強度を精密に測定し、方向によるごくわずかな異方性(温度ゆらぎ)をとらえ、「宇宙の晴れ上がり」の時点における宇宙の姿を明らかにしてきた。
3年間分の観測データからは、宇宙年齢が137億歳と精度良く求まった。
NASAは、今回新たに公開された5年間分の観測データから、少なくとも3つの新しい知見がもたらされるとしている。
◆1つめは、宇宙年齢38万歳の時点において、宇宙ニュートリノが宇宙の組成の10%を占めていたということだ。当時の宇宙の組成はこの他に、原子12%、光子15%、ダークマター(暗黒物質)63%だったということが示された。
温度ゆらぎの空間分布パターンは、宇宙の幾何学的性質、宇宙の組成、密度ゆらぎの初期分布などを反映したものであり、宇宙論パラメータの観測的な証拠となるものだ。パターンを分析すると、楽器の弦をはじいたときのように、初期の宇宙に「固有の音階」が強くこだましていることがわかっている。5年間分のデータからは、初めてその第3倍音にあたるピークがはっきりととらえられた。このことは、初期宇宙の宇宙ニュートリノに関する情報をもたらしている。

▲温度ゆらぎの空間分布パターンを分析した結果。マップに含まれるまだら模様の大きさ(天球上の離角)と、模様の明るさ(温度変化の極端さ)を表している。第2と第3のピークは大きな第1ピークの倍音にあたる。第3のピークは今回のデータからはっきりした。実線は、観測結果に一番近い理論曲線。クリックで拡大(提供:NASA / WMAP Science Team)
◆2つめは、宇宙の暗黒時代が終わった時期が示唆されることだ。電子が自由を奪われ光子が直進できるようになった「宇宙の晴れ上がり」の時点から、宇宙最初の世代の星が誕生しその放射により周囲の原子から電子が再び自由になって「宇宙の霧」となるまでには、4~5億年はかかったようだ。
◆3つめは、急激な加速膨張で宇宙の平坦性などを説明するインフレーション宇宙モデルに関して、今回のデータから制約条件を課すことができるということだ。現在仮説として乱立しているさまざまな理論は淘汰が進み、今後整理されていくことになりそうだ。
WMAPの観測データは、現在の宇宙の大半を占めているダークマターやダークエネルギーの正体を解き明かす上で貴重な鍵となる。宇宙はどのように生まれそして現在の姿になったのか。人類による宇宙最大の謎解きはこれからも続いていく。
(補足)K(ケルビン)は絶対温度の単位。摂氏温度に約273.15を加えた数値。
◆99.996%の確率で、暗黒エネルギーの存在を証明
【2012年9月】
ドイツとイギリスの大学研究チームが、この宇宙の73%を占めると考えられている正体不明の暗黒エネルギーが99.996%の確率で存在するという研究成果を発表した。
10年前、遠方の超新星の観測から、宇宙が加速膨張していることが明らかになった。重力にさからって膨張を加速させているのは、宇宙の73%を占めるなぞの物質「暗黒エネルギー」である。2011年のノーベル物理学賞はこの功績に対して送られたものだが、暗黒エネルギーの存在そのものについては今も議論の余地がある。

▲銀河分布とCMBの分布の観測データを殻状に視覚化したもの。右図中、左から右へ行くほど、時間をさかのぼる。より銀河の集まっている密度の高い領域は赤、より密度の低い領域は青で示されている。クリックで拡大(提供:NASA/BlueEarth; Milky Way: ESO/S. Brunier; CMB: NASA/WMAP)
これまでにさまざまな手法で暗黒エネルギーの本質に迫る観測が実施されてきたが、いずれも宇宙の加速膨張を間接的に調べるものであり、また不確実性の影響を受けやすかった。
その存在に関する確実な証拠を初めて理論で示したのが、「ザックス・ヴォルフェ効果」である。その名前は、Rainer Kurt Sachs氏とArthur Michael Wolfe氏に由来する。
ビッグバンの熱の名残として現在の宇宙を満たし、宇宙の全方向からほぼ均等にやってくるマイクロ波を「宇宙マイクロ波背景放射」(CMB)と呼ぶ。Sachs氏とWolfe氏は1967年、物質の密度が濃く重力の強い領域を通過する光がかすかに青く(波長が短く)なると提唱している。
1996年、Robert Crittenden氏とNeil Turok氏(現・カナダのペリメーター研究所)は、この考え方をさらに発展させた。彼らは、CMBの温度分布図と近傍宇宙の銀河地図とを比べることによって、光のエネルギーのわずかな変化を見ることができるはずと提唱したのである。暗黒ネルギーが存在しないなら、はるか遠方宇宙から届くCMBの分布と近傍宇宙の銀河分布とは対応しないはずで、存在するのなら、CMBの光子が重力の強い領域を通過する際にエネルギーを得るのだという。
そして2003年、ザックス・ヴォルフェ効果が初めて検出されて暗黒エネルギーの存在が示され、その研究成果は米誌「サイエンス」にも掲載された。しかしながら、検出された値が小さく、CMBの温度分布図と近傍宇宙の銀河地図との間の相関関係も薄いと見られたため、複数の研究者が天の川銀河内にあるちりによってもたらされた誤差ではないのかと指摘した。ザックス・ヴォルフェ効果に対しては、効果の検出そのものを疑問視する研究者もおり、暗黒エネルギーを立証するこれまでで最も強い証拠さえも疑問視されることなったのである。
今回の研究成果
独・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンと英・ポーツマス大学の研究チームは、比較に使う分布図を改良し、2年にわたる研究でザックス・ヴォルフェ効果の検出に対するすべての疑問を吟味した。その結果、99.996%の確率で暗黒エネルギーが存在し、さらに暗黒エネルギーがCMBの温度分布図上のより温度の高い領域の原因となっていると結論づけた。
研究に利用されたのは、銀河分布とCMBの分布の観測データを殻状に視覚化したものだ(画像)。データを取得したマイクロ波観測衛星WMAPの観測限度である460億光年先までのCMBを段階的に示している。研究チームは、より現在に近い殻状図とCMBの殻状図との間にわずかな相関関係を検出することに成功したのである。
研究チームのTommaso Giannantonio氏は「今後行われるであろう、CMBと近傍銀河の次世代サーベイによって、暗黒エネルギーの決定的な計測が行われるはずです。またその成果には、一般相対性理論の確認も含まれるでしょう。さらに暗黒エネルギーを含め、どのように重力が働くのかについてなど、すっかり新しい解釈を必要とするような成果がもたらされることでしょう」と話している。
◆宇宙論分野に貢献したマイクロ波観測衛星「WMAP」観測終了
【2010年10月】
NASAのマイクロ波観測衛星WMAPは、宇宙最古の光である宇宙マイクロ波背景放射の測定を2001年に開始、宇宙の歴史や構造に関する研究分野に大きな貢献を果たしてきたが、9年間続けてきた観測にピリオドを打つこととなった。
1992年、NASAの宇宙背景放射探査衛星COBEは、宇宙が誕生した直後に発せられたビッグバンの残光であり、現在は宇宙マイクロ背景放射として観測されるマイクロ波を初めて検出した。COBEの後継機であるWMAPは宇宙マイクロ背景放射の温度のわずかなゆらぎを精密に計測できるよう設計され、2001年に打ち上げられた。
そのWMAPは今年8月20日に最後の観測データを取得したあと、9月8日にエンジンの噴射を行ってこれまでの軌道から太陽のまわりを回るパーキング軌道に投入され、ミッションを終了した。
WMAPのミッションによって、137.5億歳という宇宙の年齢が明らかにされた。その誤差は1パーセントほどと考えられており、「宇宙の年齢をもっとも正確に計測した」としてギネス記録にも載っている。

▲WMAPの7年間のデータから描かれた、137億年前の温度の「ゆらぎ」の全天マップ。温度のムラが種のようなものとなって、やがて銀河へと進化していったと考えられている。クリックで拡大(提供:NASA)
またWMAPの観測データは、今日の宇宙を構成する物質のうちたった4.6パーセントが通常の原子であること、残る大部分は実体のわからない2つのものが占めていることを明らかにした。
そのうちの1つは、いまだ未検出で宇宙の23パーセントを占めるといわれているダークマターだ。もう1つのダークエネルギーは宇宙の72パーセントを占めており、WMAPがその存在を確認したが、重力とは逆に斥力を働かせるこのエネルギーの正体はいまだ不明である。
宇宙は誕生から1兆分の1秒後に急激な膨張の時期を迎えたと考えられている(インフレーション理論)が、WMAPはそのような膨張が起きたことを支持する精密な計測データを得て、インフレーション理論のシナリオ確立にも大きく寄与した。
米・ワシントンD.C.にあるNASA本部でWMAP計画の責任者をつとめているJaya Bapayee氏は「WMAPは、宇宙の基本的なパラメータに関する決定的な計測データを提供してくれました。今後も理解を深めるためにデータは活用され続けることでしょう」と話している。












