地質時代・・先カンブリア時代 冥王代
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冥王代(めいおうだい、英: Hadean eon)とは、地質時代の分類のひとつ。
地球誕生から40億年前までの5億年間を指す。太古代の前の時代である。
この時代に地球が形成され、地殻と海ができ、有機化合物の化学進化の結果、最初の生命が誕生したと考えられている。
化石以前に、岩石自体が非常に稀であり、地質学的証拠がほとんどない時代である。この時代の地層はないため、国際層序委員会ではこの名称を非公式として扱っている。実態が闇に包まれていることからギリシャ神話の冥界の神ハーデース(Hades)に因んで名付けられた。
非常に稀ながら、45億年前までの岩石は月で発見されている。地球最古の岩石はカナダの北西地域のアカスタの約40億年前の片麻岩、地球最古の鉱物は西オーストラリアのジャックヒルズのクォーツァイトに含まれる44億年前のジルコン、地球最古の地殻の痕跡はカナダのハドソン地域の片麻岩で、マントルからの分離は42億年前である。
冥王代を研究する方法
通常地質学で古代の研究を行うには、その時代に作られた地層や岩石を分析して情報を入手し検討する。しかし冥王代については上記のように当時の岩石が殆ど入手できない。1970年代までは地球の情報だけしか得られなかったため冥王代における地球の進化は分からなかったが、太陽系内の他の星や隕石を研究することによって実証的な議論ができるようになった。また太陽系の形成や、地球誕生時の状況については理論に基づくシミュレーションが行われている。地球や隕石の年代分析については、放射性元素の分解による生成物を定量して年代を計測する放射年代測定が用いられる。
地球と他の星の誕生の同一性
地球と隕石から「放射性物質ヨウ素129を起源とするキセノン129」が検出される。ヨウ素129は半減期が1600万年しかない短寿命の放射性物質であり、この元素が形成される超新星爆発のあと1億年程度でほとんど消滅する。すなわち地球や隕石が形成される少し前に、近傍で超新星爆発があったとされる。これは地球と隕石が同一箇所で同一時期に形成された可能性が高いことを示す。また隕石に含まれる各元素の量(元素存在度)を調べると、太陽の光球の元素存在度と良く一致する。地球は中心部に鉄主体の核を持つため、地上で手に入る地殻の元素存在度は上記太陽や隕石と異なるが、最初に地球ができたときの成分は太陽や隕石と同じであったと考えられる。このように太陽系の星は同時に同一の原料から誕生したとされる。
地球の誕生
太陽系を形成する物質は、宇宙空間に広がっていたガスや細かい塵などの星間物質であった。太陽系が形成される少し前に近傍で超新星爆発があった。爆発の衝撃が引き金となって星間物質の収縮が始まり太陽系の形成が始まった。力学的なシミュレーションによって、原始太陽系がガスや塵の状態から多数の微惑星(サイズは数kmからそれ以上)を経て惑星サイズまで成長するのに数百万年から数千万年かかったとされる。隕石の多くはこの時に生まれた微惑星のかけら(始原的隕石)である。太陽系形成が始まって10万から100万年で、現在の地球の軌道周辺には微惑星が衝突・合体して形成された数十個の「月から火星サイズの惑星胚(planetary embryo)」が生じ、各々の軌道を廻るようになる。
惑星胚のサイズが大きくなってくると重力が強くなり、衝突速度が大きくなる。シミュレーションによれば岩石質の微惑星が衝突する際、原始地球のサイズが月サイズ(現在の地球質量の1/100)であれば、衝突の衝撃で微惑星内に取り込まれていたガス成分が抜け出す衝突脱ガスが始まる。このガスが原始大気や原始海洋の元となったとされる。また原始地球のサイズが火星レベル(現在の地球質量の1/10)になると衝突のエネルギーで微惑星は融解する。現在の地球に微惑星が衝突すれば隕石は部分的に蒸発するようになる。
数十個の惑星胚はお互いの重力で軌道が乱れ、その結果軌道が交差して衝突を繰り返す。このレベルの衝突をジャイアントインパクトと呼ぶが、地球の形成時にいくつか起こったジャイアントインパクトの最後の衝突で月ができた。この時の衝突エネルギーは非常に大きく、衝突後の地球と月は双方とも全体が溶融状態にあった可能性が高い。放射性元素ハフニウム182に関する詳細な分析で、地球と月のマントルの形成が始原的隕石形成の約3000万年後であったと報告されている。また地球全体が溶融したため、核を形成する鉄とマントルとなるケイ酸塩成分の分離と鉄成分の地球中心部への沈降が起こり、現在見られる地球の層状構造が始まった可能性があるが、核の形成の時期や原因についてはいまだ議論が多い。
なお地球の年齢として、地球の岩石をウラン・鉛年代測定法で調査して45億年から46億年、隕石をウラン・鉛年代測定法やルビジウム-ストロンチウム法で分析して45.6億年という数値が出ている。
隕石重爆撃期
隕石重爆撃期とは、アメリカのアポロ計画で持ち帰った月の石の分析結果から判明した事件。約38億年から40億年前の短期間に集中的に大量の巨大な隕石が月に落下した。月の表面に黒っぽく見える「海」は、大きな隕石が衝突して月の地殻がえぐられその下のマントルが溶解して玄武岩質溶岩のマグマとなってたまった低地であるが、アポロ計画で持ち帰った「海」の石の年代分析を行った結果、形成時期が38億年から40億年前であることが分かった。地球は月のすぐ近くに存在し重力も大きいので、この時期に地球にも月と同等以上の隕石が落下したと考えられる。当時地表に地殻が形成されていたとしても、隕石落下の衝撃で破壊されてしまったため40億年より古い岩石はほとんど残っていないとする説がある。この時期に生命が存在していた証拠は無いが、もし存在したとすると巨大隕石衝突のエネルギーですべての海水が蒸発するような悪条件の中でも生き残ったことになる。生物の遺伝子分析によれば最も古い生物は熱に強い好熱菌や超好熱菌に分類されるので、隕石衝突を生き抜けたのかもしれない。
後期重爆撃期(英語:Late Heavy Bombardment, lunar cataclysm, LHBとも)とは、天文学・地球惑星科学において41億年前から38億年前の期間を指す言葉である。ここで言う「後期」とは星間物質の集積(衝突)による惑星の誕生・成長(en:planetary accretion)の時期を前期とし、惑星形成後の衝突を示したものである。
この時代には月に多くの隕石衝突によるクレーターが形成され、地球・水星・金星・火星といった岩石惑星も多くの天体衝突を受けたと考えられている。後期重爆撃期の主な証拠は月の石の年代測定から得られたもので、天体衝突に由来する月面の溶融岩石の大部分がこの短い期間に作られたと示されている。
後期重爆撃期の原因については諸説が唱えられているが、広く合意を得たものはない。有力な説の一つとしてはこの時期に巨大ガス惑星の公転軌道が変化し、その影響で小惑星やエッジワース・カイパーベルト天体の公転軌道の離心率が上昇、一部が岩石惑星の領域にまで到達したというものがある。一方で後期重爆撃期の存在に懐疑的な見方もある。月サンプルの年代の偏りは見かけ上のもので、採取された試料が一つの衝突盆地に由来するとすれば後期重爆撃を仮定する必要はないというものである。
証拠
後期重爆撃期の主要な証拠はアポロ計画で集められた月の石の放射年代測定から得られた。天体衝突による溶融物の大半は、直径10 kmほどの小惑星や彗星が、直径数百 kmのクレーターを生じるような衝突を起こしたときに作られたと考えられている。アポロ15・16・17号の着陸地点は、この種の衝突盆地である「雨の海」、「神酒の海」、「晴れの海」の近くが選ばれた。
計画で持ち帰られた溶融物を分析したところ、形成年代が38億年前から41億年前の短い期間に集中していることが判明した。1970年代中ごろにこの事実に最初に気づいたのは、フアド・テラ (Fouad Tera)、ディミトリ・パパナスタシュー (Dimitri Papanastassiou)、ジェラルド・ワッサーバーグ (Gerald Wasserburg) らだった。彼らは今から39億年前に前後して月で隕石の衝突頻発が急増したという仮説を提案し、この事件を「lunar cataclysm(月の大激変)」と呼んだ。これらの溶融物が本当に3つの衝突盆地に起源を持つものならば、3つの主要な盆地が短期間に形成されたことに加え、層序学的観点から見て他の多くのクレーターや衝突盆地もこの短期間に作られたという証拠となり得た。
後期重爆撃仮説は発表当時は確証には至らなかった、月から飛来した隕石などのデータが蓄積されるにつれ次第に広く受け入れられるようになった。月隕石は月面のランダムな地点に起源を持ち、少なくともその一部はアポロの着陸地点から離れたところに由来するはずだった。長石を多く含み、月の裏側から飛来した可能性のある隕石の年代測定が行われたが、その中に39億年より古いものは存在せず、仮説と一致していた。ただし形成年代はアポロの月の石ほど短期間に集中しておらず、25億年前から39億年前の間に分散していた。
クレーター直径の分布の調査によると、後期重爆撃期には月と水星に同じ系列の隕石が衝突した可能性が示されている。水星の重爆撃期が月と同様だったと仮定すれば、水星最大の衝突盆地「カロリス」は同様の月面地形「東の海」や「雨の海」に相当し、水星の全ての平地は今から30億年前以前に形成されたことになる。
反論
後期重爆撃期仮説は、その原因の説明を試みている力学研究者を中心に高い注目を集めているが、仮説の正しさには議論の余地も残されている。主な批判としては次の2つがある。
- サンプルとして一つの衝突盆地からの放出物を偏って採取している可能性があり、衝突年代の集中は人為的なものかもしれない。
- 41億年前以前に形成された衝突溶融物が存在しないのは、そのような岩石が粉砕されたか、形成年代をリセットされたためかもしれない。
1つ目の批判は、アポロ計画の着陸地点で採取された衝突溶融岩の起源についてである。溶融物は単純に近くの衝突盆地に由来すると仮定されたが、実は大部分は雨の海に起源があるのではないかという議論が存在する。雨の海は月の表側の中央付近に位置し、多重リング盆地としては巨大かつ遅い時期に形成されたものである。数値モデルによるとアポロ計画の着陸地点全てに雨の海からの放出物が相当量存在する可能性がある。つまりこの説によると、溶融物の形成年代が39億年前に集中しているのは、39億年前のひとつの衝突に起源を持つ物質を偏って集めているためということになる。
2つ目の批判は41億年前以前の月の溶融岩石が存在しないことに関するものである。後期重爆撃仮説は、この時期に天体衝突が頻発し月の地殻年代がリセットされたとしているが、衝突を仮定せずにこの事実を説明することもできる。例えば、月には41億年より古い溶融岩石が存在しているが、過去40億年に渡って続いた衝突の影響で年代がリセットされたと考えることもできる。また、古い岩石は一般的な放射年代測定の方法が使えないサイズにまで粉砕されている可能性もある。
地球への影響
地殻の形成への影響
後期重爆撃期が実在したとすれば、月だけでなく地球にもその影響が及んだと考えられる。後期重爆撃が提唱される以前は、地球は形成から38億年前まで全体が溶融し続けていたと考えられていた。38億年という値は地球上で発見された一連の最古の岩石の形成年代で、この時期に明確な断絶があることが示唆されていた。高精度かつ周辺環境に影響されにくいジルコンに対して行うウラン・鉛年代測定法(U-Pb法)を含め、様々な年代測定法が試されたが、38億年という値はほとんど不変のものだった。より古い岩石は発見されないことから、この時点まで地球は溶融した状態が続いていたと認識され、38億年前を最初期の地質時代の区切りとし、38億年前以前は冥王代と分類されていた。
現在では40億年前やそれ以前の岩石が発見されており、最古のものは42億8千万年前の海洋地殻を形成していたと考えられている岩石でカナダ北東部ケベック州で見つかっており少なくともその頃には海が存在していた。さらにはオーストラリアのジャック・ヒルで44億年前に形成されたと推定されるジルコン結晶が発見されている。これらから原始地球はかなり早い時期に冷えて固まったのではないかと推定されている。また冥王代の区切りも40億年前に変更された。
南極大陸で発見された隕石にはより古い岩石も含まれている。それらの形成年代にも明確な断絶があり、46億年より古いものは見つかっていない。これは、原始太陽の周りの原始惑星系円盤で最初の固体物質が作られた時期を反映したものと考えられている。したがって冥王代は、最初の岩石が太陽系に生成した46億年前からその7億年後に地球が固化するまでの期間とされている。この時代には、原始惑星系円盤から惑星が誕生し、重力ポテンシャルエネルギーを解放しながらゆっくりと冷却していく過程が含まれている。
岩石惑星が冷却し表面が固化するまでの時間は天体のサイズに依存し、地球の場合は1億年と計算されている。これは前述の7億年と大きく食い違っているが、後期重爆撃期仮説はこの問題を解決することができる。つまり38億年前の最古の岩石は、一旦は完成していた地球地殻が38億年前ごろの激しい天体衝突でほぼ完全に破壊され、その後再び固化した時代のものとすれば矛盾を解消できるのである。
この考え方は冥王代の地球像に大きな変化をもたらした。古い参考書では、冥王代の地球はどろどろに溶けた表面を持ちいたる所に噴火口を持つ「地獄のような」惑星として描写されていた。しかし現在では、この時代の地球は固体の地表と穏やかな気候を持ち、強い酸性ながら海も存在していたと考えられている。現存する最古の地球岩石が形成される以前に、既に水ベースの化学反応が起きていたことが複数の同位体比の観測から示唆されているが、このことは新しい地球像の裏付けとなっている。
生命への影響
1979年、マンフレート・シドロウスキー (Manfred Schidlowski) は、グリーンランドに見られる堆積岩の炭素同位体比に生命の痕跡がみられると主張した。問題となった岩石の形成時期については論争があり、シドロウスキーは38億年前を、他の研究者は36億年前を提唱した。後期重爆撃期と地殻の「再溶融」を考えると、生命は後期重爆撃期の直後に誕生したか、あるいは、冥王代初期に誕生して後期重爆撃期を生き抜いたと考えられる。近年、シドロウスキーの発見した堆積岩の形成年代は考えられる範囲で最も古い38億5,000万年前らしいという結果が出ており、生命は重爆撃期を生き抜いたという説が有力になっている。シドロウスキーの岩石に関しては21世紀に入っても活発な議論が交わされている。
その後オーストラリアのジャック・ヒルズの岩石でも、同様の生命の痕跡らしきものが発見された。ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学付属鉱物学研究所のトーステン・ガイスラー (Thorsten Geisler) は、42億5,000万年前のジルコン内にダイヤモンドや黒鉛の小片として閉じ込められた炭素を研究し、炭素12対炭素13の同位体比が異常に高いことを明らかにした。これは生物活動の痕跡かもしれない。
現生生物が後期重爆撃期を乗り切った2系統の好熱菌(細菌の祖先と古細菌類の祖先)に由来する可能性も議論されている。
原因
いくつかの説が後期重爆撃の原因として提唱されているが、2009年時点では定説と呼べるものはない。
巨大ガス惑星の軌道移動説
ロドニー・ゴメス (Rodney Gomes) らは太陽系の巨大ガス惑星の初期配置を現在の配置より密集させた状態でシミュレーションを行い、巨大ガス惑星の軌道の変化が後期重爆撃の原因となりうることを示した。
シミュレーションでは惑星系の外部に密なエッジワース・カイパーベルト (EKB) を配置した条件が用意された。軌道を外れたEKB天体との重力相互作用により、ガス惑星の軌道は少しずつ変化した。すなわち、木星はわずかに内側へ、他の3つの惑星は外側へ、数億年をかけて移動する。そして移動の過程で、木星と土星が 1:2 の軌道共鳴に達すると、それまで安定だった惑星の軌道が著しく不安定になり、外惑星は短期間のうちに広い軌道間隔に再編され、再び安定な軌道に落ち着いた。
これらの過程で巨大惑星が移動する際、軌道共鳴帯は小惑星帯やEKBを横切ることになる。軌道共鳴の条件によっては、小天体の軌道離心率が上昇し、小惑星帯やEKBを飛び出して岩石惑星の領域まで飛来する可能性がある。
天王星・海王星の後期形成説
ハロルド・レヴィソン (Harold Levison) らは、太陽系外縁の物質密度が低いとその領域の惑星形成速度が大幅に遅くなることを示した。微惑星を扱ったシミュレーションの中には、天王星や海王星が数十億年という非常にゆっくりとした時間をかけて形成されることを示すものもある。形成速度によっては、これらの惑星が後期重爆撃時代の原因の候補となる。
ただしガス流と微惑星の暴走成長を組み合わせた近年の計算では、全ての木星型惑星が1,000万年単位の短期間で形成されるという結論も出ている。その場合は天王星や海王星は後期重爆撃期の原因とはならない。
第5惑星説
この仮説は小惑星帯よりやや内側の領域にかつて惑星が存在していたと仮定するものである。火星の一つ外側の軌道に相当するため、第5惑星とも呼ばれる。第5惑星は最初は真円に近い軌道だったが、後期重爆撃期に軌道不安定を起こし、小惑星帯を横切る楕円軌道に変化したと仮定される。多くの小惑星が軌道を乱されて内惑星帯に飛び込み、天体衝突率が増加したという説である。第5惑星は楕円軌道を取った末に、太陽に衝突するか太陽系外に弾き飛ばされたと考えられている。
◆原始生命体
原始生命体(げんしせいめいたい、羅: Protobionta、英: Protobiont)とは化学進化による生命誕生直後の状態を有する生命のことである。現在の研究では共通祖先は古細菌および細菌にそれぞれ進化したとされているが、共通祖先が誕生する以前の生命についても論じられており、そのような生命を『原始生命体』と定義する。記事の内容では共通祖先と重複する部分はあるが、時系列的には
という順番で進化が行なわれたと定義されている。なお、本記事では共通祖先では余り論じられなかった初期の生命の遺伝、代謝などの生化学について記述する。
原始生命体と共通祖先の具体的な違い
上記に述べているが、原始生命体と共通祖先の違いとは、第一に『定義されている時間がことなる』点である。ただし、この時間自体は柔軟に考えられ、ある程度の重複が存在したと考えられる。
また、共通祖先という概念自体はカール・ウーズが古細菌を発見し、3ドメインの系統樹を描いた結果、細菌と古細菌はもともと1つの系統から分化したという系統樹の結果から生まれたものである。一方、原始生命体は化学進化による生命誕生以降の細胞(あるいは生命としても良いかもしれない)を定義したものであり、その概念を生じた発想は異なる。
- 共通祖先:生物進化による生命の起源を論じた結果生じた概念
- 原始生命体:化学進化による生命の起源を論じた結果生じた概念
つまり、化学進化によるものがより古い部分を論じていることから、それらの論じている時間のずれが生じるという第一の違いとリンクされる。
また共通祖先はその生化学がほとんど論じられることは無く、遺伝的仕組みを有するか否か、のみが論じられ、それぞれ共通祖先を意味する異語が提案されている(コモノート、プロゲノート、センアンセスター、詳しくは共通祖先を参照)。一方原始生命体は科学的な実証が行なわれることは無いが既存の生物群より、その細胞の形態、代謝系、ゲノムサイズあるいは進化が論じられる。
原始生命体の細胞
生命の起源でも述べているが生命誕生を論じるうえではどのような物体が生命なのかということを定義しなければならない。生命の起源の記事では、
- 代謝系を有する。
- 細胞という形状を有する。
- 自己複製が可能である。
という上記の3点を有する物質が生命と定義された。したがって、原始生命体とはいえ上記の3点を有しなければ生命とはいえないとしたいところだが、表面代謝説に代表される生命の起源に関する多くの新説の提案よりこの定義すら曖昧になりつつあるのが現状である。
原始生命体の細胞、あるいはその生命のあり方は多くの提案がなされているが、オパーリンの提案したコアセルベート説によると、
が原始生命体に進化したとしている。ただし、どのようなミセルが生命となったかという点については、上記3点の定義を有するものとしている。
1988年にドイツ人弁護士ギュンター・ヴェヒターショイザーによって提案された表面代謝説では、
が原始生命体に進化したとしている。この表面代謝説では生命の定義として代謝系を有することと言うよりはむしろ、代謝系そのものが生命と考えられている。そして
- 吸着しやすい炭化水素(イソプレノイドアルコール)からなる膜脂質が表面代謝系ごと遊離したもの
が、細胞を有する生命が誕生したというモデルへとつながる。
東京薬科大学の大島泰郎教授によると、コモノート以前の生命は、
- 個体ゲノムは代謝系を構築できず、個体間同士の遺伝子産物の交換によって代謝系を構築していた
としている。この後、1つの細胞内に遺伝子が集合し個体内での完全なる代謝系を構築したものがコモノートへ進化したというモデルへつながる。この説は化学進化的考えよりはむしろ生物進化的考えに近いものがあるが、代謝系は遺伝的仕組みが成立していない複数の個体間で行なわれていたという点で原始生命体のあり方に信憑性を持たせた。
様々なフェーズの生命が原始生命体1つとっても論じられるが、やはり表面代謝や進化することが不可能な細胞間代謝によって形作られる生命の生化学を論じることは困難である。したがって、本項においては生命の定義3点を有する最初の生命を原始生命体とする。
代謝系
代謝系と一口に言っても、高等生物を含め極めて多様なものが既存の生物には存在している。しかしながらその最も基本的なものはエネルギー代謝系に他ならない。異化代謝(呼吸)および同化代謝の歴史を考えると、異化代謝のほうが早く成立したと考えられている。さらに、呼吸の中でも酸素呼吸よりも嫌気呼吸のほうが歴史が古く(酸素呼吸は硝酸塩呼吸から進化したとされている)、嫌気呼吸よりも発酵のほうが必要な酵素も少なくゲノムサイズの小さかった原始生命体に適していると考えられている。
- 光合成:約27億年前に成立
- 酸素呼吸:光合成よりも古い時代に成立(正確な年代は不明だが35億年前には成立していたと考えられる)
- 嫌気呼吸:酸素呼吸の祖先型であるとされている
- 発酵:解糖系を含めた最もコンパクトな代謝系、成立年代も早いと考えられる
発酵は全生物がその代謝系を有し、生物の単系統を論じることが既に可能となる。最終産物の名称によって発酵の名称は異なるが、その中核となる解糖系はほぼ全生物で共通と言われてきた。
解糖系は、
- エムデン-マイヤーホフ経路(EM経路)
- エントナー-ドウドロフ経路(ED経路)
の2種類が存在する。ED経路ではNADP+を用いるなど細かい違いはあるがその共通点は、
- リン酸化された中間体を生じる
という点にある。しかしながら、古細菌の一部にはリン酸化された中間体を生じない特異な解糖系を有するものが見つかっている。糖をリン酸化する理由として
- 細胞外への物質の拡散を防ぐため
と考えられてきたが、古細菌の特異な代謝系はその考えも覆した。古細菌は原始生命体であると主張する表面代謝説では細胞外という概念の無い時代の名残であるという説明が可能である。
従属栄養か独立栄養か
原始生命体は炭素源として何を利用していたのかということも争点になっている。この点は生命の起源の項でも指摘済みである(従属栄養および独立栄養の詳細については栄養的分類を参照)。簡単に書いておくと
生命の起源以前の化学進化によるとユーリー-ミラーの実験でも示されたように、高温および火花放電などのエネルギーを加えることによってアミノ酸など有機物が蓄積していくモデルはすでに成立している。また地球形成過程で降り注いだ隕石中には既にアミノ酸、糖などの生命を形作る有機物が見つかってきている。オパーリンは原始生命体は原始海洋中に既に存在していた有機物を代謝する従属栄養生物であったとしている。
一方、近年の説では原始生命体は独立栄養的であったする説が多く、これは主に1970年代に深海熱水孔で化学合成独立栄養細菌群に依存する(太陽エネルギーに依存しない)独自の生態系を発見したことによる。地球成立当初は太陽エネルギーに乏しく、海底の大半が熱水孔のような状況にあったと考えられている。ヴェヒターショイザーは原始生命体は独立栄養生物であり、糖新生系の逆反応がそのまま解糖系になり従属栄養生物に進化したと考えている。
原始地球のエネルギーの出所を考えると地球内部からの熱エネルギー、火花放電、ガスの放出などがあげられるが、この全てがこの論争のよりどころになっているためどちらが先に登場したかという点については意見が分かれるところである。一方、生物進化の観点から見ると系統樹上、根が深い生物群はそのほとんどが化学合成独立栄養的に生育し、好熱性を示すという結果が出ている。
ゲノムサイズ
原始生命体のゲノムサイズを考えるということは、そのまま『生命とは何か』という命題への証明に他ならない。つまり生命の有する最小のゲノムを考えるということである。原始生命体が『最小のゲノム』を有していたと決め付けるには早計といわざるを得ないが、系統樹上、根の深い生物群のゲノムは小さい傾向にある。
最小のゲノムを有する現存の生物は、ドメイン細菌のCandidatus Carsonella ruddii(ゲノムサイズは15万9662塩基対)である。この数字は既存の生物の中では桁違いに小さく、一部の葉緑体ゲノムよりも小さい。この生物はアブラムシの細胞内に共生、しかも世代を超えて垂直伝播することから、細胞小器官と細菌の境界に位置していると考えられる。代謝系の大部分を欠き、遺伝子関連の酵素も欠き始めている。
他の生物の細胞内に共生しているものを除いた自立している生物の中で最小のゲノムを持つ生物は、ナノ古細菌に属するNanoarchaeum equitans である(ゲノムサイズは49万塩基対)。この生物もクレン古細菌に属する超好熱菌 Ignicoccus hospitalisの細胞表面に付着して生活しており、厳密な意味で独立生活を送っているとは考えにくい。事実、アミノ酸、ヌクレオチド、脂質の代謝系のほとんどを欠いている。
また、完全独立生活を行なう生物で最小のゲノムを有するのは、ユーリ古細菌のMethanothermus fervidusである(ゲノムサイズは124万3342塩基対)。
Ca. C. ruddii を除くと、ドメイン細菌においてはマイコプラズマと言われる細胞壁を有しない特殊な微生物が最小のゲノムを有している(ゲノムサイズは56万塩基対)。こちらも独立生活を行なわず哺乳類の細胞内などに寄生し何らかの病症をホストに及ぼす。N. equitans ともに独立生活を行えないという点で厳密な意味での生命の定義から外れるが、単位膜系、代謝系、自己増殖能を持つという点では生命の定義には反しない。
また、代謝系から逆算して最低限のゲノムを類推することもなされているが、こちらは研究者によってまちまちで遺伝子数100〜300という結果が出ている。平均的な大きさの遺伝子は1000塩基対なので大体10万〜30万塩基対というところであり、N. equitans に近い値である。
進化
原始生命体の進化速度を考える上では以下の点について考える。
原始海洋中で生命は発生したと言うもの、生命誕生当時紫外線や宇宙線をさえぎるバリアーはほとんど存在しなかったと考えてよい。したがって変異原の存在は申し分なかったと考えても良い。
自己複製の際にゲノムの変異が入ることは微生物の世界ではよくあることだが、その頻度はそのまま進化速度の速さにつながるといってよい。古細菌は進化速度が遅いと言われているがDNAポリメラーゼに校正機能が付属している点も見逃せない。それほど複雑なサブユニットを構築できなかったであろう生命誕生当時、DNAポリメラーゼの機能は現在のものよりもはるかに劣るものであったかもしれない。
変異修復機能に関しては、全生物が等しく共有する酵素であるフォトリアーゼ(光回復酵素)がその証左となると考えられる。全生物が有する点から原始生命体もフォトリアーゼを有していたと考えられるが、そのことに言及した研究は意外に少ない。
ジーントランスファーは上記の大島の原始生命体モデルによれば大いに遺伝情報のやり取りが行なわれたと考えてよい。事実、現在でも頻繁に遺伝子の移動が行なわれている点を考えれば原始生命体にもそのような機構が存在したと考えて良いだろう。酵素の機能単位であるドメインあるいは構造単位であるモジュールに該当する遺伝子が盛んに移動を繰り返したとされる『エキソンシャフリング』はこの仮説に通じるものがある。
◆
| 開始年代 (年前) | 累代 | 代 | 紀 | 世 | 概要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1万1700年 | 顕生代 | 新生代 | 第四紀 | 完新世 | 人類の時代。更新世末に、大型哺乳類の大規模な絶滅。氷期と間氷期の繰り返し。大規模な氷河。日本海が拡がり、弓状の日本列島となる。 |
| 258万年 | 更新世 | ||||
| 533万3000年 | 新第三紀 | 鮮新世 | パナマ地峡形成、ヒマラヤ山脈上昇、寒冷化、氷床発達。ヒトの祖先誕生。 | ||
| 2303万年 | 中新世 | 生物相はより現代に近づく。アフリカがユーラシア大陸と繋がったことで両大陸間の拡散。インド大陸衝突。孤立している南アメリカとオーストラリアは、異なった動物相。日本海となる地溝帯が細長い海となり島(古日本列島)が誕生。 | |||
| 3390万年 | 古第三紀 | 漸新世 | 気候変動による大規模な海退。哺乳類の進化・大型化。日本列島に当たる部分は大陸の一部、後に日本海となる地溝帯が拡大。 | ||
| 5600万年 | 始新世 | 現存哺乳類のほとんどの目(もく)が出現。 | |||
| 6600万年 | 暁新世 | アフリカ、南アメリカ、南極大陸は分離。ヨーロッパと北アメリカはまだ陸続き。インドは巨大な島。絶滅した恐竜の後の哺乳類、魚類の放散進化。植物は、白亜紀に引き続き被子植物が栄え、この時代にほぼ現代的な様相 | |||
| 1億4500万年 | 中生代 | 白亜紀 | ジュラ紀から白亜紀の境目に大きな絶滅などはなく、白亜紀も長期にわたり温暖で湿潤な気候が続いた。恐竜の繁栄と絶滅。哺乳類の進化、真鳥類の出現。後期にかけて各大陸が完全に分かれ配置は異なるが現在の諸大陸の形になる。末期に小惑星の衝突が原因と推定されるK-T境界の大量絶滅。 | ||
| 2億130万年 | ジュラ紀 | パンゲア大陸がローラシア大陸、ゴンドワナ大陸へ分かれ始め、後期にはゴンドワナ大陸も分裂を開始。絶滅を生き残った恐竜が栄えた。被子植物の出現。有袋類、始祖鳥出現。ジュラ紀は現在より高温多湿で、動物・植物はともに種類が増え、大型化していった。 | |||
| 2億5217万年 | 三畳紀 | パンゲア超大陸、平原化、砂漠化。気温上昇、低酸素化。恐竜の出現。紀末に76%が大量絶滅。 | |||
| 2億9890万年 | 古生代 | ペルム紀 | ユーラメリカ大陸とゴンドワナ大陸が衝突し、さらにはシベリア大陸も衝突しパンゲア大陸へ。単弓類の出現。紀末に95%以上の生物種が絶滅。シベリア洪水玄武岩が原因か。P-T境界 | ||
| 3億5890万年 | 石炭紀 | ゴンドワナ大陸、ローレンシア大陸、バルチック大陸、ユーラメリカ大陸。シダ植物の繁栄、昆虫の繁栄、爬虫類の出現。 | |||
| 4億1920万年 | デボン紀 | 両生類の出現、シダ植物、種子植物の出現。紀末に海洋生物種の82%が絶滅した。 | |||
| 4億4340万年 | シルル紀 | 昆虫類や最古の陸上植物が出現 | |||
| 4億8540万年 | オルドビス紀 | オウムガイの全盛期で三葉虫のような節足動物や筆石のような半索動物が栄えた。甲冑魚のような魚類が登場。紀末に85%の種の大量絶滅。オゾン層形成。 | |||
| 5億4100万年 | カンブリア紀 | 海洋が地球上のほぼ全てを覆い尽くす、動物門のほとんどすべてが出現したと考えられている。「カンブリア爆発」と呼ばれる急激な生物多様化。 | |||
| 6億3500万年 | 原生代 | 新原生代 | エディアカラン | 多細胞生物の出現。エディアカラ生物群 紀末に大量絶滅。6億年前に雪球地球 | |
| 8億5000万年 | クライオジェニアン | 7億年前に雪球地球 | |||
| 10億年 | トニアン | ロディニア超大陸の分裂開始。 | |||
| 12億年 | 中原生代 | ステニアン | ロディニア超大陸の形成。大陸棚の拡大。シアノバクテリアの最盛期、酸素分圧(酸素濃度)が現在の10%以上まで上昇。真核生物の出現。代末に有性生殖発現。 | ||
| 14億年 | エクタシアン | ||||
| 16億年 | カリミアン | ||||
| 18億年 | 古原生代 | スタテリアン | 大陸がはじめて安定した(クラトン化)。最初の超大陸(ヌーナ大陸)出現か? 光合成により遊離酸素を放出する微生物シアノバクテリアの繁栄。大酸化イベントによる縞状鉄鉱層の形成。大部分の嫌気性微生物の消滅。ヒューロニアン氷期、22-23億年前に雪玉地球。全大陸にわたる造山活動。2回の最大級の小惑星衝突。 | ||
| 20億5千万年 | オロシリアン | ||||
| 23億年 | リィアキアン | ||||
| 25億年 | シデリアン | ||||
| 28億年 | 太古代(始生代) | 新太古代(新始生代) | 初期に全生物の共通祖先が現れ、細菌の祖先と古細菌類の祖先が誕生したと推定されている。藍藻(シアノバクテリア)の出現。始生代の微生物の化石(微化石)がいくつか見つかっている。 | ||
| 32億年 | 中太古代(中始生代) | ||||
| 36億年 | 古太古代(古始生代) | ||||
| 40億年 | 原太古代(原始生代) | ||||
| 46億年 | 冥王代 | 地球誕生、月の形成(ジャイアント・インパクト説)、隕石の後期重爆撃期。地殻と原始海洋ができ、有機化合物(生命前駆物質)の化学進化の結果、原始生命体が誕生したと考えられている。40億年前の岩石や44億年前の結晶が見つかっている。 | |||












